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グアナファトを訪れて、その色彩の饗宴に心を奪われる [地球探訪記]

 グアナファトという美しい都市がメキシコに存在する。世界遺産にも登録されている。私の周りにはゼミの卒業生を含めて、多くの人がグアナファトを訪れたことがある。行っていないのは私だけだ、という気分である。さらに、この行った人が皆、異口同音に「素場らしい!」という。周りは雲丹を食べたことがあるのに、私だけが食べたことがない悲しい人のような気分である。ということで、今回、キューバに行くのにメキシコ・シティ空港をトランジットで使うので、数日間、メキシコ・シティに滞在して、グアナファトに日帰りで行くことにした。もちろん、都市の勉強のためである。
 さて、しかし、このグアナファトはアクセスが悪い。グアナファト州の州都であるし、人口は8万人ぐらいであるから、そんなに小さな都市ではないと思うのだが、メキシコ・シティからバスで行こうと最初、考えたのだが片道4時間以上かかるのと、またバス・ターミナルが都市から離れていて、そこからもタクシーを乗らなくてはいけないので、飛行機で行くことにした。といっても、グアナファトの飛行場というのが25キロメートルは離れたレオンの飛行場であり、そこからバスはなく、タクシーを使うしか交通手段がないことが分かった。アメリカだったら、こういう場合は100%レンタカーなのだが、なんと、メキシコは国際免許証でも運転はできないらしい。本当、もうタクシーに乗るしか手段はないのだが、メキシコのタクシー強盗(タクシーの運転手に強盗される)の話を聞いたりしていたので、これはもう大変に緊張したのである。
 飛行機は朝6時20分発というべらぼうに早い便であったが、飛行場のホテルに泊まっていたので、その点は大丈夫であった。空港に着いたら、なんとタクシーの会社がしっかりとチケットを売っていた。なんだ、自分で交渉しなくてはいけないのか、と緊張していたので返って拍子抜けである。タクシー代は485ペソであった。
 しっかりと会社のマークが描かれたタクシーに乗って、グアナファトに向かう。運転手はなんかマラドーナを彷彿させるような風貌の人であった。乗ってすぐに、ガソリンがほとんどゼロだということに気づく。これは大変だ、ということで伝えようとするのだが、ガソリンのスペイン語が分からない。ペトロールかガソリン、そのままでいいのか。とりあえず、ファルタ・ガソリンと指摘すると、運転手は笑って「大丈夫、大丈夫」という。よく見ると、エンストのマークが点塔しているのに走っている。つまり、ここらへんは壊れているということなのだろう。しかし、運転手はどうやってガスの過不足を把握しているのだろう。
 とりあえず、そんな適当なタクシーでグアナファトに向かう。タクシーの運転はともかく乱暴で、ちょっと命の危険を感じる。30分ぐらいでグアナファトに入る。有名な地下トンネルに入っていき、なんか気分は高揚する。ラパス広場まで、とりあえず行ってくれ、と伝えたのだが、この地下トンネル内で止まる。ええ!まじですか。この地下道は「地球の歩き方」で「ここを歩くことは安全上おすすめできない」と書かれている。とはいえ、どうも普通に人が行き交っているし、なんと、バス停まである。「安全上」とはいわれてもなあ、ということでタクシーの運転手に有り難うと伝えて、降りて、とりあえず地上に行く階段を上がる。
 まだ8時頃ということで、夏時間なので実質的には7時、さらには曇り空であったのだが、この地下道を上がった時には、そのカラフルな色彩の饗宴に心が躍った。確かに、ここは相当、素場らしい。いや、アルゼンチンのボカ地区や、それこそメキシコ・シティのコヨアカン地区なども建物の住宅を色鮮やかに塗っている。ただ、このグアナファトは盆地であること、そして、その周囲が広く見渡せ、そして、視覚に入ってくる、その圧倒的な色彩の量が他とはまったく違ってユニークなのである。
 さらに、これはしばらく歩いて分かったことだが、教会の類が多いのと、ポケット・パークのような公園があちらこちらにある。さらには、ファレス劇場やイダルゴ市場のような公共建築が圧倒的な質の高さを維持しているのである。しかも大学都市であるので、観光都市というよりかは、普通に人々が生活をしている、その生活感がまだ健在であり、都市という活力がしっかりと維持されているのである。これは、この都市の大きな魅力であろう。
 ということで、とことこ歩いて、地理感を養う。とりあえず、ピピラ記念像のある展望地を目指す。ここもやはり「地球の歩き方」が「道中には強盗もしばしば出没するので、歩く場合には、なるべく日中に大人数で出かけること」と書いてある。そんなことを言っても、私は一人である。そこらへんの人に「一緒に上って下さい」と声をかけたら、かけている私の方がよっぽど怪しい。ということで、一人で歩く。ちなみに、「道中」は普通の住宅地で、ここが歩けなかったら、ここには住めないと思う。普通のおばちゃんが「強盗かもしれない」と疑うような、疑心暗鬼の塊となって、歩いて行く。坂は相当きつく、登山慣れをしているが息が乱れる。坂の途中からも展望が開け、思わず、写真を撮影していた。そうしたら、後ろから英語で声がけされる。「すわっ、泥棒か」と思われたらが、アメリカ人でテキサスから来たナイスガイで、いろいろとグアナファト、そして周辺の町村の見所などを教えてくれた。彼女がグアナファト出身なので遊びに来ているらしい。この疑心暗鬼状態はよくない、と「地球の歩き方」の方が過剰なびびりである、と判断して歩いて行く。
