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『セールスマンの死』 [映画批評]

アーサー・ミラー原作の映画化作品である『セールスマンの死』を今更ながらではあるが観る。60歳になり営業成績が落ち、体力も落ち、仕事も子育ても思うに任せない八方塞がりのセールスマンの絶望的な悲哀を描いた作品である。虚栄心ゆえに、現在の自分、さらには息子が置かれている惨めな現実を認められない姿には、滑稽さはまったくなく、ひたすら気が滅入る。ただ、私も39歳まで15年間、サラリーマンをやっていたこともあり、この主人公の心情が読み取れる。おそらく、今でもサラリーマンをやっていたら、還暦を目前にしている今頃、同じような気持ちになっていたかもしれない。セールスマン、というか営業職は大変だ。商品(サービス)を売るために会社に入った後、ひたすら「売り(セールス)」まくり、ネットワークを築いたようで、実はそれは肩書きでのネットワークにしか過ぎなかったことを知る。私もそういう経験をしている。自分を「買って」くれたかと思っていたものが、ただ名刺の肩書きだけを「買って」くれていたのである。私の仕事はコンサルタントなので、それでも営業するものの個性が、他の商品よりは出ていたかと思うが、所詮、そんなものである。主人公の葬儀は5人しか葬列しない寂しいものであった。
 もちろん、主人公と違って、営業成績をしっかりと積んで出世する人達もいるであろう。しかし、それはセールスマンとしての才能のようなものがある人である。残念ながら、主人公はそれなりの成績を若い時は出せたようだが、晩年の衰えをカバーできるほどは、この面において才能がなかった。私事で恐縮だが、私は父親も弟も営業職である。父親はそこそこ出世したが、しかし、彼の人生は何だったのだろうと思う。晩年は東大のサッカー部の監督をしていたので、主人公と違って葬儀は多くの人が見送りに来てくれたが、仕事を通じて何かを達成したのであろうか。父親のセールスマン人生の空虚さを目の前でみることができたので、私は父親の反対を遮って転職したのだが、これは人生で数少ない大正解の判断だと思う。
 さて、今は違うが前任校は経済学部に所属していたので、多くの卒業生は営業職に就く。経済学部は就職に強い、と言われて経済学部を受験する学生も多いが、それは単に営業職に就くからだ。さて、当然、経済学部の学生でも営業に向いている学生とそうでない学生がいる。中には、この映画の主人公どころではなく営業に向いていない学生がいる。しかし、そういう学生は例えばプログラミングができたり、絵が上手かったりする。それでも、営業職に就いてしまう。企業側も経済学部出身だから、営業が出来るのだろうと勝手に期待するのであろうか。勿体ないことだと思う。
 そういうことを回避するためにも、現役の大学生は下手にキャリア関係の活動をしたり、インターンシップに行ったりする前に、この映画を観るといいと思う。もちろん、フィクションではあるが、仕事の非人間性、理不尽さがリアリティを持って描かれている。これを観て、そういう世界に行く覚悟がなければ、営業職以外のキャリアを考えるべきであろう。


セールスマンの死 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ジュネス企画
  • 発売日: 2009/10/26
  • メディア: DVD



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『地下鉄のザジ』 [映画批評]

何かのきっかけで購入してしばらく放っておいたのを、仕事が一段落したので見る。放っておいたのはあまり興味が湧かなかったのだが、見たらなかなか面白く、鑑賞後の疲れはない。まあ、それは軽い作品だということもあるが、個人的に興味深く感じたのは、この映画は1960年の作品なのだが、当時のパリの状況を知る貴重な映像資料となっているからだ。戦後から15年後のパリは、今のパリとは比べものにならないほど雑然として無秩序である。しかし、そこで撮影されていたギャラリーなどは今よりもずっと汚いが、その雰囲気を今でも維持できていることを知る。60年後の今の方が、古い建物が洗練されお洒落になっていて、それらしくなっていることに気づかせられる。都市デザインがそれなりに都市の魅力を向上させることに貢献することに気づかせてくれ映画であるということが個人的には、何より興味深かった。映画の内容はドタバタ・コメディ。しかし、ちょっとセンスはよく、また映像編集も上手く、それがこの映画のハチャメチャなドタバタさ加減に清涼剤のような爽快感を与えている。いや、見て損はない映画だと思う。


地下鉄のザジ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2018/07/27
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ヒッチコックの『レベッカ』 [映画批評]

1940年のヒッチコックの監督作品。ヒッチコック41歳の作品。サイコスリラー的な作品であるが、後味はいい。たまに、こういうスリラー的で後味の悪い作品があるが(例えばマドモアゼルやツイン・ピークス)、映画は基本、娯楽なので、後味がいいと観てよかったと思える。白黒映画なのだが、これがかえってグッとゴシック的な雰囲気を出していて、映画の世界に引き込ませる。さすがの傑作だ。どうでもいい話だが、主人公のジョーン・フォンティンは日本の東京で生まれたそうである。


レベッカ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 映像文化社
  • 発売日: 2013/11/28
  • メディア: DVD



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『ハロルドとモード』 [映画批評]

荒唐無稽のシナリオの映画。1971年に公開された時は人気がなかったそうだが、その後、カルト的人気を博し、現時点ではDVD等もリリースされている。10代の青年が79歳のおばあさんと恋して、結婚するというストーリーは面白いといえば面白いが、個人的にはそれほど話には引き込まれなかった。ちょっと非現実的過ぎるでしょう、と突っ込む自分がいるのだ。と記して、私のドイツ人の40代後半の友人の母親が自分より若い男性と再婚したと当惑して話をしたことを思い出した。まあ、世の中にはいろいろなことがあるし、これが男女逆だと比較的、よく聞く話だ(大抵、男性側が金持ちであることが残念であるが)。とはいえなあ、まあ常識に囚われなくて自由人のおばあさんは魅力的かもしれないが、そこで恋に堕ちるかあ・・・というところで個人的にどうも腑に落ちないので評価はちょっと今ひとつです。ギャグも面白いとそれほど思えなかったし。


