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『10万年後の安全』 [映画批評]

 原子力発電所から生じる放射能廃棄物の最終処分場は世界中に幾つあるか?答えはゼロである。みな、暫定的に貯蔵されているだけである。それでは、この問題に現実的に対応しようとしている国はあるのか。ある。フィンランドだ。そして、この映画で紹介されるオンカロ放射能廃棄物最終処分場は、原発の最終廃棄物を現実的に解決させようとした同国のプロジェクトである。
 本作品は、デンマーク人のマイケル・アドセン監督によって制作された。1971年生まれの監督は、隣国フィンランドでつくられているこの最終処分場を訪れ、関係者との取材を積み重ねていく。
 本作品から理解できることは、北欧の人達は将来への責任をしっかりと考えていることだ。少なくとも原発を稼働させれば、極めて危険な放射能廃棄物が出るというのは、食べ物をとればうんこが出るというのと同じぐらい明らかである。しかし、誰も、その猛毒なうんこをしっかりと処分しようと考えていない。そのような中、うんこを直視したフィンランドは素晴らしいと思う。これは日本では、原発支持者がまったく考えようともしていないことで、その違いには愕然とさせられる。「トイレのないマンション」とも揶揄される原発の怖さを、日本人はどれほど共有できているのであろうか。 
 監督は、それでも、その考え方の隙や脇の甘さを突いているのではあるが、フィンランド人は日本人よりは遙かに将来についての責任感を有していることがこの映画からは分かる。逆に、これだけしっかりと論理的に考えて、その問題に真正面に取り組もうとしているフィンランドでも、原発はやはりリスクが大きすぎることが本映画からは伝わってくる。 
 2009年に制作されたこの番組が日本でもDVDで簡単に手に入るようになったのは、福島第一原発の事故が起きたからである。しかし、本来であれば、このような事故が起きる前に原発を54基も持っていた国民は観ておくべきものであった。さらに、このような事故を起こしても、今にも原発が再稼働しそうである。原発を再稼働する前に、少なくとも福井県の人達、特におおいまちの人々は観るべきであろう。それは、補助金といった目先の利益に惑わされて、日本国民そして、日本だけではなく人類の将来を多大なるリスクに晒す判断をした人達の最低限の責任であると思うのである。
 また、本作品は監督がコンセプチュアル・アーティストでもあるために、その映像美は大変美しく、それだけでも、この映画を一級のものとして捉えることができる。原発推進派にも反対派にも是非とも観ていただきたい作品である。この映画は、原発に賛成も反対もしないで、ただ冷然たる事実を示しているだけだからだ。そして、この事実、猛毒うんこ、という事実はイデオロギーを越えて、逃れない事実なのである。

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