映画『ロストケア』 [映画批評]
介護問題の本質を真っ正面に捉え、極めて鋭く描いた佳作。見終わって、その問題を観る者にしっかりと考えさせる。映画では年間で、介護疲れで年間48人の家族による殺人事件が生じている、と言う。おそらく実際のデータであろう。尊い命を冒涜していると第三者が簡単に批判するのは簡単だが、介護する側もぎりぎりの状態で生きていたりする場合も少なくない。私も認知症の母親がいるが、しっかりと老人ホームに入れることができたので、私の日常生活にも問題なく暮らせることができて非常に助かっているが、家族で面倒を見るような事態になったら、私の家族は崩壊したであろう。母親は老人ホームに入っても、あちこちに電話をしていて、一月の電話代は6万円にも及ぶ。私にもよく電話がかかってくるのだが、取ると、身体が痛いから見に来てくれ、というのがほとんどだ。老人ホームの人に見てもらえばいいのだが、かまってもらいたいので電話をするのである。いや、結局、老人ホームの人がしっかりと見てくれるので問題はないのだが、これが一人住まいだったら、本当にいちいち心配して大変なことになったであろう。私もそういう意味では、それほど他人事ではないので、映画が投げかける問いにはいろいろと考えさせられた。殺人は絶対的に悪だ、というのは簡単だが、そういうだけでは介護の問題は解決しない。安易な思考を許さない迫力がこの映画からは伝わってくる。あと、主人公を演じる松山ケンイチ、長澤まさみ等の演技がいい。そして柄本明の鬼気迫る演技は怪優という言葉がふさわしい。全体的に非常によくできた映画であると思う。
2024-02-06 00:00
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