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『The Landscape of Man』は私が今さら指摘することもないだろうが、素晴らしい書である。 [書評]

イギリスで最も有名なランドスケープ・アーキテクトであるジェフリー・ジェリコが著した『The Landscape of Man』を読む。この本はおそらく15年以上前に購入しているのだが、今日まで読まずにいた。なぜか。分厚かったからである。写真が多いのでそれほどテキストはないのだが400頁近くのボリュームがあり、しかも頁自体も大きい。ということで、読まなくてはと思っていたのだが後回しにしていたのである。それを遂に読めた。といっても一気には読めず、一週間はかかった。本書は、まあ私が今さら指摘するまでもなく、素晴らしい本である。ランドスケープ史の本であるが、この本を読むと、ランドスケープ史とは、すなわち人類の文化史のようなものであることが理解できる。

不勉強なのでいろいろと勉強になった。18世紀のヨーロッパのランドスケープ・デザインにおいてイタリアそして、それを継承発展させたフランスの影響がいかに大きいかを知る。源流はイタリアであるが、ル・ノートルによって設計されたヴォー・ル・ヴィコンテそしてヴェルサイユ宮殿はその後のヨーロッパのランドスケープ・デザインに多大なる影響を与えた。

個人的に興味深かったのは、中国のランドスケープ・デザインが西洋に及ぼした影響である。これは、私が単に不勉強なだけかもしれないが、中国の建築意匠はロココに多大なる影響を及ぼしたという指摘はちょっと驚いた。ロココと中国が関係しているなんて、映画『下妻物語』の竜ヶ崎桃子もびっくりだろう。また、中国の宮殿や庭園は19世紀にイギリス軍に結構、破壊されているという事実も知らなかった。中国は日本に対して反感を抱いているが、ちょっと前まで歴史をさかのぼれば阿片戦争などイギリスが中国にしたことも随分と酷い。日本にも非難されることが多くあることは確かだが、日本だけでなくイギリスのしたこともしっかりと中国政府は人民に教えるべきなのではないかとちょっと思ったりもした。

ただし、包括的ではあるが幾つか欠けている点がある。例えば、韓国に関してはまったく記述がない。あと平安京の遷都が794年ではなく784年、明治維新が1868年でなく1869年などの間違いがある。これは日本の記述であるから間違いに気づけるが、日本の誤りから類推すると他の地域にも誤りが多いのではないかと推察される。この点は残念だ。あと妙にデンマークの情報が多い。デンマークといった九州ほどの国の記述は多いのだが、ベルギーや東欧諸国のそれは少ない。デンマークのランドスケープはそんなに優れているのか。ここまで包括的に整理されているのであるから、頁がさらに増えても構わないので、地域的にもより総合的な整理がされているとよかったと思う。

日本に関しては14頁が割かれている。驚くのはそこで掲載されている日本のランドスケープがとても美しいことである。この本を読んだら、これらの写真に導かれて日本に行きたいと思うだろう。しかし、実態はこれらの写真とはだいぶ異なるものへと変容してしまっている。出版年が1975年であるから、35年以上の写真が用いられているのであろうが、それにしても、この期間、日本は経済的な豊かさを得ることはできたかもしれないが、大切なものを喪失してしまったのではないかと思わずにはいられない。

15年かけて読み終えることができた。人生70年と考えると、本当に何をやっているんだか。読み終わった安堵感とともに、ちょっとした虚しさも覚える。

The Landscape of Man: Shaping the Environment from Prehistory to the Present Day

The Landscape of Man: Shaping the Environment from Prehistory to the Present Day

  • 作者: Geoffrey Alan Jellicoe
  • 出版社/メーカー: Thames & Hudson
  • 発売日: 1995/04
  • メディア: ペーパーバック



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