『石の花』 [書評]
これは凄すぎる漫画だ。こんな漫画が存在したことを今まで知らずに生きていた、というのが恥ずかしいくらいである。キング・クリムゾンのデビュー・アルバムを知らずに生きていたのが恥ずかしいのと同じぐらいのレベルであろう。その画力の凄さ、そして戦争という重いテーマを多面的に捉える秀でた構想力、そして読者をその世界に引きずり込むストーリー展開の面白さ。個人的には手塚治虫の『火の鳥』、宮崎駿の『風の谷のナウシカ』と同じくらいのレベルの傑作、すなわち大傑作であると思う。特に、ウクライナで戦争が起きている今、この作品は読むべきである。本作品の素晴らしいところは、戦争を白黒の二元論で捉えていないことである。そこには戦争によってあからさまにされる人間の醜悪さ、気高さ、そして弱さと強さが描かれている。そして、それを通じて読者は戦争の悲惨さ、非情さを知るのである。第二次世界大戦のヨーロッパが舞台であるが、実は日本も同時代にまさにそのような戦争を侵略側としてアジアで展開していた。対岸の火事ではなかった、ということを意識して読むと、またいろいろと考えさせてくれる作品である。漫画という媒体の可能性の広さをも改めて知らしめるような驚愕の作品。死ぬ前に読むべきような大傑作であり、死ぬ前にしっかりと読めてよかった。
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