SSブログ

シュテンダールという縮小都市の住宅会社のトップに取材する [都市デザイン]

シュテンダールという都市がザクセン・アンハルト州の北東部にある。ベルリンとハノーファーを結ぶ鉄道路線の沿線にあり、何本に一本かは特急列車も停車する。ベルリンからは125キロメートルほど離れている。12世紀頃に都市はつくられ始め、13世紀にはこの地域の商業と貿易の中心となり、1300年には市壁をつくっている。1358年にはハンザ同盟に入るなど、豊かな歴史を有した都市である。
 この都市は東ドイツ時代に原子力発電所が計画され、そこで働く人のために二つのプラッテンバウテンの団地がつくられた。結局、原子力発電所はつくられないまま、東西ドイツの再統一を迎える訳であるが、それ以降、これらの団地は空き家が増えていったこともあり、そのうちの一つ、シュテンダール・スードはほぼ完全に倒壊する。一方のシュタットゼーも半分ぐらい戸数を減築・倒壊によって減らすのだが、シュテンダールの住宅会社(シュタットゼーの住宅の85%を所有)のトップに取材をすることができたので、ここに情報を共有させてもらう(備忘録も兼ねて)。
 シュタットゼーは1980年代まではイメージもよかった。しかし、東西ドイツが再統一された後はイメージが悪化し、誰もここに住んでいると言いたくなくなってしまった。ただし、動物園に隣接している南側のティア・ガーデンであれば住んでいると言ってもいい。そういうイメージが共有されるようになった。
前のトップは撤去する建物を選ぶ際に、空き家率の高さを判断基準とした。しかし、2008年から就任した現在のトップはロケーションを何よりも重視した。そうしたら、収益性は格段に向上した。そして、それは会社の判断ではなく、個人の考えに則った。市役所の都市計画的なビジョンも配慮しなかった。
 住宅会社を引き継いだ時、それは倒産の危機にあった。ある住宅会社が倒産すると、ドミノ倒しのように他の住宅会社も倒産する可能性があった。状況は非常に厳しく、緊急事態であった。銀行は外部の専門家に入ってもらって、状況を分析した。これは、銀行は住宅会社を信用しないから、第三者に財務分析などをしてもらいたかったからである。
 銀行は出資の条件として、個々のプロジェクトごとにROI(Return of Investment)がプラスになることを提示した。銀行の担当者とは年に一回、打ち合わせをすることにした。最初は緊張した打ち合わせだったが、最近では打ち解けてきている。
 現在のトップになってから、10年前の50万ユーロしかなかった会社の売上げが現在では700万ユーロにまで増えた。人口減少も収まってきており、ちょっと前までは2022年の人口は3万人を切るだろうと予測されていたが、現状は37000人を維持している。
 シュタットゼーはこんな状況であるが、ついでにほぼ完全に倒壊したシュテンダル・スードの話も聞いた。現在、この地区には市の住宅会社、住宅組合が所有する建物は一戸もない。すべて倒壊したからである。しかし、建物は数棟だけ残っている。これらの建物の所有者は誰なのか、と尋ねたら、トルコとアベルバイジャン、フランス、そしてベルリンの人が投資目的で出資しているそうだ。外国の投資家とは連絡が取れないらしい。ベルリンの人は連絡が取れているが、600万ユーロ支払ってもらったら撤退してもいいと言ってきている。これは、とても払える額ではない。税金はしっかりと払っているのだが、これは大した額ではないので、放っておいても大した損失にはならないのだ。住宅会社としては、シュテンダル・スードもそのうち再開発したいとは思っているそうだ。
また、シュテンダールは市の住宅会社と住宅組合による住宅会社があるが、この二つの会社では建物の倒壊の考えに相違点がみられる。市の住宅会社は市の政策のことを考えるし、住宅組合の会社は組合(住人)の利益を優先的に考える。具体的には市の住宅会社はロケーションを考え、組合の会社は住民のことを考える。
 状況的に一番、最悪のケースは空き家率が3割程度の建物だらけのような状況だ。空き家が集中していて空き家率が高いことは問題ではない。
 倒壊・減築に関しては、ダウンサイズはチャンスだと思わないと成功しない、と述べていた。これは興味深い指摘だ。縮小政策を実践するうえでも、前向きに攻撃的で取り組むことが重要ということか。躊躇があると失敗するのかもしれない。といいつつ、倒壊を止めたケースもある。シュタットゼーの西側は倒壊させるはずだったのに中止した。これは2010年から2012年は倒壊のためのお金を積極的に連邦政府のプログラムから取ろうとしていたが、人口減少のペースが弱くなってきたために、2013年に倒壊を止める判断をした。
 現在も倒壊・減築は行うことを考えるが、これはそうすることで周辺の地域の魅力を高める手段のために行う。地域の魅力を高め、人々に定住してもらうためにするのだ。
住宅会社としては、倒壊しても顧客は失いたくないので、そのまま、他の物件に引っ越してもらいたいと考えている。住民は街への帰属意識を有しているし、社会的関係性は維持したいと考えている。

nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0