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アウシュビッツを訪れる [地球探訪記]

ポーランドにあるホロコーストの象徴ともいうべきアウシュビッツを訪れる。ナチスによって130万人のユダヤ人やジプシー、政治犯などが収容され、そして110万人が殺されたと言われた強制収容所の跡地である。クラクフから自動車で1時間ちょっと西へ走ったオシフィエンチム市にある。アウシュビッツには二つの強制収容所跡地が記念館として公開されている。アウシュビッツ第一強制収容所は30ほどの施設から成り、ガス室や銃殺刑を実行するための「死の壁」、人体実験が行われたとされる施設などが展示されており、凄まじい迫力がある。展示の仕方もよく工夫されており、そのおぞましい歴史を伺い知ること出来る。第二強制収容所は、オシフィエンチムの中央駅を挟んで、第一収容所の反対側にあるのだが、これは敷地が175 ヘクタールもあり、何しろ馬鹿でかい。第一収容所のような説明的な展示はなく、その巨大な跡地を保存することで、人々に昔の状況を想像してもらうような仕掛けとなっている。これも効果的で、この場所に佇むと何かとてつもない茫漠感に囚われてしまう。

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(「働くと自由になる」と門の上に掲げられている。まあ、嘘つきですな)

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(ガス室。ここは強烈な負の磁力があり、結構、ダメージを受ける)

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(ビルケナウの「死の門」)

こういう負の遺産をしっかりと保全して、展示することの意義を強く感じる。第二次世界大戦において日本が何をしたのかなども、ある程度しっかりと理解できる類似した博物施設があれば将来のためにもなるのにと思う。アウシュビッツでは日本人ガイドも働いており、それはそれで立派だと思うが、日本人はもっとすべきことがあるだろうにと思わずにはいられない。それは、日本の第二次世界大戦の誤った歴史をしっかりと次世代に解説することである。もちろん、そういうことがやりにくいのでアウシュビッツでガイドをしているのかもしれないが、なんか虚しさを覚える。同様の虚しさは、観光で来ていた日本人の家族がいたのだが、母親が小学生ぐらいの男の子に、「死の壁」の前で「ここで人が殺されたのよ」と教えていたのを見た時にも覚えた。こういう教育をする機会を日本も有しているにも関わらず、わざわざアウシュビッツまで来なくてはいけないという事実にちょっと虚無感を覚えてしまうのである。原爆ドームがあるじゃないかと思われるかもしれないが、原爆ドームは日本が被害者側の展示である。日本人が加害者として何をしたのか、というのを日本人は知る機会をあまり有していないというのは、プラス面よりもマイナス面の方が多いのではと思ってしまうのである。

ナチス以外にも人類は数々の殺戮を繰り返してきた。スペインのフランシスコ・ピサロによるペルーの大虐殺、ナポレオンによるヨーロッパ各地での殺戮、チンギス・カン率いるモンゴル帝国の大殺戮、アメリカの原子爆弾による瞬時の虐殺、日本軍による中国や東南アジアでの殺戮など枚挙にいとまがない。しかし、アウシュビッツほど理性的・合理的に、フォーディズムやテイラー主義に則ったかたちで殺人をシステム化したものはなかった。それは、ドイツ人の生真面目さや規律正しさが、まさに裏目に出た恐怖の殺人システムであった。殺人という行為が組織化、システム化されることの非人間的なぞっとするような薄気味悪さを、このアウシュビッツでは感じる。そして、このアウシュビッツで感じた薄気味悪い殺人が、現代社会で起きている殺人事件とも共通していることに気づきさらにぞっとする。それは、組織等において個人がまさにロボットのように自らの良心を封印して、殺人を平気で犯してしまうというアウシュビッツでみられた現象が、現代の日本社会の特に若者の集団殺人事件でもみられるということである。綾瀬の女子コンクリート殺人事件もそうだが、最近起きた宮城県石巻市のストーカー殺人事件もそうだ。後者では主犯の後輩の共犯者は「おまえが(罪を)かぶれと言われ、包丁に指紋を付けさせられた」と言っていたそうで、同情の余地はあるが、それでも自分と無関係の人を殺めてしまったのだから、人間とは弱いものだなと思わずにはいられない。どうせ人を殺すのなら、この主犯こそ人生を狂わせる元凶なのだから彼を殺せばいいのだが、そういうことは出来ないんだろう。まあ、殺された方も勿論だが、殺す側の状況に置かれてしまった人も不幸である。ある狂気に支配された人間、そしてその人間を支持する少人数の人間が組織化していくと、我々は恐ろしい殺人組織へと転じる危険があることを、アウシュビッツはまざまざと教えてくれる。アウシュビッツから我々が学ぶべきことは、あまりにも多い。その歴史を風化させないことによって、我々は未来を暗転させることを制御する力と知恵を有することができると思われる。

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