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『エブリシング・エブリホエア・オール・アット・ワンス』 [映画批評]

2022年の製作のハリウッド映画で、今年のグラミー賞を総ナメした『エブリシング・エブリホエア・オール・アット・ワンス』を観た。パラレル・ワールドのストーリーで、プロットは比較的興味深いが、その世界観はマトリックスには遠く及ばず、ジョジョの不思議な冒険の第七部「スティール・ボール・ラン」の方が迫力があった。ただ、この映画はグラミー賞の主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞をとるだけあって、俳優の演技はよくて、それが、この荒唐無稽なシナリオを救っている。
しかし、このSF映画がハリウッドでこれだけ評価されたのは、ハリウッド映画の近年のストーリー・テリングの貧相さを示唆していると考えられる。というのは、日本人は、この程度のストーリーではワクワクしないぐらい、「ジョジョの不思議な冒険」に始まり、「20世紀少年」、「サイボーグ009」、「鉄腕アトム」など極めて物語性の高いSFに小さい時から親しんでいるからである。私が小学生の時、「スターワーズ」のブームが起きたが、私はウルトラマン・シリーズの方がはるかに格好よく、宇宙人も洗練されていると思ったものである。その気持ちは今も変わらない。もちろん、ハリウッドのSF映画でも「ブラジル」や「ブレード・ランナー」などは大好きではあるが、総じて、日本の方がはるかに刺激的な作品が多いと思う。そういうのが日本のアニメが世界のオタクに受けいれられている背景にあるのかと思うが、エブエブはそういう素養の浅いアメリカ人には受けても、日本人にはそんなに受けないのじゃないかな、と思わせる。

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宇宙団@新代田(レコ発ライブ) [宇宙団]

3月29日、宇宙団が3枚目のCDを発売したので、レコ発のライブを観に新代田フィーバーへ。今回のライブは5人体制になってからの初めてのワンマン・ライブで、宇宙団ファンである私にとっては素晴らしいライブとなった。3枚目のCDからは9曲全曲、それに1枚目からは「恋は宇宙」、そしてひさしぶりの「オンタイムディスコ」、2枚目からは「文明鎮座」、「夏に寄せて」、「日本のヒーロー」、さらには、もう日本音楽史に残るのではと思わせる「エンドロール」、「ユートピア」を演奏した。90分ぐらいのライブなのでなかなか満足したのではと思われるかもしれないが、なんで2枚目の代表曲「ヘルプ」と「ラブリーチューンXX」を演奏しないんだ!これはドゥービーブラザースが「チャイナ・グローブ」と「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」を演奏しないのと同じようなもんじゃないか!と思わなくもないが、代わりに演奏した曲もいいので取りあえずよしとします。宇宙団は捨て曲、ないんで。新メンバーの今野君はカッティングが半端なく格好いい。そして、高のしまは、それまで宇宙団に欠けていたアイドル的な魅力を有している。まあ、これから先が期待できます。

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フィンランドの子供の給食を食べない問題 [グローバルな問題]

