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新潟発アイドルNegiccoの成長ストーリーこそ、マーケティングの教科書だ [書評]

この本の評価は難しい。まず、Negiccoの成長ストーリーという物語として捉えれば、相当、楽しい本である。しっかりと丁寧に関係者へ取材をすることで、Negiccoの魅力、そしてなぜNegiccoが成功したのかを読者も知ることができる。その解説はなかなか説得力があるし、ストーリーとしても面白い。一方、コトラーのマーケティング3.0のまさに事例であると言われると、眉につばを付けてしまう。ちょっと、論理に飛躍があるんじゃないかなと思われる。マーケティングの参考になる事例であるのは間違いないが、果たしてコトラー本人に、これこそあなたが指摘したマーケティング3.0の事例ですよ!と言ったら、おそらく著者は、コトラーに「あんた分かっていないよ」と指摘されるような気がする。むしろ、いろいろと消費者が選択でき、関与する余地が多いAKB48の方がコトラーのマーケティング3.0の事例に近いようにも思われるのだ。


新潟発アイドルNegiccoの成長ストーリーこそ、マーケティングの教科書だ

新潟発アイドルNegiccoの成長ストーリーこそ、マーケティングの教科書だ

  • 作者: 川上 徹也
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: 単行本



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音楽家のカルテ [書評]

2004年から2007にかけて雑誌『SWITCH』にて掲載された椎名林檎のインタビュー6回分をまとめた単行本。ほとんどの『SWITCH』が手元にあるので、あえて買う必然性はないかなと思ったが、椎名林檎のお勧めCDのまとめ、またポートレイト写真がA5版でしっかりとハードカバーの本として整理されているのはとても有り難い。また、椎名林檎の思考の変遷を改めて一挙に読むと、彼女がどのように音楽家として進化したのかがよく分かる。おまけでついてきた絵はがき写真も気に入っています。1667円という値段の安さを考えると、ファンなら是非とも一冊は手元に欲しいところでしょう。


音楽家のカルテ (Switch library)

音楽家のカルテ (Switch library)

  • 作者: 椎名林檎
  • 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
  • 発売日: 2014/12/25
  • メディア: 単行本



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ゼロから始める日本酒入門 [書評]

この一年間ぐらい、日本酒の魅せられている私。しかし、あまり日本酒のことを分かっていない。一生懸命「夏子の酒」などを読んだりしているが、どうも年のせいか、なかなかしっくりと日本酒の良さを理解できていない。そのような私にとって、この本は相当、新設に日本酒の魅力を教えてくれた。本書は広尾の懐石料理、分とく山の料理長による日本酒の解説本。今さら、人に聞きにくい日本酒の知識を丁寧に解説してくれる。見開きのQ&Aで右側が解説、左側が図解という形式。日本酒の奥の深さを知り、その有り難みが増すような内容だ。読んだ後は無性に日本酒が飲みたくなる。


ゼロから始める日本酒入門

ゼロから始める日本酒入門

  • 作者: 君嶋哲至
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 単行本



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『東京高級住宅地探訪』三浦展 [書評]

大人の散歩、そして郊外研究が専門の著者が、郊外というか戦前において郊外住宅地として開発された東京の8つの地区(田園調布、成城、奥沢、山王、洗足、桜新町、荻窪、常盤台)を、楽しく散歩するための知識とコツを教えてくれるエッセイ。エッセイとはいえ、さすが郊外研究者であるため、いろいろとそれらの地区の開発経緯や歴史を丁寧に解説してくれている。そういう意味でなかなか楽しい本だ。文章も軽妙で、読んでいて楽しくなり、そして、何よりこれらの住宅地を今すぐにでも散歩したくなる。


東京高級住宅地探訪

東京高級住宅地探訪

  • 作者: 三浦 展
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2012/11/16
  • メディア: 単行本



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『リアル』14巻 [書評]

現代日本を代表するストーリーテラーの一人ともいえる井上雄彦。『リアル』は、その井上が描くストーリーの中でも、たいへんその後の展開を期待させる質の高いものとなっている。そして、本巻(14巻)では、高橋がいよいよ車いすバスケを始める。これまで、山を登り始めるための準備運動のような描写が長く続いたが、いよいよ清、高橋、長野等が車いすバスケの試合をする章へと展開していく。試合の描写になると、本当に驚くほど上手い。まるで素晴らしく腕のよいカメラマンが撮影したスナップショットのような描写によって試合を表現する技術は、右に並ぶモノはいない。話はいよいよ佳境を迎え、我々の興奮も高まっていく。ここ数年来でストーリーの展開はもっともテンポよく、気持ちよくそして軽い興奮を覚えつつ読み進めることができるのだが、一点、気になることは。それは前巻ぐらいから、絵が非常に雑になってしまっている。井上の人とは思えぬほどの神業ともいえる描写力が、最近、楽しめなくなったのはとても残念である。


REAL 14 (ヤングジャンプコミックス)

REAL 14 (ヤングジャンプコミックス)

  • 作者: 井上 雄彦
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/12/19
  • メディア: コミック



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ル・コルビジェの国立西洋美術館 [書評]

ル・コルビジェが日本で唯一、設計した国立西洋美術館の解説書。ただ、本書はアラカルト的にテーマごとに解説がされているので、その素晴らしさがどこにあるかが理解しにくい編集となっている。いや、おそらく大したコンテンツではないものを一冊の本にするために、随分と内容を膨らませたような印象を与える。著者はにとっては、コルビジェは神のような存在なのかもしれないが、普通の読者はそのような前提でこの本を読まない。どこが優れているのか、そこがどうも伝わりきれていなく、読後感はすっきりとしない。ただ、建築資料としては、それなりの意義があるだろう。この本で印象的だったのは、私は訪れたことがないのだが、彼のつくったチャンディガールの建物が、コルビジェの弟子ともいえるオスカー・ニーマイヤーがブラジリアで設計した建築に比べると、遙かに劣っているということだ。