ハロルドとモード/少年は虹を渡る [DVD]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
  • 発売日: 2012/03/09
  • メディア: DVD



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『プライベート・ライアン』 [映画批評]

今更ながら『プライベート・ライアン』を観た。1998年に公開されたトム・ハンクス主演、スピルバーグ監督の戦争映画である。映画冒頭の戦場のシーンは、生々しく、戦争を知らない世代にも、そのむごたらしさ、冷徹かつ非合理な悲惨さ、が伝わるように描かれている。戦争をしない国民であることの有り難さが分かるような戦場の理不尽な残酷さを見事に表現している。この冒頭シーンだけでなく、戦争がいかにヒューマニティから縁遠いところにあるかを描ききっている。この映画の優れたところは、人間の弱さ、そしてその弱さに人間の希望というか救いのようなものを感じることである。戦争という狂気から、人間を回避させるのは、この弱さを愛おしみ、大切に感じられる気持ちを共有させることではないだろうか。憲法改正とか議論する政治家の話を聞く前に、まずはこの映画を観ることをお勧めしたい。


プライベート・ライアン [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: Blu-ray





プライベート・ライアン (1枚組)[AmazonDVDコレクション]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント
  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: DVD



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コンテイジョン [映画批評]

私のゼミ生がこの映画がいいと勧めたのでアマゾンで早速、注文して鑑賞したのだが、いやはや緊張感溢れた内容に加え、パンデミックの危機をリアリティ溢れた描写をしていて大いに楽しめた。まるでコロナウィルスの危機を予見したかのような内容には、ちょっと衝撃さえ覚える。というか、しっかりとパンデミックをシミュレーションすると、こういう事態になることが予見できるということであろうか。コロナウィルスを体験した我々からすると、そのシミュレーションの際だった秀逸さが理解できるともいえよう。また、直接的には交錯しないのだが、CDCの医師達、WHOの研究員、陰謀説をSNSで流すフリージャーナリスト、妻と息子をウィルスで失った男性という四つの視点からパンデミックの進展を描いていることで、視聴者は4つの多角的な視座によって状況を俯瞰することができる。それゆえに、画面にぐいぐいと引き込まれて、目が離せない。まったく集中力を途切らすことなく一挙に最後まで観ることができた。CDCのケイト・ウィンスレット演じる若手研究者が感染源を突き止めても、政治的な理由から都市封鎖ができず、無念を抱えたままウィルスに感染して亡くなってしまうことや、ジュード・ロウ演じるフリー・ジャーナリストがSNSを駆使して世論形成に成功すること、さらには人々が買い溜めに走り、暴動するところなど、今のコロナウィルスの状況そっくりである。リアリティ溢れた描写、と前述したが、現在のコロナウィルスの件でCNNの番組に出まくっているグプタ博士がカメオ的に出演していることにはちょっと個人的に受けた。というか、コロナウィルスのパンデミックを経験した我々としては、2011年につくられた作品であるにも関わらず、まるで今の状況を報道しているのではないか、という錯角さえ覚えさせる。コロナウィルスと共生していかなくてはならなくなった人類必見の映画であると思う。エンタテインメントを越えた良質な映画である。

コンテイジョン [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2012/09/05
  • メディア: DVD




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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2012/09/05
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ラスト・ブラックマン・イン・サンフランシスコ [映画批評]

ジョー・タルボットのデビュー作。2019年に発表され、サンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞している。映画はサンフランシスコのハンターズ・ポイントに住むアフリカ系アメリカ人が、ミッション地区の瀟洒な家族が元住んでいた家に移り住もうとする話である。ジェントリフィケーションが進み、低所得者層がどんどんと追いやられる背景が、メランコリーに描かれていて、沈鬱な気分にさせられる。出口が見えない状況が続き、将来への希望は一切描写されない。そのような中、映像はとても美しく、結果、絶望的な内容であるにも関わらず、後味は悪くはないが、どうもそれは「滅びの美」のようなものかもしれないな、と思ったりもする。ジェントリフィケーションやジョージ・フロイド事件の背景を知るうえでは参考になる映画であるとも思われる。


The Last Black Man in San Francisco [DVD]

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  • 出版社/メーカー: Lions Gate
  • 発売日: 2019/08/27
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『柳川堀割物語』 [映画批評]

スタジオジブリの作品。3時間に及ぶ大作である。福岡県柳川市に張り巡らされる水路。これが近代化と土木国家によって汚され、その結果、蓋をされ消滅させられそうになったのだが、一人の柳川市職員の問題提起によって、水路の下水道工事計画が白紙に戻り、それを役所と住民の共同で再び清い水が流れる水路を復活させた経緯、そして、その流れの中で伝統的なコミュニティの紐帯が再び強化されていったというノン・フィクションの物語である。美しい映像、アニメを交えた水路の仕組みを分かりやすく説明する工夫、キーパーソンである広松伝氏や古賀元市長への取材、丁寧な構成と柳川市の堀割を再生した過程、背景がよく理解できる内容となっている。ある意味で、スタジオジブリ作品の中でもノン・フィクションのしっかりとした記録といった側面から大変、重要な価値を有するものかもしれない。
 広松氏はこの映画の中で「成功できたのは過去を共有できるだけの「思い出」の資源があったからだ」という。人々が蘇らせたい過去を共有できたことが、成功の原因であるというのは示唆的である。組織がまとまってある方向に行くには、共有する価値が必要だと考えるが、その共有する価値をこの柳川市は幸い、有していた。
そして、下水道工事を中止した後、役所と住民は協同してヘドロに覆われた水路の浚渫を進めていく。この住民の愛、コミットメント、そして住民達と役所の連帯があって初めて柳川の堀割は再生できたのである。貴重な記録である。
貴重な記録という点では、「川や堀は私たち市民すべての共有財産」ですと柳川の市報に書かれたのをみて、県や国は目くじらを立てて怒ったことが映画では示された。彼らからすると、川は国や県のものだそうだ。こういう馬鹿な人達がいるから、日本の美しい風土は壊されてきたことがこの映画からも分かる。そのようなトレンドに見事に抗い、柳川はその環境、風土、そしてコミュニティの連帯を維持することに成功したのである。柳川市の人々の「煩わしい水」との共存する姿勢にも頭が下がるが、これを見事、映像として記録に残したスタジオジブリ、そして高畑氏にも頭が下がる。素晴らしい作品で、多くの人に見てもらえるといいかと思う。


