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ビオシティの杉田編集長の送別会に参加する [サステイナブルな問題]

ビオシティの杉田博樹編集長が、ビオシティの編集業務を辞められ、東京から九州の方に引っ越しをされるというので送別会に参加した。雑誌ビオシティとの出会いは忘れられない。1996年、私はカリフォルニア大学バークレイ校の環境デザイン学部の大学院を卒業し、イアン・マクハーグやシム・ヴァンダーリンなどが提唱したサステイナブルな都市づくりを日本において行いたいと考え、期待に胸を膨らませて帰国したのであった。まさか15年後に私立大学の経済学部の教授になっているとは、当時は夢にも思わなかった。そして、その当時、本屋巡りをしていた時、出会ったのが雑誌ビオシティであった。その内容の質の高さ、レイアウトのデザインのよさ、そして何より表紙に代表されるアートのかっこよさに衝撃のような感銘を受けた。こんなエコロジカル・デザインのオシャレな情報誌があるのか。日本は凄いな!と驚いた。

このビオシティの編集者に近づきたいと思ったのだが、チャンスはすぐ近くに転がっていた。というのは、編集長の従兄弟が私のオフィスで働いていたからである。そして、私のデスクの上においてある何冊かのビオシティを観て、「この雑誌の編集長、従兄弟なんだよね」と言ったのである。そのときは、彼女が天使のように見えたもんである。この編集長と会わせて欲しいとお願いをして、それなら今度、ビオシティ主催のセミナーがあるからそれに来れば、といわれて、のこのことシム・ヴァンダーリンの講演に出かけて、杉田さんを紹介してもらったのである。その時に、企画書も持参した。私の恩師ともいえるランディ・へスター氏への取材記事の企画書であった。杉田さんは、とてもリラックスした、どちらかというと尖ったところが全然ない、気さくなおじさんという感じであった。優等生よりかは不良の雰囲気を漂わせていた。そして、直後に編集室に遊びに行った。編集室はなんか汚いのだけど、サブカルの匂いがプンプンしていてとても居心地がよかった。おそらく初めて飲みに行った時、杉田さんは「いやあ、オートバイで二速で加速するとき、ガソリンを無駄に消費するのは絶対、快感だよねえ」と言ったことを今でも忘れることができない。こういうことを堂々と言える人が編集している環境雑誌が格好悪くなる訳がない!と、それ以降、ビオシティというか杉田さんとの長い付き合いが始まることになる。そして、彼は私の最高の飲み友達の一人にもなった。

ビオシティでの執筆は数え切れないほどある。13号に市民参加のランドスケープを実践してきたランディ・へスター氏の取材記事、14号に低所得者住宅の建築家であるマイカル・パイアットク氏の取材記事、15号には当時、クリチバ市長であったカシオ・タニグチ氏への取材を含むクリチバの記事、16号にはカリフォルニアのバークレイ周辺で展開していたランドスケープを更正事業に取れ入れたプロジェクト紹介、18号にはシャロン・ズーキンの取材記事、20号にはオーギュスタン・ベルクの取材記事、22号には藤井絢子氏の取材記事、23号には片寄俊秀氏の取材記事、30号には建築家カール・ワージントン氏への取材を含む「グリーンベルトと環境デザイン」の記事、36号には「コンパクト・シティ再考—そもそも日本の都市はコンパクトである」というタイトルの記事、37号にはドイツ縮小都市研究所長であるフィリップ・オスワルト氏への取材を含む「人口減少都市の縮小計画 一般的現象としてのアプローチ」の記事、そして、43号には「ドイツの自動車不要コミュニティケルン・ニップスのシュテルヴェルク60」の事例紹介と「IBAエムシャーパーク再訪」という記事を編集、執筆させてもらった。

これらの記事は、その後「人間都市クリチバ」(学芸出版社)、「サステイナブルな未来をデザインする知恵」(鹿島出版会)という著書にもまとめることができ、特に前者は学会賞をいただくなど、その後の私の研究活動に大いなる弾みを与えてくれた。というように、改めて振り返ってみると、私にとってビオシティは恩人でもあり、私を育て鍛えてくれた学校でもあった。私の会社の後輩もビオシティで多くの記事を発表する機会を与えてもらい、誠にもって有り難い存在であった。

そのビオシティも47号をもって杉田さんは退くことになる。今後の展開はまだ見えないが、私にとっては「ビオシティ=杉田博樹」であったので、一時代が終わったのとの印象が強い。そして、素晴らしいコンテンツと斬新なデザイン、アート性を有していたにも関わらず、それが広く人々に訴求できなかったことは大変、残念である。私からすれば、遙かに「ソトコト」などより、格好よい雑誌であったが、私がいいと思うことは、世の中の人にあまり受け入れられないので、私が気に入った時点でビオシティの先行きもあまり明るいものではなかったのかもしれない。

原発の事故が起き、大量の土地、そして広範囲の海が放射能で汚染されてしまった今、ビオシティというコンセプトを論じるような余裕もなくなってしまったとも言えるかもしれない。しかし、一方で、この原発の背景には、我々が必要とする以上のエネルギーを使ってきたライフスタイルがある。例えば、今、多少、節電しているとはいえ、地下鉄のプラットフォームはそれでもヨーロッパのほとんどの都市のそれよりも明るい。なんで、こんなにエネルギーを使いたがるのだろう。このような状況を改変する指針を提示するという意味で、今こそ、ビオシティのような雑誌媒体が求められる。そういうことを考えると、杉田さんのビオシティがなくなったことは残念至極であり、そのような事態になることがほぼ見えていたにも関わらず、なんの助けも出来なかった自分が情けなく思われる。

ビオシティ NO.11

ビオシティ NO.11

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 大学図書
  • 発売日: 1997/06
  • メディア: 大型本



ビオシティ (No.24(2002))

ビオシティ (No.24(2002))

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ビオシティ
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 大型本



サステイナブルな未来をデザインする知恵

サステイナブルな未来をデザインする知恵

  • 作者: 服部 圭郎
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2006/04/14
  • メディア: 単行本



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