日本人はコルビジェの建築が世界遺産に相当すると考えているが、私はこれに関しては相当、懐疑的に捉えている。コルビジェを日本人ほど過大評価している国民はいないからだ。案の定、世界遺産に応募しても落ち続けている。オスカー・ニーマイヤーのブラジリアが1987年という極めて早い時期に世界遺産に指定されたこととは本当に対照的である。日本人だからこそ出版された本と捉えられなくもない興味深い一冊だ。


ル・コルビュジエの国立西洋美術館

ル・コルビュジエの国立西洋美術館

  • 作者: 藤木 忠善
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2011/08/03
  • メディア: 単行本



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『ひまわり健一レジェンド』 [書評]

東村アキコのほぼ自伝である『ひまわり健一レジェンド』。超強烈な個性の持ち主である健一父は実父がモデル。奇天烈な行動のほとんどが、作者の創作ではなく、史実であるそうだ。同作品は、前半こそギャグがおとなしめであるが、徐々に加熱していき、話が続くにつれて、どんどんギャグの切れ味が鋭くなっていく。特に、関先生が出てきてから、作者のギャグの感性が全開されたかのようにリズミカルな流れになっていく。1巻から徐々に溜まっていったエネルギーは、最終巻の13巻ではスロットル全開という感じである。個人的にツボにはまっただけかもしれないが、笑いっぱなしである。つっこみ役の主人公以外は、もう奇人変人だらけで、目が離せない。特に、史上最悪キャラともいえるせつ子、BL漫画家関先生、副部長の猿渡の個性は強烈だ。その奇人変人の世界で、コミュニケーションが取れないゆえに生じる主人公を中心としたドタバタ劇。そして、ちょっとだけセンチメンタルなスパイスも入っている。

ひまわりっ ~健一レジェンド~(1) (モーニング KC)

ひまわりっ ~健一レジェンド~(1) (モーニング KC)

  • 作者: 東村 アキコ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/05/23
  • メディア: コミック



ひまわりっ ~健一レジェンド~(13) <完> (モーニング KC)

ひまわりっ ~健一レジェンド~(13) <完> (モーニング KC)

  • 作者: 東村 アキコ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/02/23
  • メディア: コミック



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超入門「コトラーのマーケティング・マネジメント」 [書評]

コトラーの『マーケティング・マネジメント』は希代の名著である。これは、マーケティングや経営を勉強、実践するものだけに限らず、ある意味、人類の遺産的な素晴らしい本であると思われる。さて、本書は、そのあんちょこ本である。ガイドブックである。しかし、『マーケティング・マネジメント』は原書はもちろんのこと、邦訳も優れているので、あえてあんちょこを必要としない。というか、そもそもあんちょこ本は、教科書が分からない人のための参考書であり、『マーケティング・マネジメント』はとても分かりやすいのであんちょこ本など必要とない。頁数が多いのが難ではあるが、別に無駄な要素もないので、読んで損になることはまったくない。本書を読んで、『マーケティング・マネジメント』を理解することはない。ただ、丁寧な目次を読んだ程度のことしか得られない。また、本書は『マーケティング・マネジメント』に比べると、読んでいてもつまらない。あのコトラーの本を読んだときのわくわく感を得ることはまったくできない。ということで、こんな本を読む暇があったら、コトラーの本を読むべきだと痛切に思わされた。買って、読んだ私が馬鹿だったと多いに後悔させられた本である。
超入門 コトラーの「マーケティング・マネジメント」

超入門 コトラーの「マーケティング・マネジメント」

  • 作者: 安部 徹也
  • 出版社/メーカー: かんき出版
  • 発売日: 2014/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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ル・コルビジェの「The City of Tomorrow」 [書評]

