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『東京の果てに』平山洋介 [書評]

 豊富なデータ、文献資料から解き明かされる東京の繁栄の実態。
 著者は、特に自由競争によって市場がつくり出したものではなく、政策によって創り上げられ支援された「ホットスポット」、水平方向での開発ではなく「空」へと向かった垂直方向への開発により変貌したスカイライン、記号消費の生活空間として表出した「ファンタジースポット」、ホットスポットと対となってバブル時期に開発された郊外に現れた「コールドスポット」などから、繁栄の格差が生じていることを指摘する。
 また人口成長が終焉し、高齢化が進展していく中、住宅所有というメインストリームを形成したことで、中間層の増大と安定、夫婦と子の標準世帯、標準的なライフコースをもたらすといった、戦後の東京の方向感覚を規定していた仕組みが不安定化していることに言及する。住宅所有という社会の「梯子」(ソーシャル・ラダー)を上り、社会の「流れ」に参加した人々の力の束が、東京のフロンティアを開拓したのであるが、もはや、この「梯子」が揺らいでいる。フロンティア自体がほぼ消失したのに加え、それを開拓した力も消失しつつあると分析している。
 著者は、この「梯子」の揺らぎがもたらすことになる多様性を、社会分裂に転化させないためには、より多彩な道筋を歩む人達に配慮した制度設計が必要であると言う。
 また、最後に石原都政が「新東京人」の育成を説いたことに真っ向から反論している。ちょっと長いが、都市に対する素晴らしい考察であるので引用させてもらいたい。
「しかし、人間の生き方にまで介入しようとする政策ほど反都市的な企ては珍しい。経済競争に貢献するかどうか、「世界都市」に必要かどうかを指標として「人材」を評価・分類し、「あるべき人間」像を特定しようとする企画は、都市の多様性を傷つけ、社会・空間の分裂を促進する効果しか生まない。(中略)政府セクターには幅広い役割が負託されている。しかし、人間のあり方を指定し、指示する役割は与えられない」。


東京の果てに (日本の“現代”)

東京の果てに (日本の“現代”)

  • 作者: 平山 洋介
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 単行本



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