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「空中庭園」 [映画批評]

角田光子の同名小説の映画化。映画単体としてはそれほど悪くないが、原作の小説の素晴らしさの1割も表現できてない。小説は、6人の視点から見える京橋家をそれぞれ語り、それによって、その家の異常さが浮き彫りになっているのだが、映画ではただ観客としての鳥瞰的な視点があるだけだ。これだと、原作の小説が持つ、謎解きのような読者に緊張を強いるようなスリルがまったくない。また、そういう展開を省いているためかもしれないが、シナリオが表面的に分かりやすいものにしているので、小説の持つ奥行きが平面的なものになってしまっている。

例えば、絵里子の人生に大きな影を落とすことになる中学の担任との母親との会話。映画では「あんな子は産まなきゃよかった」というセリフがあるが、小説にはなかった。小説ではこの事件に関しても、絵里子と母親ではまったく違う捉え方をしていて、登場人物によって現実を異なった視点で捉えている、ということが、原作の素晴らしい魅力であるにも関わらず、映画ではまったくこの点が表現できていない。

原作を通底するのは家族の徹底的な「ディスコミュニケーション」であり、絵里子が、自分だけが嘘をついていたと告白しようとした旦那にキレるように、ディスコミュケーションによって家族を維持していくことがポイントであると思われるのだが、この映画はそこらへんをしっかりと読み込めていない印象を覚える。

ただ、主人公演じる小泉今日子はとてもよく、好感が持てる。これが数少ない救いである。この映画がいいと思う人は、是非とも小説を読んでもらいたい。小説を読んだ人は、私が言いたいことが理解してもらえると思う。

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