 日本人が現在でも大好きで、他国では本家フランスでも過去の人と思われているル・コルビジェの都市論。都市論としては、結構、興味深い考察がされていて参考になる。しかし、古典として読むべきものであり、現代の都市計画、都市デザインのメインストリームからは随分と温度差がある内容だ。まあ、経済学でいうところのマルクスの資本論みたいな位置づけかな。
 ル・コルビジェがこの本において都市を考察する視点は、すべて鳥のものであり人間ではない。つまり、空中から鳥瞰するものがほとんどであって、人が生活する地表レベルでのものはない。あったとしても、丘から眺望するような視点だけである。まあ、神様による都市計画という感じであろうか。そのような都市計画の考え方は魅力的である。私も、すごい権力を有していたら、そういうことをやってみたい。アラジンの魔法のランプが手には入ったら、少なくとも3個の願いのうちの一つに入れるであろう。
 しかし、現在というか21世紀は民主主義の時代である。民主主義は大衆が愚かだと非常に間違った方向に行く危険性を孕んでいるが、しっかり機能させることができれば、人間中心の素場らしい都市空間、都市デザインを実践できるというのはコペンハーゲンなどをみれば明らかである。そういう点で、このようなル・コルビジェ的な神はもはや死んでいるのだ。ニーチェじゃないが、都市計画の神的なアプローチ、すなわちル・コルビジェが提唱したモダニズムは死んでいるのだ。それに気づいていないのが日本人であり、現在でも大学一年の建築学科の授業ではル・コルビジェの偉大さが講義される(私の長女は某国立大学の建築学科の学生であるので、私はよく知っているのだ)。いや、偉大じゃないとまでは言わないけど、まあ、よくてカール・マルクスぐらいの位置づけですわ(実際はマルクスと比べられる水準ではないと思うが、そこらへんまではここでは妥協しておきます)。
 さて、この本は多くのレンダリングが描かれており、それらも面白いのだが、私にとって興味を惹くのは、これらが、とてもブラジリアをイメージさせることだ。ブラジリアはルシオ・コスタとオスカー・ニーマイヤーによってその骨格と主要施設はつくられた。ルシオ・コスタはコルビジェの友人であるし、コルビジェをブラジルに呼んだ張本人だし、ニーマイヤーはコルビジェのアトリエで仕事をしていたし、友人でもある。ブラジリアのアイデアを出すうえで、この本が与えた影響は大きいのだな、ということを推察させる。
 ちなみに、ブラジリアという存在が、この「The City of Tomorrow」が失敗であることを何よりも示しているというのは、ちょっと皮肉だ。1987年にブラジリアのプラノ・ピロートは世界遺産に指定されるが、これは本当に悪い冗談であると思われる。ブラジルの学者であるヘラルト・ノゲリア・バティスタは、「世界遺産としてのブラジリアは、それらを支持した人々の頭の中にしか存在していない」という(“Brasília: A Capital in the Hinterland” in Planning Twentieth Century Capital Cities, p.175, Routledge, 2006)。その指定は、パイロット・プランをただ神聖化しただけで、それを保全する手段に関してはまったく配慮されず、そして、ブラジリアの都市デザイン指針は、そこに住む人達によってことごとく修正されている。住むことの利便性、快適性を上回る都市のコンセプトを、多くの人々は受容しないのである。私はこうやって批判してはいるが、まだ、そのコンセプトの重要性を一般人よりかははるかに理解する建築的な知識と都市計画的教養を有していることを補完したい(私はザハ・ハディッドの新国立競技場を建築のリリシズムから評価しているし、あれに反対する人たちの気持ちはよく分かるが、槙さんに同調して反対している建築家の人たちを職能的には自殺行為だなとみているぐらいだ)。
 興味深いのは最後に「パリの改造」を提案していることであるが、コルビジェは果たして都市が好きなのか、という疑問さえ湧いてくる。まるで、既存の都市を親の敵のように破壊しようとしている。フランス人ではないので、パリに対しての愛着のようなものがないのかもしれないが、このパリの大破壊計画は凄まじいものがある。なんせ、土地の5%しか建物に使われず、残りは自動車用の道路と公園である。シャンゼリゼはより人が少なくなるだろう、とこの計画が実践された一つの成果として主張しているが、都市を魅力的にするのは、ヤン・ゲールの話を持ち出すまでもなく、人である。そして、人が多ければ多いほど、その都市空間は魅力を放つ。公園にはそうそう、多くの人は来ない。公園はある程度のプライバシー、パッシブなレクリエーションをする場であるからだ。都市のハッスル・アンド・バッスルといった魅力にコルビジェがほとんど価値を見出していないのは興味深い(とはいえ、ヒューマン・スケールに関しては肯定的に論じている。ただし、その文章の後に、広大なるオープン・スペースと高層ビルが林立しているスケッチが挿絵として載っているが)。
 ウディ・アレンは映画『ミッドナイト・イン・パリ』で主人公に、「時々思うけど、どんな小説も絵画も交響曲もパリにはかなわないよ。だってこの街はどの路地も大通りも芸術品だから」と言わせているが、コルビジェのこの「パリの改造」が本当に実現されなくてよかったと胸をなで下ろす。
 都市の価値を失わせるのは、他人に対する配慮のない傍若無人の振る舞いに人々が同調した時である。原発推進などにも、まさに、そのような傾向が見受けられる。 そういうことに気づかせてくれる本である。読む価値がないとは言わないが、昔はこんな考えも受け入れられていたんだな、ということを理解するぐらいのレベルで読むべき本だ。間違っても姿勢をただして、正座をして読むような本ではない。


ミッドナイト・イン・パリ [Blu-ray]

ミッドナイト・イン・パリ [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • メディア: Blu-ray




The City of Tomorrow and Its Planning (Dover Architecture)

The City of Tomorrow and Its Planning (Dover Architecture)

  • 作者: Le Corbusier
  • 出版社/メーカー: Dover Publications
  • 発売日: 1987/04/01
  • メディア: ペーパーバック



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『広告都市東京』 [書評]

気鋭の社会学者の12年以上前の作品に7年前の補遺を追加した文庫本。広告化されていき、消費社会のメディアとして80年代を風靡した渋谷に代表される都市空間が、既に死に体になっていることを、ハリウッド映画「トゥルーマン・ショー」の絶妙なる分析から説く。「唯一無比の渋谷性を背負った都市・渋谷は観光客向きの文化的幽霊としてならともかく、もう実在しない。どの郊外都市にもタワーレコードがあり、QFRONTがあり、公園通りがある。それは渋谷や池袋とまったく同じようにコスモポリタンだ」(p.155)。そして、筆者は広告都市が死に絶えた後、どのように我々は対処していくべきなのか。その処方箋のようなものを「はぐらかし」と照れつつも言及している。頁数は少ないが読み応えがある。補遺はクレヨンしんちゃんの「大人帝国の逆襲」の分析をもとに、コミュニティ論、シミュラークル論を展開しているのだが、これも十二分に読み応えがある。都市論、消費社会論に関心のある人は読んで決して損をしないであろう。
増補 広告都市・東京: その誕生と死 (ちくま学芸文庫)

増補 広告都市・東京: その誕生と死 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 北田 暁大
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 文庫



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永沢光雄『風俗の人たち』 [書評]

名著『AV女優』の著者が同書と並行して、雑誌『クラッシュ』にて、風俗界で働く人々に取材したルポルタージュをまとめたもの。女性だけでなく、男性をも取材している。文学的な詩情で、風俗という世界で生きる人達を、客観的でいながらも情を持った筆致で描く。『AV女優』もそうだが、この本の魅力は、著者の取材対象者に対する、距離をおきつつも、常に暖かい眼差しが行間から読み取れることである。1990年から1996年、ちょうどバブル華やかなりし頃から、その破裂、そしてそれに続く不況という世相もが、その取材からうかがえるという点で貴重な史料としても位置づけられる名著であろう。


風俗の人たち (ちくま文庫)

風俗の人たち (ちくま文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1999/10/21
  • メディア: Kindle版



タグ:永沢光雄
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角田光代『空中庭園』 [書評]

