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都内の公示地価の変動の要因を、ちょっと考察する [商店街の問題]

3月23日に公示地価が公表された。8年ぶりに下落した。その大きな要因はコロナウィルスの影響であろう。さて、しかし都内継続調査地点2586地点のうち、116地点では上昇している。この状況下でも上昇している地区があるのは興味深い。住宅地では港区と目黒区を除いてすべてが下落している。下落率が高いのは練馬区、板橋区、中央区である。上昇率上位5地点は、港区赤坂(2.5%)、足立区綾瀬(2.3%)、港区南麻布(2.0%)、足立区千住旭町(1.8%)、港区港南(1.6%)である。港区の港南とかは再開発が進行しているからかと思われるが、他は皆、駅がそばにあり生活利便性が高そうなところである。
 一方で商業地では、台東区、中央区、千代田区、新宿区、渋谷区など大規模な繁華街があるところがマイナスとなっている。近場もしくはネットで買物を済ませ、わざわざ買い回り品といえども都心の商業施設に行かなくなっている傾向が透けて見える。台東区などは外国人観光客が多く訪れることもあり、その減少による影響もあるだろう。
 さて、一方で上昇率が高いところはどこかとみると、杉並区阿佐谷北(5.2%)、足立区千住二丁目(3.5%)、港区海岸一丁目(3.1%)、足立区千住二丁目(1.9%)、世田谷区等々力二丁目(1.3%)などである。阿佐谷北、千住二丁目はもうコンプリート商店街というか「何でも揃う」充実した商店街である。港区海岸一丁目は浜松町駅の東側、等々力二丁目は素晴らしき尾山台商店街の西の部分に相当する。つまり、ほとんどの商業地が地価を下落させている中、上昇しているのは生活支援型の、いわゆる周辺住民が利用するような商店街であるが、フルパッケージ型のところであることが分かる。ちょっとデータはないが、おそらく赤羽駅周辺、蒲田駅周辺、三軒茶屋駅周辺、学芸大学駅周辺なども地価はそれほど落ちていないであろう。こういう商店街は、最近、注目されている「15分コミュニティ」を成立させるうえでの核となるような資源である。
 私が住んでいる目黒の都立大学も、「15分コミュニティ」を豊かにさせるような機能が比較的充実している。しかし、珈琲豆の焙煎屋、肉屋、パン屋、和菓子屋、洋菓子屋は充実しているが、魚屋、八百屋は今ひとつなのと豆腐屋が潰れたのが残念である。こういうことを書くとスーパーがあればいいじゃないか、という指摘をする人もいるかもしれないが、スーパーがないと困るけど、スーパーはシビル・ミニマム的なところがあって、豊かさを与えてくれるのはやはり個店である。
 そして、「15分コミュニティ」の豊かさではトータルでは尾山台商店街にはまける。桜新町にもまけるかもなあ。
 ということで、コロナウィルスは、これまでのマクロの集積の魅力こそが都市の競争力であったという価値の座標軸から、生活者視点のミクロの集積の魅力こそが価値を持つという座標へとシフトしていることを、私は我田引水ではあるが、今回の公示地価から読み取った次第である。そして、このトレンドはおそらく不可逆反応であり、それは結構、我々生活者レベルでは都市をより豊かにさせるのではないかと考えたりしている。都市を金儲けの手段にしていた人達が退場させられる日もそう遠くないかもしれない。

タグ:公示地価
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橋爪紳也『大京都モダニズム観光』 [書評]

大正時代から昭和初期にかけて、地図、絵はがき、パンフレットなどをもとに、いかに「大京都」という観光都市がつくられていったかを考察・分析した本。桜や紅葉、菊といった季節感のあるコンテンツをいかに観光資源化させていったのか。また「都をどり」、京名物・京土産、太秦の映画街、博覧会、遊園地といった新たな観光資源をいかにつくっていったのかが著者の鋭い分析のもとに整理されている。これを読むと京都のことがとても分かったような気分になれる。個人的には愛宕山のロープウェイ話がとても興味深かった。