柳川堀割物語 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
  • 発売日: 2003/12/05
  • メディア: DVD



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『死刑台のエレベーター』 [映画批評]

1958年に公開されたフランス映画。ジャンヌ・モローが主演で、マイルス・デービスのトランペットが映画に哀愁を漂わせることに成功しているが、ストーリーは完全犯罪が、ちょっとしたミスと不運で雪だるま式に悲惨な方向へと転がっていくドタバタ悲劇である。ジャンヌ・モロー演じる大会社の社長夫人が、旦那の会社で働く不倫相手の若いハンサム男に、年老いた旦那を殺させる。そこまではよかったが、ちょっとした隙に、この男の車はチンピラに盗まれ、このチンピラが衝動的に観光客を殺してしまったことで濡れ衣を着させられる。この男は男で、犯行に使ったロープを取り忘れたのでそれを回収しようとして乗ったエレベーターが止まってしまったので、その濡れ衣を晴らすことができない。という、もう見ててイライラするような不合理の連続で、本当、人間アホだよな、と思わずにはいられない。しかし、まあ、こういうアホが多い世の中で、どのように生き延びるのか、ということを考えるきっかけは提供してくれる。まあ、この社長夫人の愛人の男性の場合は、社長夫人とそのような関係にならなければいいのだが、ううむ、これはちょっと拒むことは難しいかもしれない。あとは、社長夫人の旦那殺しの依頼をしっかりと断れることかな。どちらにしろ、人はアホばかりだということをしっかりと映画で表現できる国で、原発をあれだけ稼働させているのは驚くべきことだ。この映画を観たら、原発で何か小さい問題が起きても、それが大爆発にまで至るように悪いことが重なりそうだ、ということには気づきそうなものだが。


死刑台のエレベーター HDリマスター版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 株式会社アネック
  • 発売日: 2017/06/21
  • メディア: DVD



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アベンジャーの『エンド・ゲーム』を観ようとして途中で挫折する [映画批評]

アベンジャー・エンド・ゲームが人気らしい。いや、人気どころか興行収入は世界歴代一位らしい。ということで、ちょっと教養として観ておいた方がいいかな、と思って飛行機の機内で観ようとしたのだが、30分ぐらいで挫折した。なぜなら、あまりにもつまらないからだ。最後まで観ていないので、映画の内容をとやかく批評することはできないが、タイムマシンの話とか、表層的な人間関係の描き方とか、創造性がまったくうかがえないアライグマのキャラクターとか(もっとカネゴンとかバルタン星人とかの円谷プロのような魅力的な宇宙人キャラがつくれないのか)、何しろシナリオに惹きつけられないのだ。俳優陣も全然、魅力がなく、強いていえばスカーレット・ヨハンソンがちょっといい味出しているかな、といったぐらいである。もちろん、これは私が初老に近づいた中年男性であるからだろうが、それにしても、こんな映画が売れる現代はなんてつまらない時代なのだろう、と思わずにはいられない。
 とはいえ、結構、この映画の評判は悪くないのだ。私が敬愛している、私とそれほど年が変わらないアメリカ人コメディアンのスティーブン・コーベアもこの映画を評価していたようだし、私の元同僚もこの映画を評価していた。ううむ、何なんでしょう、この違い。自分と時代のトレンドとにギャップが生じているということでしょうか。
 とはいえ、結構、この映画の評判は悪くないのだ。私が敬愛している、私とそれほど年が変わらないアメリカ人コメディアンのスティーブン・コーベアもこの映画を評価していたようだし、私の元同僚もこの映画を評価していた。ううむ、何なんでしょう、この違い。自分と時代のトレンドとにギャップが生じているということでしょうか。

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『フィラデルフィア』 [映画批評]

トム・ハンクスとデンゼル・ワシントンという二大スターによる法廷ドラマ。1993年の作品であり、トム・ハンクス演じるホモセクシャルの主人公が、エイズに患い、それによって弁護士事務所をくびにさせられたことが、差別にあたると法廷で事務所と戦うというストーリーである。実話にもとづくストーリーであるそうだ。エイズに蝕まれていくトム・ハンクスの演技は鬼気迫るものがあり、アカデミー賞で主演男優賞を受賞したのも納得である。映画の冒頭にブルース・スプリングスティーンの曲が流れるが、なかなかの佳曲である。


フィラデルフィア (1枚組) [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



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映画『ロケット・マン』を観て、改めてエルトン・ジョンのことを考える [映画批評]

