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『地元学をはじめよう』 [書評]

本書は、水俣市の市役所職員を長年、務め、地元学というコンセプトで、水俣を公害都市から環境先進都市へと変貌させた立役者である吉本哲郎氏の著書である。地元学の解説、その意義と重要性、水俣での実践例などはとてもためになり、日本の地域が活性化するうえでは何が欠けているのかが理解できる。それは、「自分達のことは自分達でやるという自治する力を根本に据える」ことであり、「海・山・川が元気であれば、生産と生活の場が豊かになる」にも関わらず、それを蔑ろにして、消費経済に移行してしまったからである。消費経済とは「自分たちの生きる基盤を他人任せにすること」であり、その結果、地域も個人も「生きる力」を失うと著者は指摘する。水俣を再生した実績は、この著者の指摘に大きな説得力を与える。地域問題を考えている人には必読の名著であろう。ただし、一点、「広がる地元学」という章では著者ではなく、他人の文章が紹介されており、他の章に比べてがくっと説得力がなくなる。この章はまさに蛇足で大変残念だ。

私は10年以上前に、吉本哲郎氏に取材をしたことがある。吉本さんが環境課にいた頃だ。水俣はごみを28(その後22にする)に分類し、市レベルでは84にまで分類した。これは間違いなく世界トップレベルであった。その背景を知りたくて水俣を訪れたのだ。そこで、私は彼の話と水俣の取り組みに大いなる感銘を受けたのだが、その彼が私に話してくれた内容が、この本にはまとめられている。懐かしいと思うと同時に、彼の考えがこのように本として世に出されたことは素晴らしいことであると考える。

地元学をはじめよう (岩波ジュニア新書)

地元学をはじめよう (岩波ジュニア新書)

  • 作者: 吉本 哲郎
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/11/20
  • メディア: 新書



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