大京都モダニズム観光

大京都モダニズム観光

  • 作者: 橋爪紳也
  • 出版社/メーカー: 芸術新聞社
  • 発売日: 2015/04/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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日本のコロナウィルスのワクチンの接種状況が酷い [サステイナブルな問題]

コロナワクチンの接種状況だが、世界の累計接種回数は4億4048万回である(2021年3月21日のデータ)。最も多く摂取しているのはアメリカで1億2443万回。これは100人当たり37.5回に相当する。アメリカに次いで多いのは中国、インド、イギリス、ブラジル、トルコ、ドイツである。これらの国の接種回数は1000万を超える。
さて、それでは日本はどうかというと57万回。これはアメリカの200分の1,ドイツと比べても20分の1という驚きの少なさである。それはペルーやアイルランドよりも少ない。100人あたりの接種回数をみると0.5人で、これはガーナ、ミャンマー、エクアドル、ラオスよりも少ない。
 日本はあと数ヶ月でオリンピックを開催する。外国人の観光客にはシャットダウンするということだが、世界中から選手、コーチは招聘する。コロナウイルスは緊急事態宣言で、ある程度抑えられているが、まだ感染拡大の予兆もみえる。緊急事態宣言を解除する前に、ワクチンの接種を増やすことが重要であろう。
 というか、この数字の低さは異常である。明らかに政権の無能さを露見している。ワクチンというコロナ対策の処方箋として、現段階でこれ以上、優れたものがないと考えられる選択肢をしっかりと選べない無能さが腹立たしい。というか、なぜミャンマーやペルーのようなこともできないのか。しかも、こんなに無能なのにオリンピックを開催しようと考えたことが悔しい。こんなに無能なのに原子力発電所を再稼働できると考えていることが腹立たしい。
 こういう無能な政治家しか選べない国である、ということをしっかりと自覚することから始めないと、この国には将来がないのではないだろうか。とてもオリンピックをまともに開催したり、原子力発電所を安全に稼働することなどできないことはしっかりと自覚した方がいいだろう。この状況下でのワクチン接種の低さは、そのようなことを露見している。

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『笠置ロック』 [映画批評]

笠置町に行ったので、2017年につくられた『笠置ロック』という映画を観る。50分もしない小作品ではあるが、結構、ストーリー性があって面白い。笠置町は人口1400年という小さな自治体であるが、そのうち300人がエクストラで出演したそうだ。映画による「街おこし」的な試みでもある。笠置町は人口が京都で最小というだけでなく、人口減少率ももっとも高い。ということで、本当、将来を展望すると不安ではあるが、こういう映画がつくれるコンテンツと住民がいるということを確認すると、なんか希望が持てる。何が町をつくるのか?そういう問いの答えを考えるうえでいろいろなヒントを提供してくれる映画である。そして、この映画は笠置町の立ち位置を客観的に描写している。過剰に楽観的になることもなければ、悲観的になることもない。そこが好感が持てるし、また映画を観た後味も爽やかなものにさせている。


笠置ROCK!

笠置ROCK!

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2019/06/04
  • メディア: Prime Video



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伊根町を訪れる [サステイナブルな問題]

伊根町という自治体を訪れる。交通の便が悪いので京都でレンタカーをして訪れた。京都府の北、丹後半島の東にある伊根湾を囲むように伊根町がある。1945年に四村が合併して発足した自治体である。産業は観光業と漁業が中心である。伊根町には5つの漁港がある。ぶりが採れるが、カニはあまり採れないようだ。岩ガキや水産加工品(へしこ・ぶりのみそ漬け)などが特産品である。
 伊根町といえば舟宿である。ここでいう舟宿は江戸時代の江戸や大坂などにあったものとは違い、伊根湾に面して建つ家屋のことを指し、その家屋の下に船を係留することもできる。そして、この湾に面した家は住まいとして使われず、その家屋と道路を挟んだ向こう側にセットとしての住宅の建物がつくられている。海から望む舟宿は大変、風情があり、またピクチャレスクでもあるので、コロナウィルスが流行る以前はインスタ映えする風景からSNSの口コミによって主に台湾人の観光先として人気を博したそうだ。2005年には漁村としてはじめての重要伝統的建造物としての指定を受けている。
 観光客の推移をみると伝建指定によって観光客が増えたという訳ではなく、大きく影響を与えたのはNHKの連ドラ「ええにょぼ」の舞台となった1993年、そして国道178号が開通して、自動車での交通の便が大分改善された2007年だそうだ。

