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「孤独のグルメ」 [書評]

今更ながら「孤独のグルメ」を読んだ。食事をするという行為は、生きていくための手段である。動物でも昆虫でも食事はする。しかし、狩猟生活を脱し、農業もせずに、はたまた主人公のように調理もしないで、外食をするという都市的な生活を営んでいるものにとって、食事というのは消費活動である。そして、この消費活動は、地理的、時間的、経済的な制約はあるかもしれないが、基本的には消費主体が選択をすることで、その選択如何によって食事の充実度も左右される。それは、また偶然的な要素も含まれ、それゆえに、一回一回の食事は、まさに一期一会のような緊張感とドラマを生むのである。そして、そのドラマを幾つかのエピソードでまとめたのが本書である。最初は、何でこんな本が面白いのだろう、という好奇心だけで読み始めたのが、すぐに嵌って一気に読み終えてしまった。外食という一見、過小評価されている行為が、とてもドラマチックなことであることが本書を読むとわかり、そのドラマがとても何というか共感を覚えるからである。作者が若い頃、泉昌之の名前で共著として書いたカレーライスの食べ方のエピソードを思い出すような内容だが、同じ、コンセプトであるが、随分と本書は洗練された作品になっている。元いた会社の同僚が、出張先で何を食べようか、と尋ねた時「何でもいいですよ。腹さえ満たされれば、それで十分ですから」と回答された時に、とてつもなくがっかりしたことがある。もっと、一回一回の外食を本気でもって選択する。その選択するというドラマを与えられたことを感謝しなくてはいけないな、と本書を読んで改めて思わされた。

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

孤独のグルメ (扶桑社文庫)

  • 作者: 久住 昌之
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2000/02
  • メディア: 文庫



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