エルトン・ジョンの半生を描いた映画『ロケット・マン』を観る。私は、1972年から1976年までロスアンジェルスで過ごした。彼のベスト・アルバムともいえる『イエロー・ブリック・ロード』が発表されたのが1973年。私が通っていた小学校では、同級生が『ベニー・エンド・ザ・ジェッツ』を口ずさんでいたりしたものだ。エルトン・ジョンはあの頃、まさにアメリカを席捲していた。それは、まさに社会現象であった。
 ということで、否が応でもエルトン・ジョンに関心を向かされたが、そのレコードを購入したりすることはなかった。それほど当時はロックに興味がなかったのかもしれない。むしろ、社会現象として興味を持っていたと思う。
 さて、しかし、そのエルトン・ジョンも1976年の2枚組『ブルー・ムーブ』あたりから勢いを失ったような気がする。その次のアルバムの『A Single Man』を発表したのは、私も日本に帰国しており、ロックに興味を持つようになっていたのだが、なんか、こうフックが失われたような印象を受け、その後、『Victim of Love』というディスコ系のアルバムなどを出していたりして、そもそも最初からそれほどなかった関心を失った。
 そしたら、1983年に『I am Still Standing』や『I Guess That's Why They Call It the Blues』といった佳曲が入った『Too Low for Zero』で見事な復活を遂げる。それが、バーニー・トーピンという作詞家とまたタッグを完全復活させたことが要因であったことは私の興味を随分と惹いた。というのも、バーニー・トーピンという作詞家と袂を分かったのが『A Single Man』からで、それからエルトン・ジョンはずっと不調だったからだ。まるで、バーニー・トーピンが「あげまん」であったかのようで、メロディー・メーカーとしては天才でも、詩がしっかりとしてないと優れた曲はできないのか、と私に考えさせる例であったからだ。
 話を映画に戻すと、この映画は、まさにエルトン・ジョンの幼少時からバーニー・トーピンとの出会い、アメリカでの成功、さらにバーニー・トーピンとの別れ、その後の失望と失墜、そして、復活までを描いている。映画の最後のシーンは、『I am Still Standing』のプロモーション・ビデオである。
 さて、この映画を観て、さらにそれまで知らなかったエルトン・ジョンのことを幾つか知った。まず、母国イギリスではアメリカのように売れなかったことである。シングルでチャートの1位になったのは1990年が最初で、その曲はSacrificeであった。それまでにアメリカでは5曲が1位になっていることを考えると随分と対照的であるし、この1990年というのは、映画で描かれたエルトン・ジョンがまさにアメリカの音楽シーンを支配していた時代よりずっと後である。アルバム・レベルでは結構、イギリスでも売れていたが、それでもアメリカでは1972年に発表された「Honky Chateau」から1975年に発表された「Rock of the Westies」までの6枚のアルバムが連続して1位であったのに対して、イギリスでは1973年の「Don't Shoot Me I'm Only the Piano Player」から1974年の「Caribou」までの3枚だけだったのは興味深い。
 あと、映画においては、それこそエルトン・ジョンのきら星のごときヒット曲が多く流されるのだが、私が個人的に相当好きな「Island Girl」や「Philadelphia Freedom」、「Daniel」が選ばれなかったのも興味深かった。まあ、佳曲が多いのは致し方ないし、「Island Girl」は映画の内容とマッチさせるのはなかなか難しいだろう。
 内容に関しては、実際は、エルトンの実母や実父はそれほど悪人ではないと擁護する発言が家族から結構、出ているそうだ。母親に関しては、エルトン・ジョンもそのように言っているらしい。まあ、ということで、結構、脚色もあるかなと思うが、凄まじい音楽的才能の持ち主のドラマチックの人生はなかなか観るものを惹きつける。天才というものについて、なかなか考えさせる映画である。

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『ひいくんのあるく町』 [映画批評]

京都の素晴らしい映画館「出町座」で『ひいくんのあるく町』という映画を観た。若干23歳の青柳拓氏の作品である。これは、監督の故郷である山形県市川大門町に住む、知的障害のあるおじさんの暮らしを追ったもので、それによって地方のコミュニティのヒューマニティを感じる優れたドキュメンタリーとなっている。市川大門町は、身延線では比較的重要な駅で、特急列車「ふじかわ」も停車する。しかし、この市川大門町は2005年に市町村合併されており、この貴重な地名は風化されつつある。
 風化されているのは、コミュニティもそうで、これは合併した後の市川三郷町の人口動向であるが1960年の24000人程度から一貫して人口は減少し続けており、現在は14812人である。このように人口減少している地域であるが、しかし、そこで日々、暮らしている人達は、諦観しつつも前向きであり、立ち止まっていても肯定的である。その静閑かさが、観るものの心を打つのと同時に、日本の地方のコミュニティの持つ経済とは無関係な、価値のようなものを感じさせてくれる。そして、その町の価値は、ひいくんのそれとシンクロしている。それが、この映画を感動的なものにしている。

http://hikun.mizukuchiya.net

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ラーメンガール [映画批評]

西田敏行とブリッタニー・マーフィー主演のオール日本ロケのハリウッド映画。アメリカ人が日本のラーメンをどのように捉えているのかを知るためだけに観たので、内容はほとんど期待していなかったのだが、日本のラーメンの魅力を真摯に探ろうとした嫌味のない、偏見のないストーリーで後味は悪くなかった。日本のラーメンに魅了されたうら若きアメリカ女性というのは相当、演じるのは難しい役柄であったかと思うが、ブリッタニー・マーフィーの演技はそれほど鼻につかなかった。とはいえ、ラーメンを食べる姿が格好悪いのは気になった。これは、しかしなかなか演技指導をしても修得することは難しいのかもしれない。あと、西田敏行の演技は流石、貫禄があったのと、ラーメンの達人として伊丹十三が出てきたのは笑えた。まったく期待していなかったが、悪くないエンターテインメント映画である。


ラーメンガール [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • メディア: DVD




RAMEN GIRL

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  • 出版社/メーカー: Image Entertainment
  • 発売日: 2009
  • メディア: DVD



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『ラーメン食いてぇ!』 [映画批評]

