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裏磐梯の変容にリゾート法という我が国の禍敗を知る [都市デザイン]

 ゼミ生達が会津方面の旅館・ホテルの地元産品の展示の手伝いをしているので、一緒に一泊二日で行く。旅館・ホテルは磐梯熱海、猪苗代、熱塩温泉、裏磐梯と4箇所に散らばっており、4つを巡るのには結構な時間がかかった。私は国鉄がJRになった直後くらいにローカル線の活性化の調査という仕事に携わっていたことがあり、そのうちの一つが磐越西線であったので、ここらへんはその昔、頻繁に訪れた。裏磐梯も結構、行っていた。ちょうど、リゾート法が施行された直後くらいで、磐梯地域は、宮崎の「シーガイア」や三重県の「伊勢志摩」などと同時にリゾート法の第一号として指定されていた。磐梯リゾートは、磐梯町などの福島県の磐梯周辺の自治体が中心となって設立した「磐梯リゾート開発」という第三セクターの会社を中心に開発されたが、2002年には民事再生手続き開始を申請し、現在は長野の星野リゾートが引き取って再生を図っている。

 まあ、過剰な需要の想定と、市場に新たなるリゾート・ニーズを起こすことができなかった陳腐で金太郎飴的な開発がもたらした当然の結果である。私は90年代前半に、安易な事業計画を行っていたリゾートの事業可能性調査をいくつか引き受けていたことがあり、その全てで事業縮小、一部に至っては事業中止といったことを提案していた過去があるので、まあ、その後の多くのリゾートが倒産に至った経緯は驚くに値しないと捉えていた。というか、私は正しかったと自己満足に浸ったりもした(私が事業縮小や事業中止を提案すると、担当者のほとんどは怒り、一部は約束の調査費を払わなかったところさえあったし、社内のリゾート推進派には蛇蝎の如く嫌われていた)。このようなリゾート法によって開発されたリゾート地には、それまで行く気持ちも起きなくて行っていなかったのだが、今回、ゼミ生とつきあって裏磐梯に行ってみたら愕然とした。

 裏磐梯は五色沼や磐梯山といった美しい山岳景観が楽しめる素晴らしい国立公園である。そして、その国立公園内の施設もその自然に応じて素晴らしいものであったが、特に裏磐梯高原ホテルは自然公園の中のホテルとして、ヨセミテ国立公園のアワニー・ホテルやイエローストーン国立公園のオールドフェイスフル・インのようなランドマーク的存在感があるなと思っていた。以前、訪れた時にも裏磐梯高原ホテルの格式の高さ、磐梯山の麓の森に佇むその落ち着きに大いに感銘を覚えたものである。そこには都会の喧噪を忘れさせてくれる大自然の佇まいがあった。ところがである。20年ぶりくらいに訪れた裏磐梯高原ホテルの目の前には、巨大な軍艦のようなホテルがドーンと建っていた。裏磐梯高原ホテルが磐梯高原の自然に融合するような建築になっているのに対し、この軍艦のようなホテルは恥ずかしいばかりの人工的な派手な意匠と金属やコンクリートといった工業生産物、すなわちまったく自然的ではないものの強烈な存在感を放っていた。これは酷い、というか裏磐梯高原ホテルの雰囲気がまったく台無しにされている。そして何と、国立公園の中に道の駅があった。なぜ、生産者がいない国立公園の中に道の駅があるのだ。それは、観光客の利便性を意識してつくったのであろう。しかし、観光客が裏磐梯に来る理由は大自然、美しい自然景観を堪能するためである。その美しい自然景観を、どでかい駐車場を設けて破壊する愚がなぜ理解できないのか。こんなことで道路特定財源を使うな!やはり特定財源はなくした方がいいと改めて思う。さらに中心部には以前に比べてはるかに多くの店やホテルが立地しており、なんとセブンイレブンまであった。セブンイレブンは、赤色を使わない緑と茶色の看板と店舗となっており、まあ景観法とかを意識して、そのような工夫をしているのかもしれないが、もうこれだけ開発をして自然景観を損ねたうえで、そんなことをしても焼け石に水。もう何てことをしてしまったのだ、という行き場のない怒りと空虚な諦観に身が包まれる。ここまで自然破壊が行われていたとは・・・。

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 特に先月、ザイオン国立公園に行き、30年以上前と変わらない素晴らしき大自然を体験し、また、そのしっかりとした自然保護の理念とその理念を愚直に引き継いでいる人々に感心をした後ではなおさらだ。日本にも裏磐梯のように素晴らしい自然がある。ザイオンと比べるとちょっと苦しいが、グレートスモーキー・マウンテン国立公園とならちょっと対抗できるくらいの大自然である。しかし、その大自然を金儲けや、自分達の省益のために破壊してしまった。その自分勝手な欲、大自然の貴重さ、その価値を理解できない蒙昧さが、裏磐梯のランドスケープの変容の原因だ。そして、それは現在の裏磐梯のランドスケープに表れている。自然を切り刻み、犯したあとの無惨なランドスケープである。この裏磐梯のランドスケープは国立公園であるから、地元のものでもなければ、道の駅をつくった国土交通省の役人のものでもなければ、セブン&アイのものでもなく、国民のものであり、そういう意味では私のものでもある。なぜ、こんな破壊を勝手にさせることを許したのか。

 日本人の貴重な宝を守らず、破壊してしまうという行為を許可し、むしろ促したのは、リゾート法であった。こういう馬鹿な法律ができてしまったお陰で、私などは昔の裏磐梯のような素晴らしい大自然を求めて、アメリカの国立公園に行かなくてはいけなくなっている。せっかく日本には素晴らしい大自然が多くあったのに、なぜそれを守ることができなかったのか。なぜ、開発してあぶく銭を手に入れようとする人々を規制することができなかったのか。なぜ、規制する立場の中央官庁がむしろ率先して破壊を進めるのか。愛国心を持て、とか主張している輩が多いが、愛国心の源となる極めて重要な要素は古来からあるその国特有の風土である。その風土の象徴的存在である国立公園をこんなにも率先して破壊してきた政治家や中央官庁の役人が愛国心を持てという方がおかしい。愛国心を持たせるなら、道徳教育よりもその古来の風土をしっかりと保全することの方が効果があるだろう。私はアメリカがあまり好きではないが、それでもグランド・キャニオンとかクレーター国立公園に行くと、アメリカという国の風土の素晴らしさに敬意の念を持ってしまう。私は以前は裏磐梯の大自然に敬意を有していた。今は敬意を有していた自然は傷つけられ、むしろ、そのように傷をつけた我が同胞に強い嫌悪を覚えている。

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(リゾート法が施行された後、裏磐梯には大規模なリゾート施設が多くつくられた)

 久しぶりに裏磐梯に行き、私は日本人として非常に情けなく、悲しい思いをしたのである。今の裏磐梯高原ホテルに行く価値はない。あの昔、本当に大自然に佇むように建っていた裏磐梯高原ホテルの環境を失ってまで何が得られたのであろうか。リゾート法は我が国に巨大なる禍根を残してしまった。磐梯山が噴火して、すべてを灰にするしか再生の道はないのだろうか。慟哭したい気分である。
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