フィンランドの子供の3割ぐらいが給食を食べないそうだ。フィンランドでは小学校で無料の給食が提供されている。これは、子供たちにしっかりと栄養を取ってもらうことと、社会的公平性を意識してのことだそうだ。金持ちと貧乏人が同じ食事で育つ、というのは社会的安定性にも繋がるし、個人的にはとてもいいことだと思う。働くお母さん(いや、お弁当はお母さんが必ずしもつくる必要はないかとは思うが)にも有り難い制度だと思う。
 さて、しかし、その給食も食べてもらわなくてはその役割を果たせない。それじゃあ、なんで食べないのか、と尋ねると、「嫌いなものを拒否するというのがクール(格好いい)というような風潮があるからだ」との回答を受けた。つまり、「お前、こんな不味いものを食えるのかよ」と発言が強い同級生が言うと、「俺もこんなものは食わないわ」と同調するそうだ。え、そんなもんかな、と思ったりもしたが、多くの現地の先生が、「うんだ、うんだ」とその意見に頷いたので、そうなのかもしれない。
 私とかも確かにアメリカの小学校に通っていた時、これは食べる、これは食べない、といやに好き嫌いが激しく、我が儘だった悪ガキがいた。ただ、この悪ガキが、みんなが嫌いだった「チリ・ビーンズ」を「これは俺の好物なんだ」と嬉しそうに食べていたのをみて感心したことを記憶している。私も当時は、この「チリ・ビーンズ」が嫌いだったからだ。
 自分の子供の記憶を振り返っても、アメリカ人の子供の方が日本人の子供に比べて、はるかに好き嫌いが激しく偏食が多い。すなわち、我が儘である。日本人の子供は、給食で「好き嫌い」を相当、強制的に直させられるので、それは長期的にみると子供にとってプラスだと思う。なぜなら子供の舌は必ずしも、その成長にプラスなものを求めるとは限らないからだ。
 しかし、この日本の話をフィンランドでしたら、それはハラスメントだと言われる。確かに、そのような側面もないとは言わないが、家庭でしっかりと偏食を直せるだけの余裕があればいいが、実際はなかなか難しい家庭も多いのではないだろうか。偏食は生きていくうえで経済的にも栄養的にも不利をもたらすだけでなく、豊かな食生活を享受する機会を奪う。フィンランドは世界で一番、料理が不味いと言われる。その理由はいくつかあるだろうが、給食を残す子供の割合を減らす施策をすることで、少しは改善できるのではないだろうか。

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2021年の欧州グリーン首都「ラハティ」を訪れる [サステイナブルな問題]

フィンランドのラハティを訪れている。ラハティは2021年の欧州グリーン首都に選定された。「持続可能性」が評価されてのことだが、具体的にはどういうことなのだろうか。まず、交通。自転車のネットワーク整備、交通モバイル・アプリの開発などをしている。次は土地利用。緑地の整備、あと住宅地の高密度化などが図られている。そして、生物多様性。都市のそばに優れた自然環境が提供されている。モモンガなどが生息している。あと大気の管理。そして、リサイクル。ラハティは繊維産業が盛んだが、そこから出る産業廃棄物もしっかりとリサイクルするように心がけられている。企業が行政と協働して循環型システムを構築しようとしている。あとリサイクルは、カンやビンを回収のためにもっていくとお金をもらうことができる。ちなみにカンでも回収にもっていくと15セント返金してもらえる。水質管理は湖の汚染問題に対応してきたが治水にもしっかりと対応、下水道の管理もしっかりとやってきている。
ただ、オリジナルなアイデアは特に見つからない。リサイクル率(41%)を高めるための施策は、子供にしっかりとリサイクルの大切さを教育したことであると説明したが、これはまさにジャイメ・レルネル氏のもとでクリチバ市が1990年頃に実施した政策である。下水を池に貯めて葦などの草を使って浄化するというのは日本を含めてアジアの諸地方で実施されてきたことである。ただ、それらを謙虚に学び、何か自分達のプラスになると考えたら積極的に導入するということは、簡単なようで難しい。それに対してはラハティを評価することができるのではないだろうか。ただ、多くの環境先進都市を訪れて「それは凄いアイデアだ!」といった、驚くような発見をすることはなかった。

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フィンランドが世界一幸福である背景 [グローバルな問題]

