SSブログ

李明博氏の『ソウル大改造』を読み、心が震える。必読本だ。 [書評]

李明博氏の『ソウル大改造』を読む。首都ソウルのど真ん中。1日17万台もの自動車が通る高架道路を取り壊し、その下を流れていたどぶ川暗渠に光を当て、清い水が流れる憩いの川にする大事業「チョンゲチョン川再生プロジェクト」。このプロジェクトをいかに実践してきたのか、その主役であった現在、大統領である李明博元市長の手記である。言うは易く行うは難し。李氏は、この事業を公約として市長選を戦い、当選する。「不可能だという理由は数多あったが、可能性を示す条件は少なかった」。しかし、李市長は諦めない。「どうしてやりもしないで、不可能だというのか。人事を尽くして天命を待つというではないか。たとえ困難だとしても、我々は必ずやり遂げなければならない。そう信じて精魂を傾けて熱心にやれば、必ずよい結果を結ぶ。これが向かい風にあらがって歩んできた人生から得た教訓である。」
 そして、一つ一つ課題に取り組み、解決していく。交通渋滞について対応し、洪水という自然災害とも戦う。世論と政府を見方にし、難しい高速道路撤去工事を遂行する。歴史的遺産が発掘され、その徹底保全を主張する人たちとの交渉、商人との移転交渉、そして露天商達との対立。この本は、単なる巨大プロジェクトの成功物語ではない。一大ドラマというか大活劇である。はらはらどきどきさせられながら、一挙に読ませる。結論は知っているが、それでも、こんな展開になって次はどうなるのだろう、と思わせられる。市長という仕事が本来的には素晴らしい仕事であることが理解できる。しかし、その仕事を素晴らしくするには、市長の資質が問われるのである。李氏は素晴らしい資質を有している。


都市伝説 ソウル大改造

都市伝説 ソウル大改造

  • 作者: 李 明博
  • 出版社/メーカー: マネジメント社
  • 発売日: 2007/08
  • メディア: 単行本



 これらの課題を解決させることができた要因は、李氏の傑出したリーダーシップである。揺るぎない有言実行の信念、信頼を得るための忍耐強さと対話、妥協をしない強固な意志、そして貧しい人たち、弱い人たちの状況をしっかりと把握する想像力と人間的優しさ。ソウルそして韓国の、この素晴らしい政治的リーダーは、我が国の総理大臣とは雲泥の差、というかまったく別次元の人間であることを知る。なぜ、日本の方が人口も多いのに、こんなに国家のリーダーに差が出ているのだろうか。日本の何かが根源的に間違っていることを認識させられる。
 我が国がなぜ停滞しているのか。韓国との政治的リーダーの差だけでなく、いろいろな我が国の問題点が見えてくる。李市長は、「日本は決して21世紀の先進国とはなり得ない」と我が国にダメ出しをする。「経済的な効率性ばかり計算する時代はすでに終わっているのに、開発と環境破壊の象徴である高架道路一つ取り外すことのできない国が何で先進国か」と、東京の日本橋を高架道路で塞いだままでいる日本のことを批判する。
 日本橋どころではない。聖なる山である高尾山の土手腹にトンネルを堀り、道路を通そうとしているのが、我が国の実態である。隣国である韓国との環境に対する意識の差には愕然とする。隣国では道路を撤廃して都市を再生する事業を実践したことで、経済的価値、社会的価値、環境的価値を生み出し、環境政策の分野でも世界をリードする名声を得たにも関わらず、我が国は相変わらず、道路整備に未だ邁進している。悲しくなる。
 我が国は、李氏のような政治的リーダーが必要である。そして、そのようなリーダーは決して世襲議員の中からは生まれてこないであろう。李氏は「貧しい農家の息子として生まれ、高等学校時代から昼間はパンや飴、蚕のさなぎなどを打って学費を稼いで夜間部に通い、チョンゲチョン川の川縁にある古本屋で本をあさりながら勉強し、高麗大学を卒業した」ような苦労人なのである。このような苦労人であるからこそ、困難な道を切り開くことができたのだ。翻って我が国をみれば、首相は世襲議員ばかり。お坊ちゃまだから、ちょっとした困難ですぐ政権を放り投げる。放り投げても、また次もお坊ちゃまで放り投げる。「下々の人々」、「あなたとは違うんです」という感覚で、国民が豊かになる政策を遂行できる訳がない。この膠着状態に陥る日本人の目を覚ます効果のある日本人必読の書である。

nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0