映画『ラーメン食いてぇ!』を観る。二人の美貌若手女優が祖父のラーメン屋を引き継ぐための修行をする、というのがあらすじだが、若手女優の大根役者ぶりがなかなかで、ちょっと学芸会の演技を観させられているような感じだ。とはいえ、シナリオ的に演技をするのも難しいところもあるとも考えられるので、これはシナリオも大根であるということだろうか。主人公の祖父のラーメン屋の美味しさの秘訣みたいなものが、茹でる時間を見極める「食欲」と中央アジアの「岩塩」という設定もまったく説得力がない。ということで、なんか面白くない映画を観ちゃったなあ、というのが率直な感想だが、唯一、この映画のいいところは、若手女優二人が相当、可愛いということである。特に主人公の中村ゆりかの美貌は日本人離れしている。どうも日本人と台湾人とのハーフということのようだが、まあ彼女を眺めたいというニーズがある人には悪くないかもしれない。相方の葵わかなもキュートなので、それも見所かもしれない。まあ、この映画のシナリオや演技にとやかく言うことが、野暮ったいだけかもしれないな。


ラーメン食いてぇ! [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • メディア: DVD



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下町ロケット [映画批評]

ニューヨークから羽田に向かう機内で『下町ロケット』を一気に観る。映画『7つの会議』よりも遙かに面白い。私は結構、同じ池井戸潤の『半沢直樹』は好きだったが、『下町ロケット』はさらに楽しめた。一気に観てしまったのも、このドラマが、その世界に私を引き込むだけの魅力を有していたからだと思われる。そこには理系のロマンのようなものが溢れていて、本質的には実力主義である。大企業の下請けいじめのような構造もあるが、技術力で突破していく。その痛快さが、爽やかでこう観る者を惹きつけるのではないだろうか。あと、生き馬の目を抜くようなビジネスの社会において、情に弱い佃社長の、こう浪花節的なところもよい。しっかりと真っ直ぐに仕事をしよう、というような気にさせてくれる。


下町ロケット -ゴースト-/-ヤタガラス- 完全版 Blu-ray BOX

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  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
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『モンスター』 [映画批評]

2003年に公開されたシャーリーズ・セロンが連続殺人犯の売春婦を演じる実話を元にした映画。タイトルは『モンスター』ということで、主人公は理解不能な殺人鬼のような先入観をもって観たが、映画では、そのようなことをしでかした犯人の哀れな愚かさが描かれていた。むしろ、この殺人犯を通して、そのような女性を生み出すアメリカ社会の歪みというか、醜悪さのようなものが浮き彫りにされていた。そして、それは今のトランプ大統領を生みだしたアメリカ社会の歪みのようなものではないだろうか。
 さて、しかし、この映画の凄まじいところは、映画の内容ではなく、何よりあの絶世の美女であるシャーリーズ・セロンが、ほとんどその美貌の見る影もない悲惨な売春婦役を演じ切れていることである。彼女はこの役柄のために12キロも太ったそうだが、何で、こんなに容貌が変わることができるのか。役者魂のようなものがひしひしと感じられる。というか、この映画の主人公と、マッドマックス・ヒューリー・ロードの女性ヒロインが同一人物とはまったく思えない。しかも、この映画に出演した時の方が若いのだ。凄い女優である。シャーリーズ・セロンはこの映画で主演女優賞を受賞するのだが、その受賞時には、体型を戻している。それは本当、映画の主人公と同一人物とは到底、思えない。下記のユーチューブで受賞時を観ることができる。
https://www.youtube.com/watch?v=v70pNFdsBSg


モンスター プレミアム・エディション [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2011/10/17
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『百円の恋』 [映画批評]

安藤サクラ主演の2014年に公開された映画。安藤サクラ演じる一子の脆さと切なさがつくり出す世界に思わず、引き込まれる。映画の前半で、醜悪な脇腹を掻くシーンがあるのだが、その後、ボクサーを目指し初めてからは、贅肉がどんどん削がれて、鍛えられた身体になっていく。とてつもない役作りへの凄みである。イーストウッドの傑作『ミリオンダラー・ベイビー』を彷彿させるシーンもあるが、あくまでダメな32歳の女性でミリオンダラーではなくて、一貫して百円ベイビーではあるのだが、そうであるからこそ協力に見る者を揺さぶる力をこの映画は有しているのではないだろうか。久しぶりに、いい映画を観た。


百円の恋 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
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『7つの会議』 [映画批評]

人気サラリーマン小説家である池井戸潤の著書を映画化した作品。主演に狂言師の野村萬斎。基本、『半沢直樹』と相当内容的にも被る作品であり、出演者も香川照之、及川光博、片岡愛之助、とおなじみの顔ぶれである。話は、正直『半沢直樹』の方が楽しい。あと、野村萬斎は狂言師としては才能溢れているのかもしれないが、映画俳優としては、あまりにも演技が大袈裟で鼻につく。あんなサラリーマンいないからリアリティがむしろ遠のいてしまい、観ていて引いてしまう。
 ただ、私も15年間ほどサラリーマンをやっていたことがあるので、結構、身につまされるところもあって、観ているといろいろと考えさせられる。結局、組織を守るためにトカゲの尻尾切りのように社員を捨てていくというのは、この映画ほどドラマチックではないかもしれないが、似たようなことは起きている。映画の最後のシーンで野村萬斎が、日本のサラリーマンはサムライのDNAを引いているというような意見を述べるのだが、これはそうかもしれないなと考えさせられた。確かに、「お家」や「藩」を守るために個を犠牲にする、というのは現在のサラリーマンにも通じるところである。皆、会社にご奉公しているような気分になっているんだろうなあ。企業戦士という言葉もあったし。
 会社員をしていた頃、「会社のために貢献しないとダメだ」とか「それは会社のためにならない」、「会社の利益を求めなくちゃ」などと口うるさく主張していた後輩の社員がいた。私は、彼の発言を聞いていた「会社って何?」と思いましたね。「会社」は法人格を持っているけど、実際は見えたり、触れたりもしない、組織の共同幻想である。まあ、そんなことを言い始めたら国も共同幻想ですけどね。この共同幻想を維持するために、命を削るような必要はないと思うけど、逆に言うと、この共同幻想によって生活できたり、生き延びたりすることができている。すなわち、生活できたり、生き延びたりすることを保証してくれる限りにおいて貴重な時間をそれに捧げる価値があるけど、それが牙を剥いたらさっさと止めるべきであると思う。会社を選択する機会はあるのだし、自分が会社をつくることもできるのだから。そうそう、この愛社精神の塊のような後輩は、その後、出世ラインから外れて窓際的な仕事をさせられている。愛社精神があって、しかしそれを周りに押し付けるようなことをしていても、会社は成果が出ないと、必ずしも報いてくれないものである。
 ちなみに私は二回転職したが、二回とも転職して生活の質は上がった。ポイントは、嫌になったら辞められるように実力をつけておくこと。そのためにも、若い時に自分に投資することではないだろうか。そして、投資とは勉強をすることである。また、サラリーマンには本当、向き不向きがあって、向いてない人には辛い仕事であるということだ。これがなかなか学生は分かっていない。映画のヒロインが感じたような「虚しい会社人生」を送らないためにも、もっと滅私奉公的なサラリーマンではない、組織の歯車にならないような仕事や就業環境を探すべきであるかなと思ったりする。

