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日笠端・日端康雄の『都市計画』(第三版) [書評]

ベストセラーというか都市計画関係者にとってはバイブルといってもいいような本である。ただし、改めて読んでみると、気になる点がいくつかある。

まず、エネルギーという視点が入っていないことである。都市交通計画においても、大量輸送機関と自動車の比較をしているのだが、自動車の移動距離当たりのエネルギー消費率が極めて悪いことには触れられていない。この点は、現在における交通計画の重要な目標であるために包括的には捉えられていないと思われる。公園緑地計画においても、オープン・スペースの効用として「市街地の拡大防止」、「保護機能」、「生産機能」、「レクリエーション機能」、「修景機能」は掲げられているが、アーバンヒート・アイランドを緩和するといった微気候管理の効用などは論じられていない。

同様に環境の視点も弱く、広域化によって生じる問題点として、大気汚染や水質汚染といった自治体の境界を越えて広域に対応をしなくてはならない環境問題が看過されている。

加えて縮小都市といった観点はまったく欠如している。もちろん書かれた時代が時代なので致し方ないのだが、都市が縮小することは念頭にも置かれていなかったのだろうと察する。日笠先生のような明晰な頭脳をもってしても、都市が縮小するという事態は想定できなかったのか、という事実が興味深い。

都市基本計画の章で、土地利用計画、都市交通計画、公園緑地計画、都市環境計画、都市施設計画と5つのテーマから整理されていることには違和感を覚える。というのも、これらはより統合的に包括的に捉える傾向にあるからだ。特に公園緑地計画、都市環境計画は土地利用計画に包含されるべきではないかと個人的には思うので、現状の我が国の制度がそうなっている以上、しょうがないが都市計画という方法論として適切かというと疑問を感じる。

これらの問題点は、何も本書の不足している点ではなく、その当時は、上記のような点が問題として捉えられていなかったのであろう。そのように考えると、都市計画をめぐる状況も随分と変化してしまったのだなと思わされる。

とはいえ、相違点より現代にも通じる時代を越えた知見の方が遙かに多く、大変勉強になる。特に日本の都市が貧弱であることを解説した視点は含蓄に富んでいる。「それは一口にいえば我が国の都市計画は幹線道路、大公園、河川、運河などの施設づくりが中心であって、住生活を中心とする生活環境計画として不徹底なためである。都市計画法と建築基準法その他の都市計画関係法は多くあるが、道路、公園、上下水道、学校、病院など生活に必要な諸施設の整備計画のある一定のまとまりのある地区に限って住宅の建設を許可し、それ以外の地区については原則として禁止するという制度がない。(中略)民間や個人の投資に対して公共投資の絶対量が不足しており、健全な市街地を自ら建設する責任をもつべき市町村は、そのための権限も財源も十分に与えられていない」(p.85)。けだし至言である。

あとプラハがプラーグと記述されているところなどは、これだけ改訂版が出されているので(私の本は22版目)出版社も気がつくべきであろう。


都市計画 第3版

都市計画 第3版

  • 作者: 日笠 端
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 1993/04/10
  • メディア: 単行本



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