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『いいまちづくりが防災の基本』を読み、片寄俊秀先生の偉大さを再認識する [書評]

『いいまちづくりが防災の基本』という80頁足らずの本を読む。長崎総合科学大学の教員時代に長崎の眼鏡橋の保全運動に取り組み、その後、関西学院大学に移った後は、三田の商店街にゼミ部屋を設置し、いわゆる「まちラボ」の草分けとした片寄俊秀先生の著書である。この本は先生からいただいたのだが、自治体のパンフレットのような体裁であり、積極的に読もうと思えなかった。


いいまちづくりが防災の基本―災害列島日本でめざすは“花鳥風月のまちづくり”自治体議会政策学会叢書・Copa Books] (COPABOOKS)

いいまちづくりが防災の基本―災害列島日本でめざすは“花鳥風月のまちづくり”自治体議会政策学会叢書・Copa Books] (COPABOOKS)

  • 作者: 片寄 秀俊
  • 出版社/メーカー: イマジン出版
  • 発売日: 2007/04/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 しかし、読んでみると、素晴らしい内容であるのに驚いた。日本の都市がいかに災害に脆弱であるか、しかも、その脆弱性に対していかに無頓着であるか、また政策的にもしっかりと対応できていないか、といったことを説明している。説明は先生の実務家、そして研究者としての経験に基づいており、説得力がある。
 片寄先生はサービス精神が旺盛で、前著の『まちづくり道場へようこそ』でも、ちょっと読者の気を引こうと冗談を書いたりする。それはそれで、いい味を出しているのだが、本質的な課題が多少、ぼやけてしまう時もある。本書は字数が少ないこともあり、そのような回り道はなく、一直線で問題の状況、要因、その対応策をまとめているので、大変分かりやすい。そして、極めて啓蒙的である。災害時において高層マンションに住んでいたら、いかに危険であるか。災害時において地下街にいたら阿鼻叫喚の地獄絵さながらの状況になる、というのは指摘されるとまさにそうなのだろうが、なかなか自覚をしないで日々、生活している。まあ、地下街にいかずに東京で生活するのは難しいが、高層マンションに住まないようにするということは容易に選択できる。というか、高層マンションに住んでいる人達は強制されている訳ではなく、自らが選んでいるのだから、よくよく考えると不思議である。自分の身を危険な状態に好んで晒しているということだからだ。その危険性を、この本は気付かせてくれる。
 豊洲のマンションは80㎡くらいでなんと8000万円の値段をつけていた。不動産が下落していてこの値段であるから、元は1億円くらいだったのかもしれない。地震や停電などに対して、おそろしく脆弱であり、また地盤が液状化するような埋立地に建っているマンションにしては随分と高い。しかし、価格は需要と供給で決まるのだから、それだけ需要があるということだろう。不思議だ。地方都市だと土地は多くあり、高層マンションに住む必然性がないにも関わらず、高層マンションは売れているそうである。これも不思議な現象である。
 この本は、よく考えると当たり前であるのに我々が普段、気付かないようにしている都市災害の問題をわかりやすく説明してくれており、80頁で1000円というのは多少、高いと思うかもしれないが、8000万円の高層マンションを買う前には是非とも読むことを勧めたい。8000万円に比べれば1000円という価格は恐ろしく安いし、この本によって本当に8000万円の価値がその高層マンションにあるのか、ということに気付かせてくれることを考えると、大変お得な本である。

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