アメリカンの調査会社であるギャラップ社が、「世界幸福度ランキング」というものを発表している。これは世界149カ国を対象としたものだが、それが2022年まで5回連続で首位となったのがフィンランドである。この世界幸福度は「国民一人当たりのGDP」、「社会支援」「健康寿命」「人生選択の自由」「他者への寛容さ」「汚職や腐敗の認知」「世界最低の国の平均値との残余値を合計したもの」という7つの指標の和として評価されている。
 ちなみに、フィンランドの次はデンマーク、アイスランド、スイス、オランダと続き、アメリカは16位、日本は54位である。日本は圧倒的に「他者への寛容さ」が低い。
 そこで、フィンランド人に「何で?」と尋ねたら、人を「リスペクト」するからじゃないか、との回答。リスペクトされると幸せな気分になるし、周りの人をリスペクトするとちょっと気分がいい。確かに、私は最近、大学で怒ることが多いが、それが事務が教員をあまりにもリスペクトしないからだ。その結果、こちらもリスペクトしなくて、幸せではない仕事環境になってしまう。そのような環境が「他者への寛容さ」の著しい低い点に繋がっているとしたら残念だ。53位のウズベキスタンの方がこの点ははるかに高い。
 このような指標をみると、フィンランドから学ぶことは多いかもしれない。ちなみに、我々がお世話になったラハティ応用科学大学では、ロシア人の助手と、今回の戦争で亡命してきたウクライナ人の助手とが一緒に仲良く働いていた。よく考えれば当たり前の光景なのかもしれないが、こういうことは日本だとなかなか上手くできないような気もする。アメリカとかだともっと悲惨かもしれないが。

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羽田空港の国際線の手荷物検査が90分待ちだった [グローバルな問題]

羽田空港の国際線ターミナルを使った。飛行機の出発時間の2時間前に着いたので余裕かと思ったら、なんと手荷物検査に信じられないような長蛇の列が出来ていた。最後尾の看板を持っていた人にここからだと何分ですか、と尋ねると「90分は待ちますね」と回答する。90分だと間に合わない。とはいえ、何をしていいか分からないのでとりあえず並んで待っていた。途中、係員に尋ねると「JALだったらFacial Passが使えます」と教えてくれた。幸い、JALだったのでFacial Passを使い、すぐ手荷物検査をすることができた。現時点でJALしか使えないような状況だったのでついていたが、いやはや、どうなっているんだ、羽田空港。これじゃあ、まるでブラジルとかインドネシアだ。
 全般的に世界に誇る日本の効率性があちらこちらで失われている。これの経済的ロスも相当、大きいのではないかと思われる。しかし、それを日本が招いていることもあるだろう。例えば、関空を利用する国際線が大幅に減少したので、ニューヨーク大都市圏と同じ関西大都市圏の人々が羽田空港を使うことを余儀なくされている。1億2000万人の人口を擁して、世界3番目の経済規模の国が国際線ターミナルを実質的に二つ(羽田と成田)にしていれば、必然的にこのような混雑と混乱が生じるのは当たり前である。
 そりゃ、経済も低迷するよな。効率性とユビキュタス性を失えば、そりゃ厳しくなる、ということをこの手荷物検査の90分待ちは我々に示唆していると思われる。

タグ:羽田空港
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レルネルさんと車 [都市デザイン]

