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ジョン・ウー監督の『レッドクリフ』を観て、曹操の描かれ方に物足りなさを感じる [映画批評]

ジョン・ウー監督の『レッドクリフ』を観る。そこそこ楽しめたが、ちょっと物足りない点もあった。物足りない点は、曹操の描き方である。三国志演義では、劉備が正義で、曹操が悪という描かれ方をしている。それは、それで面白いのだが、曹操の凄まじいカリスマは、その後の中国のあり方を大きく変えるようなものであり、中国という大地が生み出したまさに大英傑である。善悪などの概念をも超越した存在であり、その点を見事に描写したのが週刊モーニングに掲載されていた『蒼天航路』である。『蒼天航路』で描かれる曹操の絶対的なカリスマの前には、諸葛亮孔明も劉備元徳もただの凡人と化してしまう。そして、そこで描かれる曹操は、圧倒的に魅力的である。

そのような曹操像をインプットされていることもあったので、『レッドクリフ』で描かれる曹操には物足りなさを感じたのである。曹操を演じた俳優は、元阪神の監督であった星野仙一のような風貌であった。とはいえ、星野仙一の方が怒った時には怖いような、どちらかというと、ちょっと腹の底が見えない中間管理職のようなタイプであり、どうにも絶対的な迫力が感じられないのである。どちらかというと、法律とかを使って相手を追い込むようなタイプであり、カリスマで部下を束ね、絶対的な軍略で敵を粉砕するといったカミソリのような鋭さが感じられなかったのである。この俳優からは、憎たらしいと思われつつも感服するようなカリスマは全然感じられなかった。小喬への想いも、エロ親爺的なものとして描かれていたが、たぶん、曹操の想いはもっと崇高だったのではないかと勝手に推察するのである。少なくとも、そういう風に解釈した方が、赤壁の戦いもよりドラマチックになると思われる。あと、曹操軍の描き方も十把一絡げという感じであり、この点が残念であった。曹操軍の面々もそれなりの人生があるわけなので、そこを丁寧に描くことによって、より戦いがドラマチックなものとして表現できるのに勿体なさを感じた。この点は、『蒼天航路』は非常に優れていて、それがこの漫画を傑作にしているのである。

まあ、ちょっとケチをつけたが、それでも総合的には面白い映画であった。一部、二部に分かれており、二部にクライマックスを置いているので、一部だけでは何とも評価もし難いが、二部を観たいと思わせるだけのクオリティではあると思う。周瑜はなかなか魅力的であるし、孫権の眼光の鋭さもいい。趙雲も存在感があったし、諸葛亮の金城武もよかった。小喬も、これが中国人の考える美人像なのかと納得させるようなオーラを発していた。曹操と曹操軍以外は、結構、よく描かれていたのである。しかし、逆にその対比が、赤壁の戦いの劉備・孫権側の圧倒的な危機をうまく表現できていない要因になってしまっている気がする。曹操はおっかねえ、というのがあまり伝わらなくて、そこは残念であった。


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