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マグデブルクの「緑の砦」 [都市デザイン]

マグデブルクはドイツのザクセン・アンハルト州の州都である。エルベ川沿いに発展した古都だ。オットー一世がここに居を構え、ここに没されたこともあり、中世においてはヨーロッパの中でも非常に重要な位置を占めた都市であったが、その後、幾たびかの戦災を受け、その重要性は低下する一方であった。特に最近ではハノーファーとベルリン間のドイツ新幹線ICEが北のルートを通ることになり、マグデブルクをバイパスしたことで、その重要性はさらに低下している。人口統計でもそれは現れており、マグデブルク市の人口の最大値は1940年の34万人で、現在はその3分の2の23万弱である。

マグデブルクの都市のシンボルはゴシック建築の大聖堂であった。ドイツ最古のゴシック建築である。その風貌の厳つさやファサードを装飾する怪物や気色悪い人間の像などは、まさにゴシックそのものである。この大聖堂のすぐ北にウンザレ・リーベン・フラウエン修道院のようなロマネスク様式の傑作があるにも関わらず、この大聖堂のインパクトは強烈である。しかし、またこのシンボルが強烈すぎることや、マグデブルク市もゴシック都市を売り出したことで、逆に暗い中世のイメージが都市を覆っていたといっても過言ではないだろう。一方で、中世のイメージを売っている割に、中世の建築物は戦争で破壊されほとんど残されていない。したがって、歴史があるにも関わらず、それを現代に継承するものとしては大聖堂を越える存在感のものはなく、その周囲は社会主義時代の無粋なプラッテンバウで埋められるといったような状況にあった。ドルトムント工科大学の同僚は、私にマグデブルクだけには行くなよ、と指摘したぐらいである。まあ、ドレスデン、ライプチッヒ、ベルリン、エアフルト、シュベーリン、ポツダムと多くの旧東ドイツの州都が再生への途を歩みつつある中、ここザクセン・アンハルト州都のマグデブルクだけが忘れられているような状況にあったといえよう。

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(大聖堂)

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(大聖堂の気色悪い銅像二点)

そんな都市にゴシックとはまったく異質の「緑の砦」という建築が中心市街地に現れたのは2005年のことである。まるで絵本にでも描かれているかのような色彩豊かなお城のような建物は、ゴシック的な灰色のイメージに挑戦するかのようなピンク色を基礎として、そのうえを原色が輝くように配色されている。そして屋上を含めて平面は人々の歩行空間以外は芝などの緑に覆われている。それは都市のイメージを一つの建物で根源的に変える個性を有している。そのような建物を設計できる人はガウディ、フランク・ゲーリー、ザハ・ハディドと数は多くないが、この個性溢れる建物を設計したのはオーストリア人のフンデルト・ワッサーである。フンデルト・ワッサーは、ドイツ語で百水を意味する。

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(黒と灰色のモノトーンのゴシック都市に突如、鮮やかなピンク色が出現した)

なぜ、フンデルト・ワッサーにマグデブルク市はここに建物を設計することを依頼したのであろうかは現時点では不明だが、ゴシックの街にピンク色の建物は強烈な対比をこの都市に与える。ヘビーメタルにきらりんレボリューションというコンビという感じだ。しかし、それは決して悪くない。この都市に欠落していると思われた多様性が見事に加わった。そして、この「緑の砦」があることで、それまで大聖堂に押されていたと思われるウンザレ・リーベン・フラウエン修道院もその存在感を発揮できるように思われる。少なくとも、この「緑の砦」によって、これら3つの建築物が大聖堂広場を中心に緊張感ある三角形をつくりだしている。

ジャイメ・レルネル氏は天才を巧みに都市づくりに活用すべきだと指摘する。バルセロナは幸せであった。ガウディという天才が生まれて、その都市の個性をリュイス・ドミニク・イ・モンタネール等とともに形成することに寄与してくれたからである。しかし、天才がたとえ生まれなくても落胆することはない。天才に助けてもらえればいいからだ。フンデルト・ワッサーといえばウィーンというイメージが強いし、やはりウィーンのフンデルト・ワッサーとして後生にも認められるであろうが、天才に愛されたウィーンとは異なり、あまり天才に恵まれていないマグデブルクもフンデルト・ワッサーが足跡を残してくれたおかげで、新たな都市のイコンが創造され、都市の貴重な宝物が付け加えられたのである。フンデルト・ワッサーの名を世に知らしめたウィーンの集合住宅は、ウィーンという綺羅星のように輝く街の個性を形づくる一つの星として光っている
ここマグデブルクでは明けの明星のような明るさを放っている。建築物が都市を変革する鍼治療として極めて効果的であることが、この事業から推察される。もちろん、統計等をみていないのであくまで私の観察に基づいた意見にしかすぎないが、おそらく相当の効果があると思われるのである。

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