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世界遺産クヴェートリンブルクを訪れ、あまりにも観光投資がなされていないので拍子抜けする [地球探訪記]

ドイツには世界遺産が33カ所ある(2008年現在)。そのうち32カ所が文化遺産である。随分と日本に比べて文化遺産が多い国であるが、これはユネスコというヨーロッパ主義の組織が指定するからであろう。その数が少ないからといって日本が劣っている訳では決してない。さて、その世界遺産のうちの一つクヴェードリンブルグを訪れた。その聖堂参事会教会、城と旧市街が世界遺産に指定されたのは東西ドイツが統合されてそれほど時間が経っていない1994年と早い。この事実からもその歴史的重要性、文化的価値が高く評価されて指定されたことが分かる。世界遺産というブランドを最も有り難がるのは世界でもダントツで日本であろうとの仮説を持っている私であるが、それでも悲しいかな、世界遺産と言われると思わず足を伸ばしたくなってしまう。ということで、近くのヴェルニゲローデに来たので、足を伸ばした次第である。ヴェルニゲローデからは電車を乗り継いでも1時間もしないで到着する。

さて、ヴェルニゲローデの駅が随分と綺麗に整備されていたので、このクヴェードリングもさぞかしと思っていたら、そこは旧東ドイツのままのような状態であって唖然とする。とても、世界遺産の町の玄関とは思えない荒廃した状態である。ヴェルニゲローデも旧東ドイツであるから、この差は何なのだろうか。非常に不思議である。駅舎には切符売り場しかなく、土産物はおろか軽食を食べられるカフェもなければ、トイレも見当たらなかった。駅舎は汚い落書きがされたままで、降りることすらためらわれる。プラットフォームを連絡する地下通路は割れたビール瓶のガラス片が散らばっていた。駅だけでなく駅前も閑散としていた。色とりどりの花によってランドスケープ・デザインがされていたヴェルニゲローデとは偉い差だ。旧市街地に行くためのサイン計画もまったくされておらず、地図などを持っていなければ途方に暮れるであろう。というか、間違った駅で降りてしまったと思うのではないだろうか。

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(まるで幽霊屋敷と見間違えるような駅舎。これが世界遺産の町の玄関口なのか!)

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(地下の連絡通路の汚さにも唖然)

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(まるで廃線になったかのような駅舎の風情。グラフィティが悲しい)

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(この寂寥感はなんとも旧東ドイツ。しかし、しつこいがこの町は世界遺産に指定されているのだ!)

とはいえ、旧市街地に向かって歩いていくと、この町が特別であることは建築物から理解できる。この町もヴェルニゲローデと同様に第二次大戦の戦禍を免れた。社会主義時代の無味乾燥な開発の手も旧市街地には、あまり及ばなかったようだ。そして、ヴェルニゲローデと違って、まだ市場経済にもさほど晒されていないようにも思える。ヴェルニゲローデの旧市街地には、ドイツのナショナル・チェーンが結構出店していたが、このクヴェードリングでは、そういう店も目に付かない。15世紀からの建物がまだ多く残されており、ドイツ最古の木組みの住宅もある。この住宅は木組み住宅の博物館になっており、中を見学することができる。木組み住宅は、見た目は斜めに傾いているが、内部はおそらく傾いていないだろうと勝手に思っていたが、その先入観は間違っていた。家の内部もなんと傾いていたのである。こんな家によく住んでいられるな、と感心する。ドイツ人がいかに歴史的な価値を重視しているかが分かった。私だったら、どんなに歴史的な価値を有していた家でも、やはりこの傾いた床で過ごすことは我慢できないと思う。いや、こういう家で生まれ育ったら、この考え方も改められるのかもしれない。

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(ドイツ最古の木組み住宅と言われる家。現在は木組み博物館になっており、内部を見学できる)

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(旧市街地の美しい街並み)

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(上と同じ)

手元に1929年のクヴェードリングの城周辺の写真があるが、多少、農地が見えるが、現在とあまり変わっていないような印象を受ける。日本であれば世界遺産に指定されると、白川郷のように観光客が押し寄せ、鄙びた山村が急に観光地となって賑わい、その渋い赴きが急速に色褪せてしまうのだが、ここクヴェードリングはそういうのとは違うようである。むしろ、世界遺産に指定されたが故に、隣のヴェルニゲローデに観光客と資本投資と商業開発を持って行かれたかのような印象さえ受ける。まあ、この路線を100年間続けていけば、クヴェードリングの価値はさらに高まっていくのかもしれない。もし、そういうことを戦略的に考えていたら恐ろしい。世界遺産に指定されたからといって、決して浮かれることがなく、自分たちの今まで歩んできたペースを守っているのだとしたらただ者ではないし、世界遺産を地域活性化手段と同一に捉えているどこかの国とはとてつもない違いを感じてしまう。しかし、これは私のただの憶測であり実態はどうなのかは現時点では不明である。ただし、世界遺産ということがそれほど特別な意味をこの町にもたらしていないということだけは言えるだろう。私は旧市街地で22ユーロの古地図セットを購入しようとしたら、「何でこんなものが欲しいのだ」と変人のような扱いを受けた。普通、世界遺産に指定されたところだったら、多くの人が古地図を欲しがると思うのだが、ここクヴェードリングだとオタクの部類しかそういうものを欲しがらないのかもしれない。都市計画の研究をしているものだ、と言ったら、ようやく納得してもらえた。世界遺産で観光客が来るようになるということさえ、あまり想定していないような印象さえ受ける。そして、正直、そういう対応にホットする観光客の自分がいる。

とはいえ、駅前だけはそれでももっとしっかりと整備した方がいいと思う。駅が世界遺産に指定された訳ではないのだし、市街地からも離れているのだから。少なくともサイン計画ぐらいは駅周辺にしてもいいだろう。

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(高台にあるお城から旧市街を望む。赤屋根が連なり、美しい景観をつくりだしている)
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