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アルベール・カミュ『ペスト』 [書評]

コロナウィルス禍、気になる小説『ペスト』を読む。フランスの作家、アルベール・カミュが1947年に刊行した、ペストが流行するアルジェリアのフランス植民都市での極限状態における市民の連帯を描いた小説である。
 この小説は、現在、進行しているコロナウィルス禍の状況下において、個人がどのように対峙すべきなのか、多くの示唆を与えてくれると同時に、対岸の火事ではあるが、日本の同盟国であるアメリカ合衆国において、トランプ政権がやりたい放題をして民主主義を危機に陥れている中、何をすべきかを考えるうえでも多くのヒントを与えてくれる。
 カミュが「ペスト」で描いた不条理の世界は、彼自身が体験したナチスドイツ占領下のヨーロッパでの出来事の暗喩でもある。不条理とは、「馬鹿げた計画と明白な現実との比較」とから噴出するものであるが、コロナウィルス禍を真に不条理なものにするのは、Go to トラベルに象徴される「行政のデタラメな対応」や、ノーマスクで山手線に乗って売名行為をする人々に象徴される「人々の相互不信」、さらには志村けんの死別に象徴される「大切な人との別離」などであろう。すなわち、「死」という不条理以外は、人災的に人々によってもたらされる、逆にいえば、人がしっかりしていれば、その不条理の拡大を抑えることもできるということだ。
「ペストと闘う唯一の方法は誠実さだ」と小説の主人公である医師のリウーは語るが、これはまさにコロナの不条理の拡大を抑止させるポイントであると思う。Go to トラベルのどこが問題かというと、それは「誠実」でないことだ。二階氏が会長を務める一般社団法人全国旅行業協会に対して、ある意味「誠実」であるのかもしれないが、そのために、一般の国民に旅行に行かせるというコロナを抑えることとまったく真逆のことをしようとする「誠実さのなさ」には愕然とするしかない。
 そして、これはコロナでもそうだが、トランプ政権のアメリカ合衆国においても、トランプそしてトランピズム(Trumpism)という「不合理」にどのように対応すべきか、ということを考えても、それは「誠実さ」なのではないかと思う。
 恐ろしいことに、トランピズムはさらに拡大し、Qanonというとんでもない化け物を産み出している。Qanonはトランプも支持しているが、「民主党の政治家達は子供の肉を食べている」といった荒唐無稽の陰謀説を訴えているのだが、驚くことに、これらを信じているアメリカ人が結構の数、いるのである。既にマージョリー・グリーン(Marjorie Taylor Greene)といった共和党の政治家はQanonの支持についている。
 QanonはFBIによって、国内テロリストの可能性が高いとチェックをしているが、FBIもトランプ政権下ではその行動は制限されている。というか、改めてトランプ政権というのは、バットマンでいうところのジョーカーが大統領になったようなものだな、とも思うが、このような「不合理」に対応するにも、やはり「誠実さ」が一番なのであろう。ジョー・バイデンとカマラ・ハリスの「誠実さ」に、私がアメリカ人だったらすべての有り金を賭けたいぐらいである。
https://www.nytimes.com/2020/07/14/us/politics/qanon-politicians-candidates.html
 このように捉えると、この「ペスト」という小説、多くの含蓄に溢れている。ただ、訳は今ひとつである。当時の仏蘭西文学の大家が訳したようなのだが、仰々しい表現など、本当にこのように現本で書かれていたのか疑わしい箇所が多々ある。とはいえ、フランス語はほとんど読めないので、この点については検証もできないが、文章はあまり読みやすいとはいえない。この点は残念である。


ペスト(新潮文庫)

ペスト(新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/03/10
  • メディア: Kindle版



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