郊外研究者の雄である若林幹夫氏が、近著『モール化する都市と社会』において、郊外を分析するうえで本書を引用していたので、早速、注文して読む。郊外における欺瞞家族を照射する小説として出色の出来だけでなく、郊外に関心がない人が読んでもとても面白い。家族と父親の愛人を加えた6人の視点から見る郊外の団地に住む京橋家は、それぞれが微妙にずれている。そのずれが面白い。そして、最後まで真実が見えない。というのは、家族それぞれが、自分達の秘密を持っているため、家族の誰一人として全体像が見えていないからだ。しかし、6人の独白を聞くことができる読者のみが全体像、少なくとも6人が捉えている像を総合化することができる。そして、その全体像を知るとき、その闇の深さに、その荒涼とした風景にゾッとさせられるであろう。

京橋家のルールは「何事もつつみかくさず」。しかし、それは巨大なる秘密を隠すための仕組みであり、家族はそれぞれが「幸せな郊外家庭」を演じる役者のように振る舞う。その絶望的な空虚さと欺瞞。それは、顔面で幸せを表現していても、歩いている足下は細い綱の上で、しかもその綱は真っ暗で見えていないように不安定である。いつ、転げ落ちるのか。転げ落ちずに最後まで行くわけがないと思われるのに、それへの不安を無視して明日も同じ日常を続ける京橋家。このような小説に、思い切りシンパシーを感じるだけ、郊外家族の脆弱性は一般的になっているのではないだろうか。21世紀の日本版の『普通の人々』といっても過言ではない名作。私は大好きです。怖い話ですが。

空中庭園 (文春文庫)

空中庭園 (文春文庫)

  • 作者: 角田 光代
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/07/08
  • メディア: 文庫



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レッドアローとスターハウス [書評]

 西武線沿線の地域政治風土を、オタク的な執拗さで調べたことをまとめた本。「堤」対「五島」といった「西武」対「東急」という構図で、西武のユニークさを浮き彫りにする比較分析は、私のように西武沿線に23年、東急線沿線に8年間住んだものからすると興味深い。
 しかし、そのような西武沿線に住んでいない、もしくは比較対象の東急線沿線に居住していない人は、この本を読んでどの程度、興味を持つのかは正直、疑問である。
 事例研究としての西武線の地域政治風土から帰納的に、どのような知見や視座を獲得できるのか。むしろ、西武線沿線の特異性だけが浮き彫りにされる読後感を覚えるのは私だけではないような気がする。「赤旗まつり」の細かな経緯、また共産党の上田耕一郎の野方を中心とした中野での地域活動といった章は、西武線沿線の特異的な政治風土を描写する一つの面白い事件かもしれないが、一般読者にとってはちょっと冗舌な印象を受ける。本書は雑誌での連載をまとめたものなので、一回ごとの連載での字数を稼ぐためにそのように細かい情報まで書くことになってしまったのだろうが、せっかくの読書の集中力を削ぐようなものとなってしまい、その点は残念である。
 ただし、本書において著者は、少なくとも私にとっては興味深い視座を提供してくれている。特に、「西武線沿線の郊外は、アメリカ的な、あるいは資本主義的な郊外ではなく、ソ連的な、あるいは社会主義的な郊外との共通点が多い」といった筆者の考えは、興味を惹かれた。著者は自身の論点の根拠として、次のような例を挙げる。
・ 住民は、自動車よりも公共交通を指向した。例えば、1977年には「開店するはずだったイトーヨーカドー滝山店は、自治会の反対により計画が大幅に遅れ、80年になってようやく開店したものの、駐車場は許されなかった」。
・ 「清瀬コミューン」や「滝山コミューン」のような徹底したコミューンは、西武沿線以外には生まれなかった。
・ 西武沿線と日本共産党には1923年頃から深い関わりがあった。
・ 西武沿線につくられた滝山団地、狭山団地、久米川団地、ひばりヶ丘団地は、ソ連の集合住宅にそっくりである。
そして、まとめとして、著者は、西武沿線には、他の沿線にはない政治意識を生み出す「下部構造」があった、と自ら「いささか大げさ」であることを認めつつ指摘している。ちょっと引用させてもらう。
「ここには(西武沿線のこと。引用者注)、政治家や官僚、大手資本が住民を管理するための<上からの政治思想>にのっとってインフラが整備されるのではなく、逆に鉄道の利益独占や居住空間のさまざまな不備が、地域住民を主体として現状を改革してゆくための、<下からの政治思想>を不断に創り出すという、これまで語られることがなかった戦後思想史」の地下水脈が見いだせるのである」
 この著者の考えに興味を持たれれば、読む価値はあるかと思うが、繰り返すが、章によって密度の濃さが随分と違うので、その点、機会費用的にはあまりお勧めできないなとも思ったりする。


レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

  • 作者: 原 武史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: 単行本



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『大都市郊外の変容と「協働」』 [書評]

慶応大学総合政策学部の人口論の大家である大江守之教授と同僚の駒井正晶教授、そして、彼らのお弟子さんの論文集。全部で6編ある。どちらかというと、研究室の論文集を、文科省から研究費がもらえたので本にしてしまおう、というノリでつくったような印象を受ける。ただし、大江教授の弱体化したコミュニティを支えるための「弱い専門システム」論は読むに値する。ただの研究室の論文集を、金を払っても読んでもいいかなと思わせるだけの質の高さである。

具体的には、「大都市郊外地域における家族・コミュニティ変容と弱い専門システムの構築」という論文である。大江は次のように「弱い専門システム」を説明する。

「弱い専門システムは、まだ現実の社会の中には明確に存在せず、今後つくりあげていくシステムである。(中略)弱い専門システムは、弱い専門家と柔軟な育成システム、特定機能を有しないサービスを行う場、弱い保護と規制、弱い市場システムを持つ仕組みである。」(p.23)

