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ロンドンのバロー・マーケット(ボロー・マーケット)を訪れる [都市デザイン]

ロンドンのバロー・マーケット(ボロー・マーケット)を訪れる。ここは、イギリス最古であり、かつ最大の屋外市場である。1756年から正式に、ここでマーケットを開催している。実際は、それ以前、11世紀頃からここでは市が立っていた。しかし、ロンドン橋がつくられて交通量が増えたので、市場は追い出されたのである。そこで、1755年に地元住民が6000ポンド(現在に換算すると10ミリオン・ポンド相当)ほどで、王様からマーケットを開催する権利を獲得して、今日に至る。この権利は未来永劫のものだそうだ。このバロー・マーケットのマネージャーのキース・デービスさんに、このバロー・マーケットの会議室でお話を伺ったのだが、会議室には、ずらっとこれまでのバロー・マーケットの理事長の名前が300年分書かれていて、その歴史の重みを感じさせられた。

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デービスさんによれば、このマーケットは、ヨーロッパで一番、質の高いマーケットとして知られているそうだ。これは、ちょっとフランスやイタリアあたりからはクレームが来るように思われるが、まあ、そのような突っ込みはしないで頷いておいた。そして、この高い質を維持するためには、ベスト・プロジェクトのトレーダーを選ぶようにしている。ギャップ・アナリシスをして、テナント・ミックス的に必要度の最も高いものを入れるようにしている。したがって、5年前なら通ったけど、現在は通れないといったケースも生じ得る。もし、我々が入れたくなるような商品であったら審査をする。審査をするうえでは、4人のエクゼクティブ・シェフによって見てもらうようにしている。シャングリラのレストランなのでチーフ・シェフをやっているような人に審査してもらうのである。匂いや味、見た目で質が高いものを選ぶそうだ。

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また、食材がどこから来ているかを意識して出店者を選ぶそうだ。フードマイルを気にしていること、また生産者が出品することを重視しているそうだ。バロー・マーケットはバルセロナのボカリア広場と姉妹提携をしているそうだが、ボカリア広場は仲介人が売っているので、うちに比べて今ひとつであるとの意見を述べられていた。私の個人的な印象では、食材の宝庫であるスペインの市場と、食文化が極めて貧相なイギリスの市場とではちょっと比較にならないのではないかと思ったりもするが、まあ、そういうことだそうだ。ただ、実際、市場に出店しているのは、イギリス産というものは少なく、フランスのチーズやスペインのチョリソ、イタリアのパルメジアンといったイギリス産以外の食材が多かった。

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このバロー・マーケットであるが、120店が出店している。また、その周辺の建物も、このバロー・マーケットが所有していて、出店者の中から出世したものが、これらの建物の店舗に入っているそうだ。
バロー・マーケットは、木曜、金曜、土曜に開いている。日曜日は開いていないのだが、特別な日には開催をしたりする。ここで特別な日とは、セント・ジョージの日、林檎の日などである。

この週に3日間の開業だけで、年間600万人を集客している。私は市場には土曜日に訪れたのだが、本当に立錐の余地がないほど混雑していて、歩くのにも難儀をしたほどだ。バロー・マーケットでは、旅行代理店や航空会社には一切、広告を出さないのだが、今ではロンドンで行くべき観光スポットとして広く紹介されており、多くの観光客が訪れるようになっている。外国人とイギリス人の割合が6:4だそうだ。また、この4割のイギリス人の中にもロンドンに観光に来ている人が含まれているので、そう捉えると、ほとんどが観光客といってもいいかもしれない。まあ、確かに、このような市場は、東京の築地もそうだが、地域色が繁栄されているので面白い。グローバル化が進み、どこも同じテナントで埋まるショッピング・センターに行くよりは遙かに面白いことは確かだが、この数字は極端な印象も受ける。観光における記号消費の極端な事例として捉えられなくもない。まあ、しかし、ロンドン・ナウとしての記号としての魅力を十分に有していることは間違いない。

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このバロー・マーケットであるが、王様から権利を授与しただけあって、いろいろな権利を有している。まず、1000ヤード以内のマーケットを閉鎖する権利がある。去年も、実際、この権利を使って、屋外でマーケットを開催していた人達の営業を停止させたそうだ。ただし、この権利はスーパーマーケットには効かず、あくまで屋外マーケットに対してということだそうだ。ついでに、逮捕権もあり、バロー・マーケットには牢屋もあるそうだ。ただ、この逮捕権はほとんど使ったことがなく、牢屋も物置になっているようだ。スーパーマーケットに関しては、自治体や土地所有者と話をしていて、なるべく、バロー・マーケットの営業とバッティングするような店舗には土地を貸さないようにお願いしているそうだ。

バロー・マーケットは8人の評議員によって運営されており、この評議員はまったくの無報酬で、しかも経費等も認められない。それなのに、経営責任は取らされ、赤字などになった場合は私財を放出しなくてはならない。このようなリスクだらけの評議員になる理由は何か、という私の質問に対して、それは「バロー・マーケットの評議員になることで得られるプライド」だそうだ。私は、そんな見栄のようなプライドは犬にでも喰わせた方がましであるという考えの持ち主なので、ここらへんのセンスはよく分からないが、イギリス的なノーブル・プレステージなものなのかもしれない。しかし、確かに資本主義的なものに退行するためには、このようなアプローチが必要なのかもしれない。

バロー・マーケットのスタッフは35人。清掃者からマーケティング、財務管理、マネージャーなどから構成されている。NPOであり、利益はチャリティに回すようにしているそうだ。

バロー・マーケットの混雑ぶりは凄く、これに加えて、レンゾ・ピアノ設計のシャードが一日当たり1万人近くを集客するということで、今後はさらに増えていくことが推測される。その対応として、公共空間をより広く、しっかりと整備しなくてはならないと考えている。最近では、バロー・マーケット・ハイストリートに面している高架下にガラスの空間をつくり、人々が溜まることができるオープン・スペースとして整備した。実際、市場空間では、もう人が多すぎて、動くこともままならない状況にあるため、このようなオープン・スペースがあることは効果的である。特に食事を買ったまではいいが、それらを食べる空間が圧倒的に不足していると思われるので、そのようなオープン・スペースは確かに不可欠であると思われる。

さてさて、もう一大観光地となっているバロー・マーケットではあるが、これが注目を浴びるようになったのは、結構最近であるそうだ。ちょっと前までは、ただの貧相な市場であり、人混みとは無縁であったようだ。同マーケットのマネージャーにその転機を聞くと、イギリス版「料理の鉄人」が人気を博したからだということ。すなわち、「料理の鉄人」をきっかけとしたグルメ・ブームがロンドン界隈で20年ちょっと前に起きて、このような地産地消的なマーケットが注目されるようになったとのこと。この説明に、私は凄く驚いた。「料理の鉄人」(Iron Chef)は、日本の番組をぱくったものだ。こんなところで日本が影響を与えていたなんて驚きだ。すなわち、アメリカのユニオン・スクエアのファーマーズ・マーケットもそうだが、近年のこのグルメ・ブーム的なトレンドが、日本のテレビ番組(その背景には「美味しんぼ」などのグルメ漫画などのヒットという事実もあると思われる)をきっかけとしてつくられたなんて、なんかとても驚きなのである。そういえば、この頃から築地市場への外国観光客なども増え始めたような気がする。

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