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『第三の男』 [映画批評]

今更ながらであるが、1949年のイギリス映画『第三の男』を観る。第二次世界大戦後の混乱のウィーンを舞台にした映画で、光と影のコントラストが観るものをスクリーン(パソコンのだが)に惹きつける映像美、どちらにストーリーが転ぶか分からないシナリオの秀逸さ、そして映画史に残るような印象的なラストシーン。
善悪が不明瞭な戦後の混乱期の中で、単純な正義感と愛情、友情といった個人的価値観で行動するアメリカ人の主人公の偽善的ないやらしさを、最後のラストシーンで一刀両断に切り捨てるアンナ・シュミット。このラストシーンは、相変わらずアメリカ的価値観で世界と渡り合えると考えているアメリカ国家への強烈な竹篦返しのように私には受け止められ、快哉を叫びたいような気持ちになったが、小説のラストシーンでは、アンナはアメリカ人主人公を受け入れることになっていることを知り、なんかとても残念な気分になった。しかも、小説ではアメリカ人であったギャングが、映画ではルーマニア人の設定になったのは、悪役の一人がアメリカ人であることを出演者の一人のオーソン・ウェルズが嫌ったためだそうだ。
しかし、小説のラストシーンでは、なんか白けた感じが残ったであろう。アンナの毅然とした態度によって、このストーリーはとても締まる。このラストシーンを主張したのは、プロデューサーのデビッド・セルズニックであったそうだ。
勝てば官軍的な戦争の中、何が正しくて何が正しくないのか。第三者には分からないいろいろな事情がある。『第三の男』は、素直に考えればハリーを指しているが、私的には、直接関係ないよそもので第三者であるホリーの鼻持ちならない偽善的な存在を、ハリー率いるギャング団とそれを追いかける国際警察という関係性と関係ない『第三の男』、もしくはハリーとアンナというカップルに入り込もうとした『第三の男』として表しているようにも感じた。
そして、そのように捉えることで、この映画の魅力がさらに引き立つようにも思ったりもした。


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『スター誕生』 [映画批評]

グラミー賞でのレディ・ガガのパフォーマンスが素晴らしかったというので気になったので『スター誕生』を観た。てっきり、あまり美貌に恵まれないが才能に溢れた女性が、その才能に気づいたイケメンの売れっ子ミュージシャンの支援のもとにスターになるまでの軌跡を描くストーリーかと思っていたら、映画前半で簡単にスターになってしまって、残り後半は、売れっ子ミュージシャンがアル中でいろいろと人間関係を破綻させていく、というストーリーになってしまった。それはそれで、いろいろと考えさせられたが、もう少し、スターになるまで波瀾万丈のプロセスがあった方が楽しめたのにな、と思う。あと、もう一つ残念だったのは、曲が今一つであることだ。バーバラ・ストライザンドの『スター誕生』からは『Evergreen』という何世代にも歌い継がれるような凄まじいメロディが生まれたが、残念ながらレディ・ガガの『スター誕生』ではそのような曲はつくられなかった。とはいえ、現時点において『スター誕生』をリメイクするなら、キャスティングはレディ・ガガしかあり得ないと思わせる演技ではあったと思う。レディ・ガガの魅力は十二分に銀幕に表出されていた。それだけに、強烈な才能を再確認させてくれるような曲をつくってもらえたらとさぞかし素晴らしかったのにと思わせる。

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『そして私たちは愛に帰る』 [映画批評]

トルコ系ドイツ人映画監督ファティ・アキンの『そして私たちは愛にかえる』を観る。イタリア系映画のような、ペーソスに溢れた人生劇である。優秀な息子とダメな親爺、ドイツとトルコで離れ離れで暮らす売春婦の母親と反政治活動に身を投じている娘、そしてオープンな世界観を擁するドイツ人の母親と娘。この三者三様の片親と親子が、お互い関係することで大きく、彼ら・彼女らの人生は展開していく。それは、悲劇的ではあるが、その悲劇が展開する過程でこれら他人が知り合うことで観ている側は救われる。違う国籍、違う価値観の人々が交錯することで、無情にも人が死んでしまうという理不尽の中でも、人は明日に希みを持つことができるような印象を観る者に与える。ラストシーンの静かな映像は百の言葉より多くのことを語る。


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『トラブゾン狂騒曲』 [映画批評]

トルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督によるエコロジカル・ドキュメンタリー。
トルコ北東部にあるトラブゾンという村にごみ処理場がつくられる2007年から2012年までの5年間を丁寧に追求してつくられたこのドキュメンタリーは、環境問題の普遍的な本質を鋭く描いており、観るものの心を揺さぶる。その本質とは、環境問題は無責任な人間がつくり出すということである。無責任であるから、その問題を予見することもしなければ、それを解決しようともしない。日本の原発問題とも通じる、このトルコのごみ処理場の問題は、しっかりと時系列的に新たな問題が出てきた時に、それに対して地元住民とそれを管理する側の環境省がどのように対応するかを見事に記録している。ポイントとしては、原発問題もそうだが、一度つくらせたら地元は負けるということである。トラブゾンも多くの住民がそこを去って行くことになる。日本の地域も、まったくもって対岸の火事ではないこの環境問題。必見である。

