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『ドイツ流街づくり読本』は鋭い批評に溢れている [書評]

私はアメリカの大学院で都市デザインの勉強をしてきた。だから、専門はと聞かれると都市デザインと答えるしかない。しかし、都市デザイナーとして認められる機会もなく、今は大学で経済学科の教員をしている。私が不要なぐらいだから、それじゃあ、日本の都市デザインが優れているのかと言われるとまったくそんなことはなく、私が手がけた方がよっぽどいい空間がつくれるような事例も多く見受けられる。ウルトラマンで町おこしとか言って、ウルトラマンのオブジェを都市デザインで使っている人とかいるくらいだから。しかし、私にはそっち方面の仕事の依頼が来ないのでしょうがない(とはいえ、もう業務から遠く離れて何年も経つので、実際きたとしても仕事は出来ないかもねえ)。まあ、都市デザイナーとしては負け犬である。とはいえ、経済学科の教員として勝ち組かと言われると、土俵にものぼっていないので何ともいえない。というか土俵に上れるのか、そもそも。

しかし、都市デザインの具体的なプロジェクトはともかくとして、都市デザインで何をやればうまくいって、何をやれば失敗するかということは事例研究をひたすら重ねていたので手に取るように分かる。しかし、これまた私の意見はそれほど受け入れられない。それどころか、位置づけとしてはマイノリティと捉えられているような気さえする。そのような私が、まさに我が意を得たり、と同感する本に出会った。水島信の『ドイツ流街づくり読本』である。この本はドイツ在住の都市計画家であり建築家である著者の、日独を対比した都市デザインに関する考えが記されているのだが、日本の都市デザイン行政の問題点が極めて鋭く分析している。よく考えると、このような本が今まで出なかったのが不思議であるが、私のように仕事が来ないものはともかくとして日頃、業務に携わっている人達がクライアントである行政を批判することなんて出来るわけがないから、これはドイツに住んでいる著者だからこそ忌憚なく書けたのであろう。

ドイツを始めとしたヨーロッパの最近の都市計画プロジェクト解説も興味深いが、肝は日本の都市デザイン、都市計画行政の問題を分析、整理している項である。拙著の『道路整備事業の大罪』は大罪などと抜かしている割に(私はこのタイトルに反対していたためなのだが)、その行政批判の切れ味は鈍い。というか、これは道路行政をストレートに批判している内容ではなく、ただ道路をつくっても経済効果はないね、ということを説明しようとした内容となっているからだ。それに比して、本書は行政を滅多切りにしている。この本こそ『日本の都市デザイン事業の大罪』というタイトルがふさわしいと思われる。いや、切れ味鋭く、見事問題点をついていて本当にその洞察力には感心する。

著者はドイツで都市計画・建築の仕事に携わっているが、日本の都市事例にも詳しい。日本の都市デザインの優れている点もしっかりと把握しており、よくある海外紹介ものに見られる「海外優等生、日本劣等生」的な単眼的な見方をしていないためにとても説得力がある。グローバルな世界における日本の価値、日本の優れている点をしっかりと把握したうえで客観的に日本の事情を分析しているのだ。最後の章で日本の街づくりへの提案を、新潟市を事例として行っているのだが、彼の都市デザインの考えを具体的な都市に応用させるとどうなるかということが理解できて参考になる。とはいえ、新潟市に不案内な読者や都市計画制度に詳しくない人にはちょっと難解かもしれない。私は新潟市をほとんど知らないので、この章はよく分からなかった。残念である。仙台市だったらよく分かっただろうに残念である。

上記の記述に加えて、18の「街づくり提案」という、英語でいうところのチップ、ちょっとしたヒントのような提案が脚注で紹介されているのだが、これがなかなか全てツボを突いていて楽しい。この提案だけで章をたてて欲しかったくらいである。全般的にとても充実しており感心するが、とりわけ「終わりに」が個人的には琴線に触れた。私のような実業から離れてしまった人間が言うのは忍びないが、まさに私もそう思う!というようなことが書かれている。まあ、たまたま私と似たような意見なので共感しているだけなのかもしれないが、日本が抱える問題への指摘は同じベクトルを向いていると思う。ドイツの都市計画に関心をもたれなくても読まれるといいと思う。ドイツの都市計画というよりかは、日本の都市計画がなぜうまくいかないか、その問題点が理解できる。本書を読んだ人達が、日本の都市デザインを少しでもよくするように動き始めてくれれば幸いである。ついでに私にも仕事をくれるとより幸いだ。

ドイツ流街づくり読本 ドイツの都市計画から日本の街づくりへ

ドイツ流街づくり読本 ドイツの都市計画から日本の街づくりへ

  • 作者: 水島 信
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2006/07/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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