そして、大学の研究者は「強い専門家」の一人であり、そこに存在価値を置いているが、「新しい問題領域に踏み込むためには、弱い専門家として現場に入っていき、そこから学ぶ、また学んだ成果を現場に返していく必要がある。」(p.26)と言及する。

私も大学の研究者の端くれとして、何か随分と勇気づけられる言葉である。また、コミュニティ・カフェの事例を「弱い専門システム」として紹介しているが、このケース・スタディも、コミュニティ・カフェを実践したものとしては大変興味深く読ませてもらった。


大都市郊外の変容と「協働」―「弱い専門システム」の構築に向けて (SFC総合政策学シリーズ)

大都市郊外の変容と「協働」―「弱い専門システム」の構築に向けて (SFC総合政策学シリーズ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 単行本



タグ:大江守之
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モール化する都市と社会 [書評]

現在の日本における郊外論の論客は西の三浦展、東の若林幹夫と私は勝手に捉えている。本書は、その若林の編著。執筆者は、若林を除くと80年前後に生まれた3人の若手研究者である。本書は、5つの章と序章と対談から構成されるが若林はそのうちの序章と1章とを執筆している。5つの章の内容は「玉川高島屋SCが登場するまでの経緯」、「戦後日本におけるショッピングセンターの系譜」、」「建築空間/消費空間としてのショッピングモール」、「ショッピングモールという空間の分析」、「商業施設における構造転換」といったものである。若林が担当した章のクオリティは極めて高いが、他は一生懸命、情報整理をしており、それなりに参考となる点もあるが、冗長な印象を受ける。とはいえ、著者等は相当数のフィールドワークを行っており、その調査の豊かさゆえの説得力を本書は有している。若林が対談のまとめて述べている「ショッピングモールは単なる民間商業施設ではない、社会性や公共性をもった都市空間になってきている」ことを、本書を読むと朧気ながらも理解できる。ショッピング・モールという都市の一構成要素が、拡張し、その影響力を巨大化させていく中、都市がむしろショッピング・モールに呑み込まれつつある。それは、なんか、自分から生じた別人格に自意識を乗っ取られるかのような、言いようのない不安を覚える状況である。


モール化する都市と社会: 巨大商業施設論

モール化する都市と社会: 巨大商業施設論

  • 作者: 若林 幹夫
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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「孤独のグルメ」 [書評]

今更ながら「孤独のグルメ」を読んだ。食事をするという行為は、生きていくための手段である。動物でも昆虫でも食事はする。しかし、狩猟生活を脱し、農業もせずに、はたまた主人公のように調理もしないで、外食をするという都市的な生活を営んでいるものにとって、食事というのは消費活動である。そして、この消費活動は、地理的、時間的、経済的な制約はあるかもしれないが、基本的には消費主体が選択をすることで、その選択如何によって食事の充実度も左右される。それは、また偶然的な要素も含まれ、それゆえに、一回一回の食事は、まさに一期一会のような緊張感とドラマを生むのである。そして、そのドラマを幾つかのエピソードでまとめたのが本書である。最初は、何でこんな本が面白いのだろう、という好奇心だけで読み始めたのが、すぐに嵌って一気に読み終えてしまった。外食という一見、過小評価されている行為が、とてもドラマチックなことであることが本書を読むとわかり、そのドラマがとても何というか共感を覚えるからである。作者が若い頃、泉昌之の名前で共著として書いたカレーライスの食べ方のエピソードを思い出すような内容だが、同じ、コンセプトであるが、随分と本書は洗練された作品になっている。元いた会社の同僚が、出張先で何を食べようか、と尋ねた時「何でもいいですよ。腹さえ満たされれば、それで十分ですから」と回答された時に、とてつもなくがっかりしたことがある。もっと、一回一回の外食を本気でもって選択する。その選択するというドラマを与えられたことを感謝しなくてはいけないな、と本書を読んで改めて思わされた。

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

  • 作者: 久住 昌之
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 文庫



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『成長から成熟へ』 [書評]

去年の10月に逝去された希代のコラムニスト、天野祐吉のおそらく遺稿。出版は11月20日だから、亡くなられてから1ヶ月近く経っている。さて、この新書であるが、最初は軽めのエッセイであろうと気軽に読み始めたら、極めて深淵で本質的な資本主義、経済成長、グローバル化、そして広告への批判に溢れていて、思わず襟を正してしまった。200頁ちょっとの新書という薄い本ではあるのだが、内容は濃い。政府の意見広報が間違っているとの指摘、計画的廃品化を促す狂気に対する批判、成長主義から成熟主義へと引っ越す必要性への言及・・・どれも至言である。読み終えて、著者への感謝の気持ちが溢れるような素晴らしいエッセイである。著者のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書)

成長から成熟へ さよなら経済大国 (集英社新書)

  • 作者: 天野 祐吉
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/11/15
  • メディア: 新書



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郊外住宅地の系譜 [書評]

本書は文京区西方町、桜新町、荒川区渡辺町、目白文化村、洗足田園都市、田園調布、練馬区向山、国立、成城、玉川学園、常盤台などの東京近郊郊外住宅地が形成された背景、そして当時の住民属性、住宅価格などを丁寧に整理した貴重な東京郊外アーカイブである。また、現在において、本書の価値を極めて高めているのは1987年11月に刊行されていることだ。つまり、バブル以前に調査されたために、バブルによって大きく変容してしまったこれらの郊外住宅地のバブル以前の状態までがしっかりと整理されている。これは貴重なことである。住民へのヒアリング調査などもしっかりとしているものも多く、これは、現在ではもう調べることが不可能に近いような情報が掲載されている。そういう観点からは非常に貴重な資料集である。このような本が編集されているという事実に感謝したい。