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今更ながら『E.T.』を観る [映画批評]

今更ながらであるが『E.T.』を観る。一昨日、恥ずかしながら『ハムレット』を初めて読んだのだが、最近、社会常識として著名な本とか映画の内容を知っておかなくてはまずいみたいな気分になっているからだ。さて、E.T.は少年とその兄弟と宇宙人との交流の物語だが、子供達の純な優しさのようなものが心を打つ。流石、大ヒット作は良質だなと思ったりもしたが、あの宇宙人のデザインは悪い。これは、スター・ウォーズなど他のハリウッド映画にもいえることだが、なんで円谷プロのように格好いいというか、より個性的な宇宙人がつくれないんだろう。ピグモンとかの方がずっと存在感がある。というか、私がこれまでE.T.を観なかったのは、あのヘンテコなデザインの宇宙人に抵抗を覚えていたからだ。その気持ちは映画を観た後も変わりは無い。
 あと、新生チャーリーズ・エンジェルのドリュー・バリモアが子役で出ているのだが、その演技は驚くほど上手い。いや、天才子役という形容が大袈裟ではないぐらいだ。私はなんでドリュー・バリモアがこんなに俳優として引っ張りだこであるのかが不思議だったのだが、それの理由はここにあったのかということに気づいた。
 また、舞台はロスアンジェルスの郊外であるが、この郊外で暮らす少年の生活を見事に演じていたかとも思われる。多くのアメリカ人が郊外で生活をするようになった1970年代当時の新しい郊外でのライフスタイルや価値観(離婚を含む)などをうまく表現しているようにも思える。郊外の希望が幻想であったのかとアメリカ人が気づき始めた時代感、イーグルスが『ホテル・カリフォルニア』でカリフォルニアへの人々の期待を皮肉った時代感を表現しているようにも感じた。そのような不毛な地にちょっとしたファンタジーを展開させることは、アメリカ人の心の琴線に触れたのかもしれない。


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ボヘミアン・ラプソディ [映画批評]

大ヒット映画『ボヘミアン・ラプソディ』を正月休みに観た。フレディ・マーキュリーの映画であるが、相当、事実に忠実に描かれているようで、フレディの実母の写真を観たら、映画で母親と演じているインド人女性にそっくりで驚いた。ホモセクシュアルであることはまあ、一目瞭然であったので知っていたが、ゾロアスター教のインド人であり、18歳までイギリス外で育ったことは初めて知った。生まれたのはイギリスの植民地であったアフリカのどっかで、勝手に外交官の息子かと思ったりしていたので、生まれはイギリスの外でも育ちはイギリスであると勝手に勘違いをしていた。そして、外交官の息子だと思っていたので金持ちのボンボンだとも思っていた。そういう偏見をしっかりと是正してくれるような、良質な映画であるなと思った。
 愉快なのは、カメオで出ているマイク・マイヤー扮するレコード会社の重役が、『ボヘミアン・ラプソディ』のような6分ぐらいの曲をカーステレオで聴く若者がいないと言ったシーンである。フレディ・マーキュリーが亡くなった後、映画『ウェインズ・ワールド』でマイク・マイヤーが友達と『ボヘミアン・ラプソディ』をカーステでがんがんかけながら、車で街中に繰り出しているシーンは、ロック映画史上、最も有名で愛されているシーンであるからだ。そして、このシーンでクィーンの『ボヘミアン・ラプソディ』はアメリカ人によりよく知られるようにもなる。
 バンドのごたごた、そしてライブ・エイドでの復活といったシナリオもよく、クィーン・ファンでない私も十二分に楽しめた。ということで、まあ映画には何も文句はないのだが、ちょっと気になるのは急に、私の周りにクィーン・ファンの50代前後の人が増えてきていることだ。皆、昔からクィーンが大好きだった、と言う。本当かよ。いや、当時も確かにクィーン・ファンはいたことはいたが、クィーンよりも格好よいロック・ミュージシャンもたくさんいた。イギリスのミュージシャンでもデビッド・ボウイや、クラプトン、ツェッペリン、ディープ・パープル、ピンク・フロイド、イエス、ピーター・ガブリエル、ジェネシスといった方がずっと格好良いと当時も思っていたし、今でも思っている。決して悪くはないけど、そんな傑出して特別ではないよな、と当時も思っているし、その気持ちは今でも全然、変わらない。

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マイケル・ムアーの最新作『華氏11/9』を観る [映画批評]

マイケル・ムアーの最新作『華氏11/9』が日本で公開されていることを知ったので、渋谷のアップリンクに観に行く。月曜日で一回しか流されないので、これは座れるかなと不安だったのだが、ナント、10人ぐらいしか観客はいなかった。おそらく2019年1月において、最も重要な映画であるにも関わらず、この無関心さは何なのだろう。自分が入れたのは喜ばしいが、ちょっと『ボヘミアン・ラプソディ』を複数回観た人が周りにいることを考えると、これは本当に不味い状況じゃないかなと思ったりもする。
 さて、映画はトランプが大統領という、悪夢のような現実にどうしてアメリカ社会が陥ってしまったのかということを、トランプという人柄の分析、人々の意識の分析などを通じて、非常に分かりやすく丁寧に解説してくれている。とても説得力があり、トランプ大統領という悪夢に陥った背景が理解でき、ちょっと、そのオバケの正体が分かったような気分である。そして、トランプと似たようなビジネスマンとしてのバックグラウンドを持ち、ミシガン州知事になったリック・シュナイダーの行政を取り上げ、ビジネス・マインドの強い人が政治をするととんでもないことが起き、このままトランプに妥協すると、アメリカはとんでもないことが起きるだろう(既に起きている可能性も高いが)と警鐘を鳴らしている。『ボヘミアン・ラプソディ』は私を観たが、2019年1月時点において観るべき重要度でいえば、この映画の方が遙かに高い映画である。生き延びるためには観るべきである。

