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ウィルコの新作は傑作だ! [ロック音楽]

最近、本当に新しいアルバムでパッとするものがないな、と思うことが多い。ロックが現在進行形であった時代はとうに過ぎ去ってしまい、もはやクラシック状態になってしまって久しい。レッド・ツェッペリンをアメリカ人のティーネイジャーが有り難がって聴いていることを高く評価した論文をまとめたアメリカ人の友人がいたが、私はこのような現象はむしろロック的には恥ずべきことだと思っている。レッド・ツェッペリンは当時、伝統的な価値観を破壊する力を有していたところが最大の魅力で、おじさん達が有り難がったものを同じように有り難がる若者が増えたことなど嘆きさえすれ、評価することはできない。もちろん、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルぐらい知っておけよな、というのは夏目漱石やゲーテくらい読んでおけよな、とかドビュッシーとかラベルくらい聴いておけよな、と我々の世代が上から言われたように若者もそれぐらいは基礎知識として知っておくべきだとは思う。しかし、レッド・ツェッペリンを有り難がる若者達にとって、私たちの世代のレッド・ツェッペリンや上の世代のビートルズ(とはいえ、上の世代でビートルズの自称大ファンで、ビートルズに私より詳しい人は滅多にいない)に該当するバンドがなかなか出てこないことは辛いことだと思う。まあ、そういう中ではオアシスとかグリーン・デイ、レッド・ホット・チリペッパー、フー・ファイターズ、レデイォ・ヘッズ、ベックなんかは結構いいのかもしれない。とはいえ、オアシスはもう最近は今ひとつだし、レディオ・ヘッズもちょっと成熟してきたし、コールドプレイは期待していたが、この間のライブでそのだささにうんざりさせられたからなあ。ベックもサイエントロジーだし。ということで、新譜をあまり買わないような状態にあったのだが、レコード屋に流れていた音楽に思わず足を留めて聴き入ったのが、このウィルコの新作『ウィルコ・ザ・アルバム』である。即買いであった。ウィルコといえば私にとっては『キッキング・テレビジョン』のライブ・アルバムが素晴らしい。旧東ドイツを一人でレンタカーでドライブしながらがんがんかけまくっていたので、このアルバムを聴くと、もう条件反射で寒々とした社会主義的な住宅団地の光景が目に浮かぶ。

そのウィルコの最新作は、今までのウィルコ節を引き継ぎながら、全般的にポップなつくりになっている。しかし、ポップでありながら緊張感を維持して徐々に曲を展開させていくところなどは職人芸だ。個人的には「Wilco」、「One Wing」、「Bull Black Nova」、「Country Disappeared」などがお気に入りである。特に「Bull Black Nova」のところどころに溜めをつくり緊張をもたらしつつドラマチックに曲調を展開していく流れは堪らなく魅力的である。まあ「I’ll Fight」、「Sonny Feeling」あたりはだれてしまうので、大傑作アルバムとはいいにくいが、まあウィルコは噛めば噛むほど味が出るようなビーフ・ジャーキー的なところがあるので、そのうち気に入るかもしれない。

私は大学の教員をしている。この仕事をしていて何がいいかというと、学生からこれを聴くといいですよ、と教えて貰えるところである。今までもベン・フォールズやくるりなどは学生から教えて貰っている。まあ、大抵それほど優れていないものを「先生、聴くべきですよ」と言ってきて、学生は逆襲を喰らったりするのだが、「ウィルコの新譜、最高ですよ」と学生が言ってきたりしたら嬉しかったと思う。まあ、今回はドイツにいたりすることもあり、学生が教えてくれる前に自分で見つけた訳だ。とはいえ、こういう新譜で優れたアルバムが出てくる状況というのは本当に重要なことだ。レッド・ツェッペリンを「神」と安易に評価するのではなく、ジミー・ページのギターは下手すぎる、とか親爺なのにむちむちパンツをはくなよとか、もっとこき下ろすエネルギーとパワーが若者から欲しいものだ。少なくともツェッペリンよりかは、グリーン・デイの詞の方がはるかにインテリジェントがあるし、誠実だし、説得力がある。まあ、ウィルコはそういう意味ではおじさん過ぎるバンドかもしれないし、その結果、私に気に入られているのかもしれないが、イーグルスの超ださい新譜が全米ナンバーワンになるという絶望的な現代においては、このウィルコの新譜は多少は心強いものを感じさせてくれる。


Wilco (The Album)

Wilco (The Album)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Nonesuch
  • 発売日: 2009/06/30
  • メディア: CD



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