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『都市交通の危機』は、素晴らしい交通政策の比較分析研究の成果である [書評]

J.プーカーとC.ルフェーブルによる『都市交通の危機』を読む。この本は、アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス、オランダ、東欧諸国の交通政策を横断的に比較分析しているのだが、極めて質が高い研究をされている。また、プーカーが経済面、ルフェーブルが政策面と違った視座を有しているのが非常に多面的にその国の交通政策事情を捉えていて勉強になる。海外における事例研究は、それなりに価値があるが、しっかりとした比較分析が行われてこそ、その研究的意味が高まる。この点は、多くの日本人の著書に不足しているところである。そういう私も、どうしても政策紹介といった低いレベルに甘んじてしまっており、なかなか、この文献の著者達のような水平的な比較ができないでいる。いや、そのような状況にならないように気をつけてはいるのだが、能力不足でうまく出来ていないのだ。

この著書はなかなか内容が濃くて、大変ためになるのではあるが、日本の分析がされていないのは残念である。というのは、政策に関しては疑問であるが、日本の東京や大阪は、世界的にみて最も洗練された公共交通システムを民間の力でつくりだすことに成功したからである。よもや、そのことを知らない訳ではないだろうが、日本人の立場からは、著者らの視点で日本の公共交通もしっかりと分析してもらえたら素晴らしい知見が我々も得られただろうにと思われる。

なかなか日本人の著者ではずばりと指摘できないような点も多く記述されている点も本書の魅力である。例えば、イタリアに関しては「政府から地方自治体までのすべて行政当局は何ら政策をもたず(すなわち何ら目標をもたない)、首尾一貫した政策などはいうまでもなく存在しない」とか、イギリスに関しては「規制緩和は政府が予測したような積極的な効果をほとんどもたらすことはなかった。実際、今ではいくつかの逆効果をみることができる。競争は運賃低下や乗客の増大をもたらさなかった。公共支出は著しく減少したが、全体的なモビリティは損なわれたし、専門家が示したように、産業の長期的な収益性や車両の更新を損なうことになった」など、鋭い指摘が為されている。

交通政策や交通問題に関心のある人には必読の書ではないかと思われる。一部、ちょっと変な訳(例えば、交通移動者としてのtravelers を旅行者と訳している)があったりして読みにくいところもあるが、原著のクオリティの高さがそのような欠点を補って余りある。


都市交通の危機―ヨーロッパと北アメリカ

都市交通の危機―ヨーロッパと北アメリカ

  • 作者: J. プーカー
  • 出版社/メーカー: 白桃書房
  • 発売日: 1999/06
  • メディア: 単行本



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