さて、そのように極めて貴重な文献であることに異論は待たない本書であるが、冒頭に編者である山口廣が「東京の郊外住宅地」の概要をまとめているのだが、とんでもないことを書いている。引用する。39頁である。
「(前略)これが(筆者注:クルドサックのこと)全面的に採用されたフィラデルフィア郊外の住宅地の名をとってラドバーン方式ともいう。」
 いうまでもなく、ラドバーン方式のラドバーンはニューヨーク郊外のニュージャージー州にある。ニューヨーク州と誤解するのであればまだしも、フィラデルフィア郊外・・・・。こんな有名な事例で、こんな基礎的な間違いを平気で書いている人が、このような郊外本の編集をしていることや、本書を出している出版社はゼネコン系の鹿島出版会であることを考えると、何を編集者はやっているんだ、と思わずにはいられない。この部分を読んだときには駄本か、と読み進めるのを止めようかとさえ思ったが、本書で最も価値がなかったのは、この冒頭の編者による文章だけであって、他は十分、読む価値があった。

郊外住宅地の系譜―東京の田園ユートピア

郊外住宅地の系譜―東京の田園ユートピア

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1987/11
  • メディア: ハードカバー



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『失敗の本質』 [書評]

第二次世界大戦における旧日本軍の戦史研究。「6つの事例研究」、「失敗の本質」(分析)、「失敗の教訓」(課題の抽出)という3部構成になっている。戦史研究者と組織研究者からなる学際的な研究をまとめたものであるが、本書に通底している視座は「組織としての日本軍の遺産を批判的に継承もしくは拒絶すること」である。一部で高い評価が為されている本書であるが、第二次世界大戦の事情等に通じていないものからすると事例研究は分かりにくい。小説と比べるのは不謹慎かもしれないが、司馬遼太郎の「坂の上の雲」などの戦争描写に比べると、はるかに理解しにくい報告になっていて、読み進めていくのが辛いぐらいである。しかし、一方で「失敗の本質」、「失敗の教訓」に関しては、まさに現代の日本組織、日本社会にも通じる問題点が浮かび上がってきて、参考になることが多い。事例研究がもう少し、分かりやすく整理されていたら、もっと読み応えの本になったであろうと思う。


失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

  • 作者: 戸部 良一
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1991/08
  • メディア: 文庫



タグ:失敗の本質
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『東京の果てに』平山洋介 [書評]

 豊富なデータ、文献資料から解き明かされる東京の繁栄の実態。
 著者は、特に自由競争によって市場がつくり出したものではなく、政策によって創り上げられ支援された「ホットスポット」、水平方向での開発ではなく「空」へと向かった垂直方向への開発により変貌したスカイライン、記号消費の生活空間として表出した「ファンタジースポット」、ホットスポットと対となってバブル時期に開発された郊外に現れた「コールドスポット」などから、繁栄の格差が生じていることを指摘する。
 また人口成長が終焉し、高齢化が進展していく中、住宅所有というメインストリームを形成したことで、中間層の増大と安定、夫婦と子の標準世帯、標準的なライフコースをもたらすといった、戦後の東京の方向感覚を規定していた仕組みが不安定化していることに言及する。住宅所有という社会の「梯子」(ソーシャル・ラダー)を上り、社会の「流れ」に参加した人々の力の束が、東京のフロンティアを開拓したのであるが、もはや、この「梯子」が揺らいでいる。フロンティア自体がほぼ消失したのに加え、それを開拓した力も消失しつつあると分析している。
 著者は、この「梯子」の揺らぎがもたらすことになる多様性を、社会分裂に転化させないためには、より多彩な道筋を歩む人達に配慮した制度設計が必要であると言う。
 また、最後に石原都政が「新東京人」の育成を説いたことに真っ向から反論している。ちょっと長いが、都市に対する素晴らしい考察であるので引用させてもらいたい。
「しかし、人間の生き方にまで介入しようとする政策ほど反都市的な企ては珍しい。経済競争に貢献するかどうか、「世界都市」に必要かどうかを指標として「人材」を評価・分類し、「あるべき人間」像を特定しようとする企画は、都市の多様性を傷つけ、社会・空間の分裂を促進する効果しか生まない。(中略)政府セクターには幅広い役割が負託されている。しかし、人間のあり方を指定し、指示する役割は与えられない」。


東京の果てに (日本の“現代”)

東京の果てに (日本の“現代”)

  • 作者: 平山 洋介
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本



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『日本の大学生は世界でいちばん勉強しない』 [書評]

タイトルに惹かれて購入したが、とんでも本であった。まず、タイトルである「日本の大学生は世界でいちばん勉強しない」ということだが、これは何の根拠もなく、著者の当てずっぽうな仮説にしか過ぎない。そもそも、驚くべきことに著者はアメリカの大学に通ったこともなければ、アメリカの大学生に取材をしたこともない。中国人の大学生にはヒアリングをしているが、世界の他の大学生を知らずに、なんで日本の大学生は世界でいちばん勉強しないなどと言えるのか。また、数少ない一流校の学生へのヒアリング調査だけで、「考える力」を大学で鍛える授業法を提案しているのだが、私からすると非常に浅いものとなっている。まさに、非常に少ない情報で勝手に仮説を陳列するような内容である。ちなみに、私はアメリカの大学に留学していたし、現役の大学教員である。そのような現場を知っているものからすると、よくここまで厚顔無恥に持論を展開できるなと逆に感心してしまう。さすがリクルートの社員だけある。我田引水の強引さだけは素晴らしいかもしれない。しかし、読む価値はない。

なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?

なぜ日本の大学生は、世界でいちばん勉強しないのか?

