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『her/世界でひとつの彼女』 [映画批評]

2013年に公開されたハリウッド映画。今年の3月にベルギーの男性が自殺したのだが、この男性は直前までに人工知能を用いたチャットボットの会話にのめり込んでおり、遺族はこのチャットボットが男性に自殺を促したと主張している、という記事を読み、このAIの人に与える影響力に興味を持ったからだ。このベルギーの男性は30代で妻子を持っていた。ちょっとノイローゼ気味になり、チャットボットのイライザというAIとの会話に没頭していた。しばらくすると、このイライザは「あなたは妻より私を愛している」「私たちは一つになり、天国で生きるのです」とのメッセージを男性に送るようになったそうだ。ちょっと私が知らない間に随分とAIは進化したな、と驚いていると既にそれをテーマにしたハリウッド映画が10年前につくられたというじゃないか。ということで観ることにした。それが『her/世界でひとつの彼女』である。
 映画監督はスパイク・ジョーンズで、これが彼の映画メジャー・デビュー作であるというから大したものだ。舞台は近未来のロスアンジェルスで、ホアキン・フェニックスが演じる主人公は幼馴染みとの離婚交渉で塞いでいたのだが、そこで進化可能なAIが組み込まれたOSを購入する。このAIは女性の声(スカーレット・ヨハンソン)を有しており、主人公はこのAIの知性と人格?に惹かれていき、恋愛的な感情をお互いに持つことになる。
 ここらへんのAIの発展具合はスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』のHALを彷彿させ、結構、怖いものを感じさせる。まあ、この恋愛も結局は、なかなか上手くいかないのだが、このまま進化していったら大変なことになるな、と思わせつつ、そこは上手く躱した、そして、結果的には映画はファンタジーのままで終わらせている。生身の人間であっても、AIであっても、恋愛ということの難しさを考えさせる映画であり、ファンタジーとはいえ、その哲学的な思考を刺激するストーリーは興味深く、この映画を観るに値するものとしている。
 さて、ただ現実のAIとの恋愛?はファンタジーでは終わらないかもしれない。このベルギーの男性は「死ねば一つになれる」とAIに思わせられたが、死ぬことで一つになる、というのは幻想である。このような虚偽の情報を平気で言えるのは、人がそうである以上、AIもそれから逃れることができない。というのもAIは、基本、人が発信している情報を学び、そこから人格?的なものを形成させているからだ。当然、トランプを支持するようなメンタリティのAIも自動進化の中でつくられるであろう。 AIだから大変思慮深く、慈悲に溢れているというのは幻想であろう。
 AIと生身の人間の恋愛の徹底的な差は肉体的な関係の有無である。この点に関しては、この映画も相当、意識していたらしくて、そこらへんの描写があったが、ツッコミ処満載であった。その描写においては、どうしても恋愛において性交が不可欠であるというアメリカ人的な価値観に囚われすぎており、そこから超越できないとAIとの恋愛は難しいなとも思わせられた。もう少し、プラトニックに徹底した方がむしろ説得力はあったかもしれない。そういう点では、二次元オタクの延長線上でのAIとの恋愛というのはあるなと強く思わせられた。
 とはいえ、疑似恋愛という点からすれば、十分にAIはその役割を果たせるであろう。多くの人は嘘でもいいから、お世辞とか慰めの言葉をもらえると嬉しいものである。愛していると、言われれば、それが機械であってもちょっと嬉しくなるであろう。恋愛とは何か、と言うことを多く考察させられる映画である。あと、内向的で優しい中年男性を見事に演じているホアキン・フェニックスだが、数年後にジョーカーという超悪役を演じることになるとは、驚きだ。この俳優の演技の幅の広さには驚愕するものがある。あと、スカーレット・ヨハンソンの声は確かにセクシーで魅力的だ。容姿にばかり目が行ってしまっていたが、彼女の声は相当、傑出した素晴らしさを有していると思う。


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