クリチバ市の元市長であったレルネルさんは、いろいろと自動車について興味深い発言をされてきた。「自動車は都市のコレステロールである」、「自動車は姑のようなものだ。やっかいだが縁を切る訳にはいかず、付き合っていかなくてはならない」などである。
 さて、しかし、BRTを発明したレルネルさんが、どのような自家用車を保有していたのかは今まで尋ねることもしなかったし、彼が自家用車の話をしたことは一度もない。ただ、バスのネットワークが充実しているとはいえ、ブラジルの都市、クリチバである。さすがに自動車を保有しているだろう。ということで、今回、彼の次女のイラーニャさんと話をする機会に恵まれたので、そこらへんを知ることができた。
 レルネルさんの自家用車はアルファ・ロメオ。おお、やはり腐っても市長、州知事だ。高級車に乗っていたのだな、と思ったら、イラーニャさんが、そのニックネームは「腐敗物」(Rotten)と言うではないか。どうも、このレルネルさんのアルファ・ロメオは中古車らしくて、あまりの酷さに奥様が付けたニックネームだそうだ。アルファ・ロメオというと日本だと高級車というイメージだが、ブラジルだとそれほど有り難い車ではないのかもしれない。しかし、有機物でもない自動車なのに「腐敗物」という渾名が付けられるとは、どんな車なのか。ちょっと興味が湧く。
 ちなみに、そんな感じであるから、子供たちの車もおそろしく安い中古車しか買ってくれなかったそうだ。イラーニャさんは、お姉さんのお下がりをもらったので、もう本当に友達に見せるのが恥ずかしかったそうだ。しかし、そんなぼろ車なのに(というか、ぼろ車だからか)4回も盗難されたそうである。あまりにも盗難されるので、警察も4回目の盗難時は「まさか、また盗まれたんじゃないよな」とイラーニャさんの顔を見たら言ったそうである。さて、しかし、その話を私と一緒に聞いていたレルネルさんの市長時代に環境部長を務めた中村ひとしさんの長女のサンドラさんは「私は6回盗まれましたよ」と言ったので、またまた驚き。ちなみに中村ひとしさんも、レルネルさんも自動車は一度も盗まれていないので、盗まれ癖というのはあるかもしれない。
 サンドラさんは、一度は、友達の家に行き、自動車から降りようとしたら、自動車泥棒に銃口を頭に突きつけられて、車に戻れ、と言われたことがあるそうだ。彼女は強く拒否して抵抗し、友達のマンションの守衛が現れたすきをみて逃げ出し事なきを得たのだが(というか、その後、友達と一緒に自分の車に乗って逃走した泥棒グループを追いかけた)、なんかブラジルで生きることは日本と本当、危険度のレベルが半端ないなということを、こういうエピソードからも思い知らされる。
 まあ、話が逸れてしまったが、レルネルさんはやはり自動車をそんなに好きじゃないんだな、ということを知る。
 ちなみに、私も「自動車に乗らない贅沢」などと宣っていたが、京都に大学を移した時に生まれて初めて55歳で自動車を買った(それまでは父親が亡くなった時、彼の車を相続したりしたことはある)。ミニだ。まあ、ほとんど使わないが、バンドの練習(エフェクターが重いので)、京都と東京間で荷物を運ぶ時と、山登り、スキー(一年に一度行けるかどうかぐらいだが)では使っている。

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映画『ドライブ・マイ・カー』 [映画批評]

第74回カンヌ国際映画祭で日本映画初となる脚本賞を含む計3部門を受賞した2021年の映画。第94回アカデミー賞でも国際長編映画賞を受賞した。ということで、見なくてはいけないな、と思っていたのだが、国際線に乗ったらちょうどビデオ・ライブラリーに含まれていたので観た。

さて、その内容だがたいへん濃く、いろいろと考えさせられるいい映画であった。流石、村上春樹という感じで、最後の主人公の心情の吐露は心を揺さぶる。その主人公を演じた西島秀俊の演技は村上春樹がつくりだす空気感にぴったりと合っている。見事な配役だ。韓国や台湾といった俳優陣もなかなかよく、この映画の魅力を増すのに貢献している。

カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で受賞するだけの、国境を越えて人間に訴える力を持っている映画である。若い人にはどう響くか分からないが、私のように還暦に近い人間にはちょっと心を揺さぶるような力を持った映画である。


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クリチバの最大・最凶のファベラ『カシンバ』を訪れる [サステイナブルな問題]

