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ルドゥーの理想都市が一部実現したアル・ケ・スナンの王立製塩所を訪れる [都市デザイン]

世界遺産であるアル・ケ・スナンの王立製塩所を訪れる。これは、フランスの建築家ルドゥーが来るべき産業革命を意識して、新しい生産体制をとりこんだ理想都市として後に提案する考えを先取りして一部実現させたものである。1773年から1785年にかけて、中央管理棟と左右の工場およびそれを囲む住居棟のみが建設されたものだ。ルドゥーの計画案は全体が円形で、道路は放射状に組み込まれている。特に十字に交差する道路が都市骨格を形成していて、極めて幾何学的な構造をしていることがわかる。円の中心は管理棟が配置されて、左右に工場が置かれ、これを囲む環状に住宅が配置され、住宅の背後には庭が置かれている。しかし、この円形の部分の半分しか実現には至っていない。さらに計画では、この外側に各種の会館、工場、集合住宅など工業都市が必要とする都市施設が網羅的に配置されているのだが、これらも実現はされなかった。すなわち、中央管理棟の左右の工場、そして半円の環状に配置された住宅しか見ることはできない。実現されなかった理由は資金難である。(日笠端・日端康雄著の『都市計画』参照)。

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(半円分だけが実現に漕ぎ着けている)

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(塩がカメから流れ出ているところを表していると思われる不気味なオーナメント)

ルドゥーは1736年に生まれて1806年に没す。革命前は王室建築家であり、理想都市の計画論をもってしてこの製塩所を設計したのではなく、この製塩所をベースに理想都市の計画論を提案する。とはいえ、当然、この製塩所を設計した時に、理想都市を頭に描いたことは間違いないであろう。面白いほどの幾何学的形態で、当時の都市計画の考え方がよく理解できる。ヴェルサイユ宮殿にも通じる幾何学への偏愛が感じられる。また、このような考えがその後、フランスを中心にて展開するモダニズムのベースにあったのだなということも理解できる。

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(最終形のモデル)

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(最終形の計画図。直角に交差する骨格軸が印象的である)

現在、ここには二つの展示施設があり、一つはルドゥーの博物館で、彼の設計図やそれをもとにしたモデル等が展示されていて大変興味深い。球状の建物なども考えており、現在でもSF的な怪しさを放っている。建築家というよりかは空想家ともいうべき、自由な発想に驚く。もう一つの展示施設は、なぜか再生エネルギーに関する展示が為されていた。まあ、企画展示が為される場所として使われているのであろう。

さて、雨が降っていたのが残念ではあったが、都市計画を研究しているものとしては、ここは訪れない訳にはいかない。ということで、まあ興味深かったが、来るのは不便であった。高速道路から降りて1時間は走らされたし、相変わらずフランスの田舎道はよく分からない。とはいえ、鉄道で来るのはより不便なのではないだろうか。駅がすぐそばにあるので、アクセス面では悪くないとは思われるが、この駅に停まる電車がどのくらいあるのか。駅は無人駅のようであったし、このローカル線の駅にたどり着くのは結構大変なのではないか。

ということで、全般的な感想としては、都市計画に関心がなければ敢えて遠路はるばる来なくてもいいかなと思う。私はある意味では見なくてはならないという義務感のようなものを感じて訪れ、それなりに吸収するものがあったが、そのような関心がなければそれほど興味深くはないであろう。当時の都市を形成するうえでのスケールの捉え方、空間の演出方法、製塩という事業の持つ社会的重要性、ルドゥーという都市計画家の天才性など、ここに来ることで学べることは多いが、ここで得られる空間体験の密度はそれほど高くはない。「空間体験」という観点だけで考えるのであれば、都市計画でいえば比較的同時代のナンシーのスタニスラス広場、ヴェルサイユ宮殿などを訪れた方がいいであろう。もちろん、来る価値がないとはいえないが、その労力を考えると、何かのついでに訪れるようにするといいのではないかと思う。

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