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 伊根町は人口が随分と減少している。合併直後の1947年は7611人あった人口は1950年にピークを迎えた後、一貫して減少し、2021年2月の推計人口は1860人である。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば2040年には人口は1115人になる。人口ピラミッドをみるとまさに逆ピラミッドのような形状をしており、これから自然減による人口減少が進むことが予測される。
社会増減をみると、ほぼ毎年、転出が転入を上回っているが2010年は同数であった。社会増減を年齢階級別にみると15〜19歳で大幅な転出超過となっている。これは町内に高校がないことが大きな要因である。20〜24歳では転入増であり、15〜19歳で転出した層が戻ってきていることが推察されるが、その割合はそれほど高くなく、中学・高校で町を転出したものがそのまま帰郷しないというパターンが多くあると考えられる。
 合計特殊出生率(2008〜2012)をみると、伊根町を含む丹後管内は1.73と京都府全体(1.27)に比べてはるかに高い。伊根町は1.51と京都府よりは高いのだが、周辺地域と比べると低いという状況にある。その要因の一つとして、京都府に比べると低い未婚率が上げられる。
 伊根町の人口ビジョンでは、人口減少によって大きく3つの課題に直面するとことを指摘している。一つ目は「地域の産業における人材の不足」であり、地域産業の担い手が減少し、経営の継続が難しくなったり、それによって経済の低迷が懸念されている。二つ目は「地域ストックの維持管理・更新等への影響」であり、地域の空き家が増加すること、集落の機能低下・喪失などが懸念されている。そして三つ目は「社会保障等の財政需要、税制等の増減による地方公共団体の財政状況への影響」である。
このようなマクロな課題を伊根町は指摘しているが、実際の生活現場から伊根町の大きな課題をみると、それは買物での不便さある。コンビニエンス・ストアや主要スーパーの出店がない。最近まであったA-COOPも閉店した。移動販売がされているが、買物環境は以前より悪化している。これは以前あった個人商店がなくなっているからである。医療サービスに関してはは町内に二つの診療所があり、それほど不便ではないそうだ。公共交通に関しては、コミュニティ・バスは運行はしている。あと、国道が開通したことで宮津市や与謝野町に行くのは便利にはなっている。
しかし、一方でこの国道ができたことが契機で、まちなかの個人商店がなくなったり、周辺への移転が増えているのではないかと推察したりもする。というのは、国道ができたことで車で宮津市や与謝野町の商圏に伊根町も組み入れられたからである。さらに、転出先で与謝野町が増えているのは、国道ができたことでむしろ伊根町に戻りやすくなったということが背景にあるのではないか。これは、一般的には逆、つまり国道で宮津市へのアクセス時間が短くなれば、伊根町に住んで高校に通ったり、宮津市の会社に通勤する人が増えるのではないかと期待されたりするが、実際は親の住む伊根町の自宅に週末に戻れたりするので気楽に伊根町を後にすることを促したりする。
 与謝野町は新しい分譲住宅がつくられているし、スーパーマーケットでも二桁以上ある。そして隣町の宮津市もすぐアクセスできる。鉄道駅もあれば高速自動車道路のインターチェンジもある。パチンコ屋もあるなどレジャーも充実している。そして、何より高校への通学が便利である。伊根町の中学生が進学を考える高校は宮津高校である。宮津高校に伊根町から行くと、通学定期は一学期10万円もした。今では安くなっているが、それでも3万円はする。与謝野町だったら自転車で無料で通える。さらに通学時間が短くて済む。国道が開通したことで、むしろ与謝野町と伊根町が近くなったことが、伊根町から同町への流出を加速化しているということがあるのではないか。逆にいえば、与謝野町から伊根町へ転出する必要性のようなものは減っているかと思う。このようなストロー効果的なことは、地方において道路を整備するときは強く意識した方がいいかと思う。その是非を問う前に、そういうことが生じるということを自覚していくことは必要であろう。
 さて、しかし伊根町の町長は、どうも人口縮小に対しては泰然自若と構えているらしく、「田舎の人口が増える訳がない。いかに減り具合を緩やかにするかが大事」と考えているらしい(役場での取材結果)。そして、「ある程度まで減れば止まる」とも言っているそうだ。まあ、確かにこの素晴らしい伊根町の舟宿をみると、ここがゴーストタウンになることはあり得ないなと思ったりもする。確かに、これらの舟宿を別荘や宿泊施設にしたがるニーズは相当、高いらしく、先日もマレーシア在住の日本人が「5000万円で買えないか」と問い合わせをしてきたらしい。ただ、空き家でも売却どころか貸すのも嫌がる人が多いのと、よそ者を受け入れにくい風土があるらしく、そういった面で持ち主が変わるということはあまりみられていないそうだ。
 