 ピピラ記念像からの展望は絶景の一言。「絵葉書のような光景」そのものである。それぞれの建物の持ち主が好き勝手な色を塗ったと思われるのだが、それが見事に調和している。それは、我々に色彩の素晴らしさを思い知らすが如くの、美しさである。黒を除いて、ほとんどの色がここでは展開している。灰色でさえある。ただ、基調は煉瓦色、山吹色、レンガそのままの薄茶けたレンガ色、白色、そしてサーモンピンクである。これらを基調とするパレットに、インクを垂らしたかのように様々な色彩が自分達の存在をけなげに主張する。それは、色彩による交響曲のようでもあるし、また生物多様性に溢れる森林のようでもある。そして、それを優しく包み込む額縁のようにオリーブ色の山々が枠をつくっていく。さらには、この山の背景をつくる空。生憎、今日の空は灰色であったが、目が覚めるようなスカイブルーのときは、どれだけ、この街が美しく映えるのだろうか、と思う。
 呆けたように見とれて写真を撮影していたが、まだ色々と街中を観ないといけない、と今度はフニクラに沿った坂道を降りていく。ここが強盗が頻出する坂か、と思われたが、ちょっと危ない目つきをした工事作業員に途中、遭ったぐらいであった。拍子抜けである。とはいえ、メキシコだけでなくロスとかでも、強盗とは言わないが恐喝は日常茶飯なので、そういうことが起きる、ということだけなのかもしれない。
 坂を降りるとラウオニオン公園に出る。お洒落なレストランが幾つか公園に面して立地している。座るところが多い。そして、それらのベンチのデザインもいい。優しい公共空間づくりが為されている。中心道路のファレス通りや、また、それと並行するボジトス通りを行き来する。ただ中心通りといっても、ファレス通りの幅は車一台が通るのがやっとという程度である。ほとんどの交通はこの街の下を縦横に走る地下道で処理されている。鉱山都市であるから、こういうつくりが可能だったのかもしれないが、それにしても凄い都市だ。しかし、この交通を地下で処理できているおかげで、地上はまさに「人を中心とした」空間が現出している。
 ラウオニオン公園の前にはファレス劇場。その新古典主義の建物は、とても華麗である。その後、中に入ったが、内部装飾も金を豊富に使い、その絢爛さにはちょっと驚く。
 観光のポイントは、幾つかの博物館とこの劇場、教会群、イダルゴ市場となるが、なんといっても1番は、この街の景観と空間の質、そして空気であろうか。私は、この日、これらのスポットを訪れながら、太陽が顔を出すと、ピピラ記念像の展望台に再び上った。朝とは違った光景がそこでは広がっていた。太陽光がこれら街並みの色彩を賛美するかのように降り注ぎ、そして、これらの色彩は太陽光に感謝するかの如く、まぶしいように輝いていたのである。色彩も光の産物である。そして、その光をもたらすのは太陽である。アステカ人は太陽神を崇めていたことを思い出す。メキシコは、太陽の国なのだ。そして、太陽を崇める気持ちが、この多様なる色彩の街をつくりだした背景にあるのだ。それは日本文化からはなかなか生み出されない色彩であろう。
 そのようなことを考えさせられたグアナファトの日帰り訪問であった。
 帰りは流しのタクシーを街中で拾い、いくらで空港まで連れて行ってくれる?と尋ねると400ペソ、というのでそのまま乗って帰った。飛行機は遅れたのでメキシコ・シティに着いたのは23時近かったが、大変、充実した1日を過ごすことができたが、本当に歩きすぎて足は棒のようになってしまった。

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(地下道)

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(色彩豊かな街並)

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(色彩豊かな街並)

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(ピピラ記念像から)

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(ピピラ記念像から)

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(ピピラ記念像から)
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