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『大都市郊外の変容と「協働」』 [書評]

慶応大学総合政策学部の人口論の大家である大江守之教授と同僚の駒井正晶教授、そして、彼らのお弟子さんの論文集。全部で6編ある。どちらかというと、研究室の論文集を、文科省から研究費がもらえたので本にしてしまおう、というノリでつくったような印象を受ける。ただし、大江教授の弱体化したコミュニティを支えるための「弱い専門システム」論は読むに値する。ただの研究室の論文集を、金を払っても読んでもいいかなと思わせるだけの質の高さである。

具体的には、「大都市郊外地域における家族・コミュニティ変容と弱い専門システムの構築」という論文である。大江は次のように「弱い専門システム」を説明する。

「弱い専門システムは、まだ現実の社会の中には明確に存在せず、今後つくりあげていくシステムである。(中略)弱い専門システムは、弱い専門家と柔軟な育成システム、特定機能を有しないサービスを行う場、弱い保護と規制、弱い市場システムを持つ仕組みである。」(p.23)

そして、大学の研究者は「強い専門家」の一人であり、そこに存在価値を置いているが、「新しい問題領域に踏み込むためには、弱い専門家として現場に入っていき、そこから学ぶ、また学んだ成果を現場に返していく必要がある。」(p.26)と言及する。

私も大学の研究者の端くれとして、何か随分と勇気づけられる言葉である。また、コミュニティ・カフェの事例を「弱い専門システム」として紹介しているが、このケース・スタディも、コミュニティ・カフェを実践したものとしては大変興味深く読ませてもらった。


大都市郊外の変容と「協働」―「弱い専門システム」の構築に向けて (SFC総合政策学シリーズ)

大都市郊外の変容と「協働」―「弱い専門システム」の構築に向けて (SFC総合政策学シリーズ)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 慶應義塾大学出版会
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 単行本



タグ:大江守之
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