新釈遠野物語 [書評]
作者本人と思しき主人公が、犬伏老人から聞く東北の遠野地方のまか不思議な話の数々。自然と人間、またはフィクションと現実との境目が曖昧であるという話の背景は「遠野物語」と同じであるが、作者の天才的な語り口、そしてその落とし所の絶妙さはなんともいえず面白い。どの短編も皆、秀逸であるのは勿論だが、小説最後の落ちもあっと驚くものである。思わず吹き出すものもあれば、背筋がゾクッとくるようなものあるし、また人生の機微に触れて、思わずジーンとさせられるものもある。そして、ある程度、話の展開は予期できても、その落とし所としての舞台設定の工夫が傑作で、読んでいてわくわくさせられる。ストーリー・テラーとしての作者の類い希なる才能を感じることができる傑作であり、小説嫌いでもたちまち本に引き込まれるような魅力をこの本は擁している。