  • 作者: 辻 太一朗
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2013/03/29
  • メディア: 単行本



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「妖怪の民俗学」 [書評]

「民俗学」の大家である宮田登の著書。副題に「日本の見えない空間」と書かれているが、本書の内容は、1章の「妖怪のとらえ方」という妖怪の定義を論じたものを除けば、ほとんどが妖怪と空間との関係性を論じている。特に「化け屋敷」に関して、多くの事例をもとにその背景などを分析をし(2章)、それを踏まえて、妖怪のトポロジーとして辻や橋といった妖怪の出現しやすい空間の一般的な分析を試みている(3章)。そして、最後には妖怪のいた場所を開発してつくられた都市における妖怪をどのように分析すべきかといったことを論じているのだが、この最後の章は読み応えがある。特に都市の中でもフリンジにある郊外において、多くの異常な現象が起きやすいという指摘は興味を惹かれた。ちょっとだけ、強く印象に残った文章を引用させてもらう。「神霊が集中しやすいような場所が破壊されたとき、その場所に伴っていた霊力が、破壊行為をした人間に対してどのような警告を発するのかということを考えるときに、「魔所」という表現が生まれたとみる。そこは、あの世との境界領域になるところでもある。魔所にこもっている霊的なものは、妖怪の姿をとって出現し、それがそのまま都市民の創造力に投影していったといえる」。本書は、このような空間の地霊とかに対して、深い考察力を読者に与えるような知見に富んでいる。


妖怪の民俗学 (ちくま学芸文庫)

妖怪の民俗学 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 宮田 登
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2002/06
  • メディア: 文庫



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「大衆化する大学」 [書評]

 岩波書店から刊行されている「大学」のシリーズ7巻ものの2巻。「大衆化する大学」をテーマに序論と6つの論文とから構成されている。学生、そして大学教育、大学院といった大学が包含する問題を論じる論文が3編、そして大学をとりまく労働市場、企業の雇用姿勢など大学の外部環境を論じる論文が2編、さらにはマージナル大学に焦点を当てた論文が1編、紹介されている。このような著者が異なる論文集は、得てして内容が拡散したり、論点が論文によってずれていたりして、返ってそのテーマの理解を遠ざけたりするものがあるが、本書はそれぞれが補完し合うような相乗効果がもたらされており、現在の日本の大学が抱える諸問題を包括的に理解するのには極めて適切なものとなっていると思われる。
 特に興味深い指摘されている点として、日本の大学院進学率が低いことは大学の問題というよりかはその価値を評価しようとしない企業サイドにあるということ、難関大学の方が授業出席率が低いこと、日本の大学の進学率50%は先進国と比べると低いこと、教学改革を難しくしていることは大学教員の「自己愛」にあること、などが挙げられる。大学教員の端くれとしては、大変刺激的な内容に富んでいて勉強になる。


大衆化する大学――学生の多様化をどうみるか (シリーズ 大学 第2巻)

大衆化する大学――学生の多様化をどうみるか (シリーズ 大学 第2巻)

  • 作者: 伊藤 彰浩
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/04/17
  • メディア: 単行本



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『商店街は学びのキャンパス』片寄俊秀 [書評]

関西学院大学の元教授である片寄俊秀氏が、1997年に開設した、三田市の本町商店街にまちかど研究室「ほんまちラボ」にまつわるお話、そこで酒を飲みながら徒然に思索されたこと、そしてその思索されたことを学生達と行動に移して、元気のなかった商店街に賑わいと活力をもたらした物語を書き記したもの。衰退気味の商店街の中に、おもしろさ、素晴らしさを目利きのように見出す著者の眼力。そして、それら埋もれてしまった価値、忘れてしまった宝物を学生をそそのかして、どんどん発掘させていく指導力。さらには、そのおもしろおかしい話をしっかりと編集して本にする筆力。あっぱれ、という言葉しか本を読んだ後に出てこない。最初の三田市の歴史などがあまり面白くないが、「ほんまちラボ」のルポのような話になる後半部分は加速度的に面白みを増す。そこらへんの商店街活性化本より100倍は面白い。これは、是非とも受講したい最高の講義の一つであろう。もう先生が退官されたのが残念である。

商店街は学びのキャンパス―現場に学ぶまちづくり総合政策学への招待まちかど研究室「ほんまちラボ」からの発信

商店街は学びのキャンパス―現場に学ぶまちづくり総合政策学への招待まちかど研究室「ほんまちラボ」からの発信

  • 作者: 片寄 俊秀
  • 出版社/メーカー: 関西学院大学出版会
  • 発売日: 2002/03
  • メディア: 単行本



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武田邦彦の『偽善エネルギー』は、とんだ偽善新書である [書評]

「偽善エコロジー」の二番煎じの本書。私は、著者は比較的まともな有識者であるというイメージを抱いていたが、本書を読んでそれが幻想であることが理解できた。「太陽光は放射能なので、放射能が存在した方がむしろ自然、放射能は健康に害がない」などの妄言は、呆れるが(オゾン層に守られていなければ、生物のほとんど存在できないことなどは明らかでしょう)、これも著者が無知というのではなく、読者にそう思わせるために書いているような印象を覚える。あと、エコロジー問題(なぜかタイトルはエネルギーなのだがごみ問題などのエコロジー的な内容が多い)に関しても、個人が頑張っても他が頑張らなければ意味がない、損をするだけだ、などというのは経済学でいう「共有地の悲劇」のことだ。共有地の悲劇をあたかも自分が発見したかのように、「だから個人が環境問題に取り組むことは無駄」と主張する著者の見識を疑う。また「大量消費=幸せ」という価値観の押しつけも大変、気になる。それ以外にもドイツのエネルギー源の割合などに関しては、2000年以前のものを使って、ドイツは全然、再生可能エネルギーで発電していない(現在は全体の23%ぐらい)などと主張するのも、おそらく著者は知っているけれど、読者をそのように誘導しようとして書いている印象を受ける。読むだけ無駄、のまさに偽善新書である。


偽善エネルギー (幻冬舎新書)

偽善エネルギー (幻冬舎新書)

  • 作者: 武田 邦彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: 新書



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木下勇『ワークショップ』 [書評]