ブラジルの最大の都市問題は、これはやはり不法占拠(ファベラ)問題に尽きると思う。不法占拠は本当に根が深くて、ブラジリアとかだと金持ちでも不法占拠をするので、単に貧困の問題として片付けられないところがある。そこは、警察も政府も入ることができない無法地帯である。
 さて、しかし、クリチバはこのファベラ問題に果敢に対処して、大きな成果をあげてきた。具体的には社会住宅という名の公共住宅を大量に供給し、これらファベラに住んでいる人達がそこから移り住めることを可能とした。また、ごみ問題に関しては、ユネスコからも賞を受けた「ゴミ買い運動」などで見事に対処した。
 しかし、カシオ谷口氏が市長を辞めてからの16年間ぐらいの都市計画空白期間にファベラ問題が放置されたこともあり、クリチバも他のブラジルの都市のようなファベラが増えつつある。私が調べた時点(2023年3月)では、クリチバのファベラの数は30ぐらいだそうだ。そして、そのようなファベラの中でも現在、最大で最凶なのはクリチバ市の最南部、イグアス川とバリグイ川の合流点そばにできたカシンバである。
 カシンバの土地は、そもそもは民地であった。しかし、バリグイ川の上流にあったペトロブラスの石油精製所が石油流出という事故を起こし、その賠償として、この民地を買い取った。そして、パラナ州政府に譲渡する。パラナ州政府は、その後、ここを何もせずに放っておいた。そしたら不法占拠が始まったのである。ここの開発状況を時系列で、空中写真で見ることができるのだが、もう、本当、あっという間にどんどんと広がっていることが分かる。
 これはクリチバの前回の市長選(2016年)でも争点となり、当選したグレカ市長は、このファベラの存在を市の最大の課題として位置づけ、フランスの開発銀行のお金を獲得して、ここをどうにかしようと取り組んでいる。グレカ市長は、1992年に3期目のレルネル市長の後を継いで37歳という若さで市長になった人で、途中、多少、政党的にはアンチ・レルネル派になったりしたが、都市計画でクリチバの都市問題を解決するというアプローチはレルネル市長と同じである。
 このカシンバ問題は、クリチバ市の都市計画研究所(IPPUC)が先頭に立っている。私も取材をしたのだが、IPPUCの人達も久しぶりに都市計画に盛り上がっている。ただ、ファベラのギャングのボスを捕まえようとして、大量の警官が取り締まろうと家宅捜査するが取り逃がし、それでファベラのボスが切れてコミュニティのキーパーソンだった女性が通報したと誤解して殺害。その女性を支持していた反ギャング派がボスと実行班の二人を殺害。警官もそうだが、市役所もなかなかファベラに入れないような状況になっている。
そこでIPPUCとファベラのコミュニティを繋いでいるのが元クリチバの環境局長であり「ごみ買い運動」を推進した中村ひとしさんの長女、サンドラさんである。市役所の職員であったお父さんと民間のサンドラさんとでは立場は違うが、同じようにファベラの人達とコミュニケーションを通じて、その状況を改善させようとしているのは運命的である。私もサンドラさんと一緒に現地に行かせてもらった。彼女は現在、コミュニティ・キッチンに食材を提供する仕事をしているので、コミュニティ・キッチンとそこのリーダーであるおばさんを訪れさせてもらった。このコミュニティ・キッチンには巨大な冷蔵庫が数台あり、その中には食材が保管されている。一日に一度、食べ物をコミュニティの人達に配付することをしているようだ。
ちなみに、私が握手をしたコミュニティ・キッチンのおばさんの息子が、ギャングのボスを殺した暗殺者の可能性もあるそうだ。なんか、にこやかな青年に見えたんだけど。また、サンドラさんは、このコミュニティ・キッチン側には随分と信頼されているようで、「誰か殺したい奴がいたら言ってくれ、殺しておくから」と言われたそうだ。なんか、こういうギャング的な世界は全然、縁がないのでもう驚くしかない。
カシンバは社会的な問題もそうだが、環境的にもバリグイ川が氾濫すると、コミュニテイの半分以上が水没するそうだ。そういう意味でも、現在、氾濫原からちょっと標高が高い場所に新たに住宅をつくり、そこに移転させる計画を策定しているそうだ。
しかし、そのような開発が行われるとニュースに報道されたりしたので、カシンバに来る人が増えている。そこで、新しい人達は補助の対象にならないのと、フランスの開発銀行に提出した申請書と実際の数字が異なると補助金がもらえなくなる、ということをコミュニティの人達に説明した。その結果、新たに来る人にここには住まないでくれ、と伝えるのはコミュニティの人達が積極的にしてくれるとのことである。
さて、現在、総力でカシンバ問題に取り組んでいるクリチバ市役所であるが、昔であったら、こういうファベラが出来そうだと、すぐ迅速に対応して、問題が大きくなる前に芽を取っていた。それが、官僚主義がクリチバ市でも広がってしまい、問題への対処が後手後手になってしまうようだ。いろいろと考えさせられるクリチバのカシンバ問題である。

