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クリチバの最大・最凶のファベラ『カシンバ』を訪れる [サステイナブルな問題]

ブラジルの最大の都市問題は、これはやはり不法占拠(ファベラ)問題に尽きると思う。不法占拠は本当に根が深くて、ブラジリアとかだと金持ちでも不法占拠をするので、単に貧困の問題として片付けられないところがある。そこは、警察も政府も入ることができない無法地帯である。
 さて、しかし、クリチバはこのファベラ問題に果敢に対処して、大きな成果をあげてきた。具体的には社会住宅という名の公共住宅を大量に供給し、これらファベラに住んでいる人達がそこから移り住めることを可能とした。また、ごみ問題に関しては、ユネスコからも賞を受けた「ゴミ買い運動」などで見事に対処した。
 しかし、カシオ谷口氏が市長を辞めてからの16年間ぐらいの都市計画空白期間にファベラ問題が放置されたこともあり、クリチバも他のブラジルの都市のようなファベラが増えつつある。私が調べた時点(2023年3月)では、クリチバのファベラの数は30ぐらいだそうだ。そして、そのようなファベラの中でも現在、最大で最凶なのはクリチバ市の最南部、イグアス川とバリグイ川の合流点そばにできたカシンバである。
 カシンバの土地は、そもそもは民地であった。しかし、バリグイ川の上流にあったペトロブラスの石油精製所が石油流出という事故を起こし、その賠償として、この民地を買い取った。そして、パラナ州政府に譲渡する。パラナ州政府は、その後、ここを何もせずに放っておいた。そしたら不法占拠が始まったのである。ここの開発状況を時系列で、空中写真で見ることができるのだが、もう、本当、あっという間にどんどんと広がっていることが分かる。
 これはクリチバの前回の市長選(2016年)でも争点となり、当選したグレカ市長は、このファベラの存在を市の最大の課題として位置づけ、フランスの開発銀行のお金を獲得して、ここをどうにかしようと取り組んでいる。グレカ市長は、1992年に3期目のレルネル市長の後を継いで37歳という若さで市長になった人で、途中、多少、政党的にはアンチ・レルネル派になったりしたが、都市計画でクリチバの都市問題を解決するというアプローチはレルネル市長と同じである。
 このカシンバ問題は、クリチバ市の都市計画研究所(IPPUC)が先頭に立っている。私も取材をしたのだが、IPPUCの人達も久しぶりに都市計画に盛り上がっている。ただ、ファベラのギャングのボスを捕まえようとして、大量の警官が取り締まろうと家宅捜査するが取り逃がし、それでファベラのボスが切れてコミュニティのキーパーソンだった女性が通報したと誤解して殺害。その女性を支持していた反ギャング派がボスと実行班の二人を殺害。警官もそうだが、市役所もなかなかファベラに入れないような状況になっている。
そこでIPPUCとファベラのコミュニティを繋いでいるのが元クリチバの環境局長であり「ごみ買い運動」を推進した中村ひとしさんの長女、サンドラさんである。市役所の職員であったお父さんと民間のサンドラさんとでは立場は違うが、同じようにファベラの人達とコミュニケーションを通じて、その状況を改善させようとしているのは運命的である。私もサンドラさんと一緒に現地に行かせてもらった。彼女は現在、コミュニティ・キッチンに食材を提供する仕事をしているので、コミュニティ・キッチンとそこのリーダーであるおばさんを訪れさせてもらった。このコミュニティ・キッチンには巨大な冷蔵庫が数台あり、その中には食材が保管されている。一日に一度、食べ物をコミュニティの人達に配付することをしているようだ。
ちなみに、私が握手をしたコミュニティ・キッチンのおばさんの息子が、ギャングのボスを殺した暗殺者の可能性もあるそうだ。なんか、にこやかな青年に見えたんだけど。また、サンドラさんは、このコミュニティ・キッチン側には随分と信頼されているようで、「誰か殺したい奴がいたら言ってくれ、殺しておくから」と言われたそうだ。なんか、こういうギャング的な世界は全然、縁がないのでもう驚くしかない。
カシンバは社会的な問題もそうだが、環境的にもバリグイ川が氾濫すると、コミュニテイの半分以上が水没するそうだ。そういう意味でも、現在、氾濫原からちょっと標高が高い場所に新たに住宅をつくり、そこに移転させる計画を策定しているそうだ。
しかし、そのような開発が行われるとニュースに報道されたりしたので、カシンバに来る人が増えている。そこで、新しい人達は補助の対象にならないのと、フランスの開発銀行に提出した申請書と実際の数字が異なると補助金がもらえなくなる、ということをコミュニティの人達に説明した。その結果、新たに来る人にここには住まないでくれ、と伝えるのはコミュニティの人達が積極的にしてくれるとのことである。
さて、現在、総力でカシンバ問題に取り組んでいるクリチバ市役所であるが、昔であったら、こういうファベラが出来そうだと、すぐ迅速に対応して、問題が大きくなる前に芽を取っていた。それが、官僚主義がクリチバ市でも広がってしまい、問題への対処が後手後手になってしまうようだ。いろいろと考えさせられるクリチバのカシンバ問題である。

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<カシンバの中央通り?>

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<この地域はバリグイ川が氾濫すると水没する>

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<クリチバ市のファベラでは見られないゴミの多さ。これでも、ちょっと前よりは随分と改善はされているそうだ>

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<コミュニティ・キッチン>


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