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プラハ [都市デザイン]

プラハを訪れる。確かに宝石のごとき美しい都市である。カレル橋やプラハ城は素晴らしき文化遺産であるし、公園の展望台から見る中心市街地の美しさは息をのむようである。なぜ、こんなに美しいのだろうか。まず、すぐ気付くのは色である。明るい煉瓦色、銅瓦の緑青色を基調とした街の色が何しろ美しい。そして建物の壁の色であるクリーム色、ベージュ、黄色。そして道路の色であるグレー。これらが微妙な変化をつくりだし、色彩がバレーを踊っているような効果をもたらしている。あと、スケールである。道路の幅が狭い。したがって、都心は非常にコンパクトで集積した効果がある。そして建物は4階から5階くらいの高さでほぼ統一されている。スケール感としては、アップルパイのホールサイズのような感じである。ピザのように平らではなく、ショートケーキのホールサイズのように高くはない。このスケール感が素晴らしい。そして、そのようなトータルなイメージの中で個性を強烈に発揮する建築が存在する。国民劇場や市民会館、火薬塔、旧市庁舎、ダンシング・ビルディング、ティーン教会、ロレッタ教会などである。加えて、細い道路を歩くリズムに大きなアクセントを添える広場。広場がノードであるということがこの街ではよく理解できる。広場こそ、人が集まり、情報が集まり、モノが集まる極めて密度が濃い空間なのである。旧市街広場はもちろんのこと、共和国広場やちょっとした広場がこの都市空間に彩りと安らぎと活力を与えている。しかし、たまにこのような広場が駐車場に使われてたりするのをみると本当に残念な気持ちになる。もちろん、私が愛する歩行者専用街路であるナ・プシーコピェ通りも素晴らしい。それにしても、日本の都市にはこのような歩行者専用街路がどうして少ないのだろうか。もっと積極的に整備すべきであるし、もし自動車の交通が捌けないというのであれば、自動車を都心から追い出せばいいのである。そのようにすれば、そこは間違いなく都市の顔となり、ハートとなるであろう。

また、プラハは天才の使い方がうまい。目立つのはアール・ヌーボーの倦怠感のあるポスターで有名なムハである。ムハは勝手に20世紀初頭に活躍したパリのロリコン・アーティストだろうと思っていたのだが、とんでもなく無知であったことをプラハでは思い知らされた。プラハにはムハ美術館があり、そこで私はムハの偉大さを思い知らされたのである。ああ、無知ほど恥ずかしいものはない。ムハはプラハ城の大聖堂のステンドグラスのデザインをはじめ、市民会館の内装をほとんど手掛けている。この市民会館の内装は、誠に持って素晴らしく、もうこれぞアール・ヌーボーという感じで私は感銘を大いに受けたのである。そう思ってみると、もうプラハにはムハが溢れているのだ。もう一人の天才は、カフカである。カフカ、ムハの個性はプラハのアイデンティティの一部にまで昇華されている。その土地で生まれた天才を使うことの重要性を、「都市の鍼治療」でレルネルさんは指摘しているが、プラハはなかなか、その辺が上手である。日本の都市も天才を活かすことをもっともっと積極的に考えればいいのだ。宮崎駿なんか、どんどん使うべきだし、小津の東京なんかももっと活かすべきなのである。

プラハは素晴らしい都市だが、計画的には決して褒められるものではない。特に、自動車に関しては相当問題がある。ブダペストもそうだったが、プラハも自動車に歩行者動線が遮断されてしまうので相当歩きにくい。ここらへんは本当ミュンヘンとかとは違う。パリなどもそうだが、何しろこの自動車が都心に侵入すると、歩くのが危険になるだけでなく、アメニティも低下し、排ガスによって健康にも悪影響を与えるなど本当にろくなことがない。ロスアンジェルスのように、自動車から降りなくてもいいように都市を設計しようとした無謀な試みは無惨な失敗を遂げている。ミュンヘンのような賢い事例がそばにあるのだから、この自動車抑制策をもっとしっかりと考えるといいであろう。何しろ、ヨーロッパを代表する観光地になっているのであるから。

といって、一日まわっただけの無責任な意見であるが、どのような処方箋が考えられるのか。まず、即効性があるのは中央駅の大改造であろう。現在、二つに分離されている駅を統合化して、そこをプラハの交通の巨大ハブにすべきであろう。さらに、都心への自動車流入をもっと制限すべきである。プラハは社会主義時代に郊外にコルビジェ的な高層住宅をいっぱい建設したようである(展望台からの観察)。この郊外と都心との交通流動をしっかりと再構築し、都心の心臓部には公共交通でしかアクセスできないような試みが必要であろう。また、ウォーターフロントはもっと有効に使える筈だ。特に旧市街地側は、ウォータフロントへのアクセスをうまく工夫することで、連続性をもった祝祭的空間を川沿いにつくることができる。現在は、カレル橋などへのアクセスの部分など一部分だけが、そのような賑わいを有している。そして、このような「治療」は早めに手をつけることが重要であると思われる。




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