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『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』 [書評]

なんかタイトルだけに惹かれてキンドルで一巻目を購入して読んだら、久々に嵌まった。絵があまり上手くなく、著者の名前も「マキヒロチ」だったのでてっきり男性かと思ったら女性であった。道理で、不動産を探しに来る人がほとんどが女性だったのか。この漫画は、相当、東京という都市の根源的な魅力を表現できていると思われる。それは、生活環境の器としての都市の魅力であり、すなわちネイバーフッドの魅力である。これは、モータリゼーションやイオンに阿ってしまった地方と東京との最も大きな豊かさの格差になってしまっている。東京と地方での格差は経済的な豊かさではなく、この消費生活の豊かさが最も大きいと私は分析をしているのだが、この地方にはなくなりつつしかし、このネイバーフッドの東京の魅力は、外部の人には分からない。いや、外部の人という言い方はちょっと下品だが、東京人も自分のライフヒストリーで関係したネイバーフッドぐらいしか魅力をしっていないので、そんなに差別化することはできない。以前、ハイライフ研究所にスポンサーになってもらい、調査研究をしたことがある。
https://www.hilife.or.jp/13490/

大学院の学生を中心とした研究チームを組み、蒲田、千住、三軒茶屋、十条、赤羽などを訪れて「その街の魅力」を探るということをしたのだが、なんかこの研究とこの本が捉える「魅力」が重複する。そして、この本には東京の魅力は吉祥寺だけじゃないだろう、という主張と吉祥寺の魅力がどんどんなくなって大丈夫なのかよ!という二つの主張があるかと思う。両方ともとても共感する。吉祥寺はやはり、相当楽しい街かと思うが、そのローカルの良さがどんどん希薄化している。吉祥寺はハーモニカ横丁の周辺の土地をお寺が所有しているので、それが市場経済による「街の破壊」を防いでいるという側面があるが、それでも、その周辺は市場経済が席巻していて、なんか独自のよさがなくなっている。そして、このような企業による投資活動があまり展開されていない東京のネイバーフッドは、このローカル性が生み出す吉祥寺的な魅力に溢れている。視点によっては吉祥寺より、面白いところがある。個人のテイストによっては、吉祥寺より楽しい、少なくともコスパが高いところは東京にはたくさんある。

結構、うむうむ、と納得したのは砂町銀座や十条、蒲田、雑司ヶ谷。ほとんどの街を知っていたが、この本で指摘されて「ほうっ」と思ったのが福生と野方。この二つの街は時間をつくっていかなくてはと思ったりする。まだ、連載は終わっていないので今後、期待するのは、立石、戸越銀座、学芸大学、駒込、江古田、常盤台、中野新橋とかかな。それにしても、なかなかこういう日常的な視点での東京の魅力はあまり語られていなかったかと思う。そういう意味では、それを見事、テキスト化した本であると思われる。


吉祥寺だけが住みたい街ですか? コミック 1-6巻セット

吉祥寺だけが住みたい街ですか? コミック 1-6巻セット

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2018/12/20
  • メディア: コミック



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