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<カシンバの中央通り?>

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<この地域はバリグイ川が氾濫すると水没する>

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<クリチバ市のファベラでは見られないゴミの多さ。これでも、ちょっと前よりは随分と改善はされているそうだ>

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<コミュニティ・キッチン>


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ジャイメ・レルネル氏の次女のイラーニャさんと故人を偲ぶ [都市デザイン]

ジャイメ・レルネルさんの事務所を訪れ、次女のイラーニャさんとお会いする。会うのは初めてである。中村ひとしさんの長女のサンドラさんに同行していただいた。ジャイメさんは2021年5月27日に亡くなられたのだが、亡くなられる半年ぐらい前から体調が優れなくなっていた。イラーニャさんに言わせると「病気のショッピング・センター」。コロナがきっかけで亡くなったというのは事実のようだが、コロナに罹患した後は一時期、回復したそうだ。ただ、腎臓にダメージが及んだようで、その悪化で亡くなられた。ただ、亡くなるまでは本当、眠ってばかりであり、亡くなる時も眠りながら永眠されたそうだ。敬愛している人の最期のお話を聞くのは悲しくて辛いが、一方で救われた気持ちにもなる。亡くなられて1年半が経ち、ようやく私もお送りすることができた気持ちになる。
 さて、せっかくの貴重な機会であったので、私が長年、疑問として抱いていた「なぜ、政治的なコネクションもないジャイメ・レルネル氏が34歳という若さで市長になれたのか」ということをイラーニャさんに尋ねてみた。その回答は次の通りである。
 ジャイメ・レルネル氏はパラナ大学の土木工学科を卒業するが、その後、同大学に建築学科ができる。そこで、建築学科に入り直すのだが、教員が不足していたため、学生をしながら教員をするようなことをしていた。そして、その頃、サンパウロの都市計画コンサルタントがクリチバ市のマスタープランを作成するので、それを手伝ってくれとジャイメ達にお願いする。そして、一緒にマスタープランを作成するのだが、内容が気にいらなかったジャイメ達は大幅に変えてしまう。そして、そのマスタープランの提案としてつくられたIPPUC(クリチバ都市計画研究所)の初代所長となる。
 そして、1971年にクリチバの市長にパラナ州知事によって任命されるのだが、その当時の市長は軍事政権下であり、あくまでもトップダウン。いつ首になってもいいような位置づけであった。イラーニャさんによれば、マスタープランの作成をし、IPPUCの所長であったジャイメを市長に任命するのは、市長の重みが軽い当時としては、それほど不思議ではないと言いつつ、このマスタープランを一緒に作成したレルネル氏より年輩のフォーティナイト氏は、この人事が随分と面白くなかったようだ。それから、ほぼ絶縁をして、レルネル氏と付き合うことはなかったと言う。このフォーティナイト氏は、自分が市長に任命されると確信していたそうで、レルネル氏が任命されたのは想定外であったそうである。なぜ、フォーティナイト氏ではなくて、レルネル氏なのか。それは、州知事との相性だったのではないか、というのがイラーニャさんの推察である。ちなみに州知事も任命制なので、こういう首長的ポストは現在とはまったく違う、ということのようである。
 他にも中村ひとしさんとの凸凹コンビの話、レルネルさんの日本での思い出話、ぼろい中古車しか買ってくれずに恥ずかしい思いをした話などをしてくれた。改めて、ジャイメ・レルネル氏と知り合ったことが自分の人生にとっていかに貴重で有り難いことであるかを確信するような一日であった。

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