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郊外住宅地の系譜 [書評]

本書は文京区西方町、桜新町、荒川区渡辺町、目白文化村、洗足田園都市、田園調布、練馬区向山、国立、成城、玉川学園、常盤台などの東京近郊郊外住宅地が形成された背景、そして当時の住民属性、住宅価格などを丁寧に整理した貴重な東京郊外アーカイブである。また、現在において、本書の価値を極めて高めているのは1987年11月に刊行されていることだ。つまり、バブル以前に調査されたために、バブルによって大きく変容してしまったこれらの郊外住宅地のバブル以前の状態までがしっかりと整理されている。これは貴重なことである。住民へのヒアリング調査などもしっかりとしているものも多く、これは、現在ではもう調べることが不可能に近いような情報が掲載されている。そういう観点からは非常に貴重な資料集である。このような本が編集されているという事実に感謝したい。

さて、そのように極めて貴重な文献であることに異論は待たない本書であるが、冒頭に編者である山口廣が「東京の郊外住宅地」の概要をまとめているのだが、とんでもないことを書いている。引用する。39頁である。
「(前略)これが(筆者注:クルドサックのこと)全面的に採用されたフィラデルフィア郊外の住宅地の名をとってラドバーン方式ともいう。」
 いうまでもなく、ラドバーン方式のラドバーンはニューヨーク郊外のニュージャージー州にある。ニューヨーク州と誤解するのであればまだしも、フィラデルフィア郊外・・・・。こんな有名な事例で、こんな基礎的な間違いを平気で書いている人が、このような郊外本の編集をしていることや、本書を出している出版社はゼネコン系の鹿島出版会であることを考えると、何を編集者はやっているんだ、と思わずにはいられない。この部分を読んだときには駄本か、と読み進めるのを止めようかとさえ思ったが、本書で最も価値がなかったのは、この冒頭の編者による文章だけであって、他は十分、読む価値があった。

郊外住宅地の系譜―東京の田園ユートピア

郊外住宅地の系譜―東京の田園ユートピア

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 1987/11
  • メディア: ハードカバー



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