千葉大学の木下教授が、四半世紀以上の期間、情熱を注いだ『ワークショップ』に関する理論、これまでの歩み、さらには著者が関係したものを中心とした数多くの事例、Q&Aまでも盛り込んだ、ワークショップ辞典のような書である。さすが、日本における先駆者の一人として、ワークショップのバックグランドの理解には特筆すべきものがある。ミスター・ワークショップと称してもおかしくない筆者のワークショップに関する経験の質量の豊かさが本書には滲み出ている。しかし、あまりにも盛り込みすぎたために、かえって本としての流れが見えにくい。というか、アラカルト的な編集が為されているので、辞書的に利用すれば有効なのかもしれないが、それも徹底されていないために、辞書ほどは使い勝手はよくない。そういう点では中途半端であり、これは著者に問題があるのではなく、編集の問題であると思われる。その点は残念。とはいえ、『ワークショップ』を理解するうえではきわめて有効なガイド本であることにはかわりなく、お勧めしたい。

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ねじめ正一『高円寺純情商店街』 [書評]

平成元年に書かれた前衛詩人ねじめ正一の処女作。東京の商店街の日々が、瑞々しい少年の鋭敏なる感性によって、きらきらと描かれている。ねじめ少年の感性は、平面的で一見すると、おそらく凡庸でつまらない商店街を立体的で、より豊かなものへと構築し直す。それは、私のように東京の池袋そばの東長崎の商店街で昭和40年代を過ごしたものにとってはとても懐かしい。私はこの著者のような瑞々しい感性を持っていなかったので、例えば化粧品屋のお姉さんはただの化粧の濃いおばさんにしか映らなかったのだが、この本を読むと、少年当時、見ていた凡庸かと思われた商店街の表風景の背景には、このような人生ドラマがあったのだな、と想像することができる。

私はアメリカに住んでいた時、アメリカのジャーナリストの取材を受け、「なぜ日本には商店街のような素晴らしい都市空間を形成できたのか」と聞かれたことがある。大変、意外な質問だったのだが、確かにアメリカの都市には、ニューヨーク、サンフランシスコを除けば、家から歩いていけるような商業集積はほとんどない。そういう点から商店街は日本の都市の素晴らしき資産の一つであると認識していたのだが、その商店街には文学的な価値もあることを本書は見事に表現した。素晴らしき商店街賛歌であり、東京賛歌である。

高円寺純情商店街 (新潮文庫)

高円寺純情商店街 (新潮文庫)

  • 作者: ねじめ 正一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1992/04/28
  • メディア: 文庫



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『コミュニティ・デザイン』山崎亮 [書評]

コミュニティ・デザイナーとして最近、熱い注目を浴びている山崎亮のポートフォリオ的な本。なかなか面白く刺激的である。本書ではデザインに関して、次のように述べている。
「De-signとは、単に記号的な美しさとしてのサイン(sign)から抜けだし(de)、課題の本質を解決する行為のことを言うのだろう。僕が取り組みたいと思っていたデザインは、まさにそういうデザインである。」
そして、コミュニティ・デザインについて、次のように言う。
「僕が取り組みたいと思っていたデザインは、まさにそういうデザインである。人口減少、少子高齢化、中心市街地の衰退、限界集落、森林問題、無縁社会など、社会的な課題を美と共感の力で解決する。そのために重要なのは、課題に直面している本人たちが力を合わせること。そのきっかけをつくりだすのがコミュニティ・デザインの仕事だと考えるようになった。」

デザインを名詞ではなく、動詞として社会問題の解決のツールとして捉え、実際、様々な課題に取り組み、コミュニティを強化するデザインを実践してきた著者。彼の活動記録ともいえる本書を読むと、なんか日本の将来も結構、そんなに悪くないかもしれないと思えてくる。特に若者の力をうまく使っているところなんかは秀逸だし、希望が拓けてくる。


コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる

コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる

  • 作者: 山崎 亮
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2011/04/22
  • メディア: 単行本



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中村攻著『子どもはどこで犯罪にあっているか? 犯罪空間の実情・要因・対策』 [書評]

子どもが犯罪に出会った場所をアンケート・ヒアリングで調査し、それらを丹念に実地検証した労作。そして、それらの事例の分析を通じて、どのような場所において子どもたちが犯罪に合いやすいのかを検証し、その結果から、望ましい都市空間づくりを提言している。都市や建築を研究しているものは、本来的には現在に都市で生活する人々に資するものであるべきだが、実際は個人の趣味に走っていたり、現実社会で暮らしている人から遊離しているという問題意識を有する著者が、まさに空間研究者として、子どもが犯罪に合わない都市空間をつくるための社会的にも意義があり、貴重な資料をとりまとめた。本書は、広く、都市・建築・土木といった理工系の専門家だけでなく、社会学などを研究する人にお勧めする本である。また、多くの子どもを持つ親達にも是非とも読んでもらいたい。それだけの価値のある本である。また、このような本をとりまとめたのが晶文社であるというのも驚き。昔は本当にいい本を出していたのに、今では学術参考書中心という情けなさ。出版不況以後、このような社会的に意義はあっても多少、出版するうえでリスクがある本が出なくなってしまったことを考えると、より本書が世に出たことの価値は高いと思われる。

子どもはどこで犯罪にあっているか?犯罪空間の実情・要因・対策

子どもはどこで犯罪にあっているか?犯罪空間の実情・要因・対策

  • 作者: 中村 攻
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2000/03/01
  • メディア: 単行本



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『数学的思考法』芳沢光雄著 [書評]

数学を勉強する必要性に関して、本書は的確に説明してくれている。それは、論理的に思考をする力を養うということで、特に「証明問題」を多くすることで、論理的に説明する力が養われると説明している。また、これまでの数学教育への批判(例えば、二次方程式の解の公式を暗記したことで、人生の何の役にも立たないといった批判)の多くが的外れであることや、マークシート型式の試験の問題なども、本書を読むことで理解できる。大変、興味深い内容であり、かつ文章が論理的で分かりやすいので、あっという間に読めてしまう。数学教育の価値が分かる本であり、数学を勉強したくなるような本である。


数学的思考法―説明力を鍛えるヒント  講談社現代新書

数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書

  • 作者: 芳沢 光雄
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/04/19
  • メディア: 新書



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