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パリを歩く [都市デザイン]

地下鉄の一日券を購入して、パリを歩き回る。現在、手掛けているジャイメ・レルネルの翻訳本の脚注を書くための事実確認、そして写真撮影をするためである。まずはホテルのそばのモンマルトルを歩く。モンマルトルは初めてである。サクレ・クール聖堂に行き、テラスからパリを一望に見渡す。ここらへんは映画「アメリ」に出てくるのでちょっと感慨深い。「アメリ」は非常に好きな映画なので当然、彼女が働いていた「レ・ドゥー・ムーラン」にも寄る。しかし、日本人の中年男が「アメリ」ファンであることを悟られるのに抵抗を覚え、店に入るのは断念した。写真は撮影したのだが。パッサージュ・デ・パノラマに行くがまだ時間が早すぎて人がほとんどいない。

途中、レルネル氏が本で書いていたパリのタバク系のカフェでコーヒーを一杯飲む。2.5ユーロであった。「アメリ」が石切をし、レルネルさんの本にも出てくるサンマルタン運河に行く。ウォーターフロントを見事に街並みづくりに活かしている。ボージュ広場に行く。このボージュ広場は素晴らしかった。極めて幾何学的につくられているが、周辺の家々に囲まれた素晴らしい広場である。このような広場がある都市は幸せである。バスティーユ広場のカフェに入りサンドイッチとタルト、カフェオレを飲む。タルトは林檎と葡萄によってつくられた美味しいものであったが5ユーロもした。

その後、ジャン・ヌーヴェル設計のアラブ世界研究所に行く。セーヌ川からのファサードは私はそれほど素晴らしいとは思えなかった。カメラの絞りのようなダイヤフラムを用いた南側のファサードは圧巻だが、そのファサードをしっかりと正面から視覚に捉えられる場所がない。もったいない話である。パレ・ロワイヤルに行く。パレ・ロワイヤルのギャラリーには勲章屋があるとレルネルさんの本に書いてある。確かに3軒もあった。勲章屋のショーケースに人が覗き込んでいる。勲章屋とは面白い商売である。パッサージュ・ビビエンヌとパッサージュ・コルバートに行く。パッサージュ・ビビエンヌは私好みの商業空間であった。ただし、それほど人がいなく、このようなヒューマン・スケールの商空間に集客力がないのは残念である。お洒落で洗練されてはいるが人々の位置づけは東京の駅前商店街のアーケードのようなものなのだろうか。パッサージュ・コルバートはなんと大学のキャンパスになっているようで、ギャラリーから講義風景がのぞける。しかし、これは何を意図してこのようなデザインにしたのか理解に苦しむ。というのは学生の気が散るからである。勉強に集中させようとしたら、まったく百害あって一利なしのデザインである。このような状況で勉強に集中できる人がいたら凄い才能の持ち主である。人間の行動パターンを完全に無視した設計であろう。

雨が降ってきたので、ルーブル美術館に雨宿りする。残念なことに6日まではモナリザは展示中止だそうである。しかし、ミロのビーナスやキューピッド・アンド・サイケなどを鑑賞できて満足である。それにしても、これだけの美術品を世界中からかき集められたというのは、ほとんど泥棒のように強奪したからであろう。エジプトのミイラの棺が多く展示されていたが、これなどは墓荒らしをしなければ入手は困難だったのではないか。ミイラも酷い目にあったものである。これじゃ、祟りたくもなるであろう。神をも畏れぬ蛮行である。このルーブル美術館にしろ、以前訪れたベルサイユ宮殿にしろ、私が感じるのは狂気である。人が持てる欲望の強さに本当にくらくらして嘔吐すら覚える。ベルサイユ宮殿なんかに行くと、サステイナブルな社会システムなどを考えても所詮無駄なのではないかという諦観を覚えてしまうのだ。似たような気持ちをルーブル美術館を訪れても思ってしまう。

雨が止んだので、ルレ・クリスティヌ・ホテルに向かう。ここの中庭をレルネル氏は本で絶賛している。翻訳者としては見ないわけにはいかない。確かに素晴らしい小空間が展開していた。日本の庭づくりとも共通点が多いようなプライベートで落ち着く小空間である。ホテルの近くに造幣局があり、そこで何と宮崎駿の展示をしていたので入る。結構、人が入っておりフランスにおける宮崎人気が本当であることを知る。コンパクト・フラッシュのメモリがなくなったので一度宿に戻り、その後、モンマルトルの地下鉄駅アベシスに向かう。ここはアール・デコの入口で有名である。地下鉄に乗り、ヴァンドーム広場に行く。リッツ・ホテルの写真を撮影し、オペラ座、ギャラリー・ラファイエットと訪問する。午前中訪れたパッサージュ・デ・パノラマを再訪する。今度は店もオープンしており、活気がある。しかし、それと隣接しているパッサージュ・ジュフロワの方が空間的にもテナント的にも魅力があると感じられた。特に映画関係の資料が多い店には感銘を受けた。ウマ・サーマンの魅力的な生写真などがあり購買意欲に駆られたが、結局買わなかった。これは後悔するかもしれない。相当、疲れてきたのでそばのカフェに入り、コーヒーと苺タルトを注文する。3.6ユーロであり午前中のカフェより遙かに安い。しかし、午前中のカフェのタルトのように美味しくはなかった。

待ち合わせの約束をしているポンピドー・センターに向かう。ポンピドー・センターの本屋などで時間を過ごし、8時に元同僚の新谷敦子さんと会い、近くのフランス料理屋に食事に行く。彼女はユネスコのパリ本部で働いており、非常に充実した日々を過ごしているようであった。パリがとても気に入っていると言っていた。私が以前いた部署の人間はほとんどが辞めている。そして皆、辞めた後ハッピーになっている。会社で私が働いていた時、よくエンデの小説の「モモ」の時間泥棒のことを思い出していた。私が働いていた会社は時間泥棒に支配されていたのである。私の20代後半、30代の時間は会社に盗まれて二度と戻ってこない。この事実を考えると暗澹たる気持ちになるが、今は泥棒から解放されて、自分の納得いくように人生を歩めている。この事実に感謝できることが、唯一会社にいたメリットではないだろうか。少なくとも修行的意味合いがあった30代前半はまだしも、それ以降の時間は本当に無駄であったと新谷さんの活躍を目の当たりにして改めて思わされるのである。彼女はまだ32なので、いいタイミングで転職できたと思う。33を過ぎている会社ではない。最近は成果主義というコスト・カットによって給料もとんと上がらなくなっているようだし。

フランス料理屋では豚のテンダーロインを食べ、ワインを飲む。ワインはすごく期待していたのだが、それほど美味しくはなかった。安かったからか。豚は美味しかったが、目黒のトンキのトンカツの方がはるかに美味しいと思う。帰りにはどしゃ降りでずぶ濡れになった。

非常に充実した一日であった。しかし、パリは自動車に蹂躙されている。運転マナーも悪いし、どうにかならないのか。ヴァンドーム広場などは自動車に支配されてしまっている。もちろんパッサージュをはじめ、自動車フリーの空間も多いのだが、それにしても東京並みに自動車が我が物顔でいい気になっている。東京にしろパリにしろ、世界に冠たる大都市であり、公共交通が充実しているのに情けない。
タグ:パリ
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