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ブラック・クランズマン [映画批評]

スパイク・リー監督の最新作品は、ブラック・パンサーなどが台頭した1970年代頃を舞台としているが、現在のアメリカの政治状況を鋭く批判しており、極めて政治的な内容を含んでいるが警察ものとしてのスリリングな展開といい、映画としてのエンタテインメントの要素もしっかりと押さえている相当の傑作であるかと思われる。というか、ハリウッド映画としては最近、稀にみる秀でた作品ではないだろうか。50年くらい前のコロラド州コロラド・スプリングスを舞台としていても、その映画が描こうとしているのは現代のトランプ大統領を選ぶアメリカ人の人種差別意識の醜悪さであるし、また、思うようになかなか問題が解決できなくても、それでも前進するアメリカという社会の推進力でもあるかと思う。ぎりぎりの点数で単位を取得するダメ学生のような国だが、まあ、それでも及第点は取れているかな、ということと、そのような社会状況をこのように映画作品として描ける感性と才能と、それをバックアップする投資家がいるという点で、どうにかアメリカのメンツがぎりぎりで確保できているとでもいうべきであろうか。アメリカという国がなぜ、トランプ大統領を当選させたのかを理解するためには必見の映画であるだろう。ハリウッド映画としては、久しぶりに心から楽しめた。

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映画『1984』 [映画批評]

小説『1984』を読んだので映画の『1984』も鑑賞した。原作を随分と省略し、相当、雑に編集しているが、そのエッセンスのようなものは保たれている。ただし、映画では、ちょっと一般受けを狙ったのか、「愛が未来を救う」といった愛賛歌の側面の表現が強すぎるところが気になった。まあ、それは、最後のシーンでの愛の脆弱さを見事に描く、どんでん返し効果を意識したためだったかもしれない。
 米国人のマイカル・ムアーがトランプ政権の危険を警鐘する映画「ファーレンハイト11/9」を製作した。この映画はまだ未公開であるが、ムアーのテレビ取材での発言から、彼がトランプを非常に危険視していることが理解できる。さて、そのトランプ政権を予見したかのような小説がまさに『1984』であり、それをより視覚的に訴えたのがこの映画であるのだが、映画で描かれた2分間の「憎悪の時間」において、地下組織のリーダーであるカラドールへ罵声を浴びせる党員の人達は、まさにトランプのラリーでヒラリーを「投獄せよ」と叫ぶトランプ支持者を彷彿させる。また、実態とは異なる経済成長を喧伝するところも、トランプ政権と同じである。まあ、この点に関しては、経済指標を変えて、実態より経済が成長しているように見せる安倍政権もまさに同じではあるが。
ちなみにアメリカ公開版では、ウィンストンとジュリアが最後まで拷問に屈せず、「ビッグブラザー打倒」を叫んで死ぬというラストに改変され、それに不満を持ったオーウェルの遺族が公開差し止めを求めたそうだが、1984的なトランプ政権を3分の1のアメリカ人が支持していることを考えると、随分とアメリカも変わってしまったなと思わずにはいられない。


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『不良少女モニカ』 [映画批評]

イングマール・ベルイマンの1953年の作品。邦題は『不良少女モニカ』ではあるが、原題は『モニカとの夏』。モニカは不良少女という感じではなく、ただ、自由奔放なだけである。19歳の少年ハリーは、18歳の破天荒で自己中心的だが、魅力的なモニカとともに、ストックホルムから仕事を捨てて、父親の船で孤島で夏を過ごす。モニカは妊娠をする。きのこばかりの食事に辟易としたモニカは癇癪を起こし、ハリーは再び、ストックホルムに戻る。モニカと結婚し、家庭をもったハリーは、高給の技術者の仕事に就けるように学校に通い勉学に励むのだが、モニカは勉強ばかりしているハリーに対して不満が溜まる。
 若者の燃えるような恋愛が、結婚して日常化すると常温に置かれた肉のように腐臭を放って傷んでいく様を、ベルイマンは見事に描いており、観るものの心を抉るようだ。若い男性に観てもらいたい気持ちになったりするが、これを観たら結婚どころか恋愛もできなくなるような気もする。映像から放たれる、何とも言えない暗さ、陰鬱さはこの映画をずっしりと重いものにしているが、その重さが観る者にものしかかって息苦しくなる。
 この重さこそ、ベルイマンの真骨頂であり、彼が巨匠である由縁であろう。恋愛の持つ、明るさと暗さ、軽さと重さという二面性を見事に描いている。


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『ローマでアモーレ』 [映画批評]

ウディ・アレンのヨーロッパの主要都市を舞台にした映画シリーズのローマ遍。4つのまったく交差しないエピソードがローマを舞台に展開していく。ちょっと、ほろ苦いストーリーと、恋愛どたばた劇、筒井康隆のような不条理コメディ、そして抱腹絶倒のエピソードだ。特にウディ・アレンがいい加減な舞台プロデューサーで出演するエピソードは、相当面白く、『スリーパー』とかを彷彿させる。アレンの喜劇作家としての才能が炸裂したかのようなおかしさである。あと、個人的にはペネロペ・クルスが演じる娼婦役ははまり役でいい。2000年の『ウーマン・オン・トップ』の清純なイメージはもう完全に過去のものという印象だが、これはこれで悪くない。久しぶりに映画を見終わった後、力が抜けて、いいストレス解消になった。傑作かどうかを語るような作品ではないが、十二分に楽しめる作品。こういうウディ・アレンは個人的に好きだなあ。


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