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トレドを訪れ、ちょっと肩すかしを喰らった気分になる [地球探訪記]

私には死ぬまでに行くべきリストなるものを作成している。トレドはそのうちの一つである。私は以前、スペイン語を学んでいた。ドイツに行くまでは、英語の次はスペイン語がいいだろうと考えたからである。これは南米に行くと、本当、英語が通じないからだ。スペイン語を母国語とする人口は極めて大きい。しかも、英語が通じないのであれば習得する意義はあるだろうと考えたのである。その割にはまったく今では忘れてしまい、本当に使い物にならないが。それはともかく、スペイン語を学習していたとき、先生が「トレドは絶対、一度行くべきです」と強く主張していたのが強く印象に残っていた。そんなに素晴らしいところであるなら、行くべきであると思ったのである。1986年に世界遺産に指定されるというのは、相当、世界遺産のランキングも高い(世界遺産であるとコンセンサスがすぐ得られるところほど、早く指定される)。

ということで、マドリードからすぐ行けることもあり、古都トレドまで足をのばした。トレド駅は、旧市街地からちょっと離れたところにあり、歩いて10分ほどでタホ川の橋に出る。そこから、丘を登り始めるのだが、巨大なる駐車場があり、そこまで行くとエレベーターで簡単に上れる。私はトレド行きの電車で隣に座った大学生に、近道があるからついてきて、と言われてこのエレベーターで上っていった。この駐車場の外観は、昔つくられた城砦の一部のように工夫されていて、その細やかな神経の配り方に私は大いなる感銘を受けた。いつ頃、つくられたのかと聞くと、この学生はここ2〜3年前だと答える。彼は、私がこの駐車場に感銘を受けているのを、変な日本人というような目で見ていた。

さて、胸を膨らませて訪れたトレドであったが、それほど強い感銘を覚えなかった。一番の観光施設である大聖堂は、スペインではセビージャに次いで大きいそうだ。内側は彩色豊かな空間がつくられており、しかも金ピカしている。とても派手な教会である。この教会が、世界遺産に指定されるうえでの有力な理由であったことが頷ける。しかし、個人的には、ドイツのシュパイヤーの大聖堂の清貧ゆえの美しさ、ケルンの大聖堂の有無を言わさない迫力、などに比べるとずっと今ひとつな印象を覚えてしまった。まあ、これは個人的な嗜好の差であろうが、それほど感心できなかったのである。さらに、街並みである。街並みは確かに美しく、興味深いが、多くの人が生活していることもあり、その歴史的文脈に沿った改築などがなされているのだろうが、歴史から取り残された「生きる博物館」的な魅力は、他の世界遺産の都市の街並み、たとえばタリン、ベルン、フィレンツェ、ゴスラー、ケドリンブルク、リューベック、シュトラスブールほどには感じられなかった。まあ、ドイツのバンベルク、レーゲンスブルクくらいかな、と言ったらトレドの人は怒るだろうか。あと、この旧市街地の車が一台しか通れないような道を、車が行き来し過ぎである。おちおち落ち着いて歩けずに不愉快になる。これも、私があまり、このトレドを有り難がらなかった理由の一つであろう。歴史的街並みに多くの自動車が駐車しているのを見ると、本当、興ざめしてしまうのである。

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(狭い道を走ってくる車。逃げ場がない)

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(トレドの周囲は開発がされていない)

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(街並み自体が美しいかと言われると、ちょっと疑問)

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(この城壁を模した意匠が施された駐車場ビルには感心した)

まあ、そのような問題を考慮から外しても、なぜか、私はトレドよりルクセンブルクの旧市街地の方が、同じように川に囲まれている都市であるのだが、遙かに強い感銘を覚えたのである。それは、個人的な嗜好なのであろうが、砂上の楼閣のようにつくられた丘状の城塞都市の建物自体が、ベルンやルクセンブルクほど魅力的ではないからではないかと思われるのである。酷い言い方をすると、どこかしらブラジルの丘に発展したファベラを彷彿とさせるその景観には、それほど感心しなかったのである。まあ、死ぬ前に見てよかった、と思わせるようなコンテンツの迫力を有していないのである。とはいえ、ベルンも死ぬ前に見るべきかと問われると、必ずしもそうでもないと答えそうなので、期待が大きすぎたゆえの過小評価であろう。

さて、とはいえ、トレドでも大いに感心したことがある。その一つは前述した駐車場であるが、もう一つは、馬蹄上のタホ川の向こう側がほとんど開発されていないことだと思う。タホ川と接していない方角は城壁がつくられている。すなわち、都市と周辺部の境界が極めて明瞭なことである。したがって、トレドの全景を遠望できる場所から、トレドを眺めると、これは美しくて感銘を覚える。要するに、背景の何もなさが、このトレドの美しさを引き立てているのである。この引き立ての素晴らしさと、このような光景を遠望できるスポットがあることは素晴らしい。しかし、それにしても、このトレドの周辺の土地は土地利用的に規制されているのか。もし、トレドの都市の美しさを意識して、土地利用を規制しているとしたら、凄いことで、スペインのランドスケープに関する考えが極めてしっかりしていることを裏付ける。
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