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アール・ヌーボーの都市ナンシーを訪れたが、それほど感心しなかった [都市デザイン]

フランスのロレーヌ地方の宮廷都市であるナンシーを訪れる。スタニスラス広場は世界遺産に指定されている。この広場を中心として後期バロックのロココ文化が満開しており、映画『下妻物語』の竜ヶ崎桃子的にはメッカ的な都市であろう。さらに、ナンシーはアール・ヌーボーが花開いた都市である。アール・ヌーボーの都市として知られているのはナンシー以外だとパリ、ブリュッセル、ニューヨークといったところか。ナンシー以外は訪れていることがあり、大いなる期待に胸を膨らませてナンシーを訪問した。

さて、スタニスラス広場は確かに素晴らしいものであった。豪華絢爛というか派手全開という感じで、私は決して嫌いではない。ロココは退廃的というか貴族の贅沢好きが行き過ぎたような嫌らしさがあるが、この過剰な装飾もナンシーのような新しい都市においては、個性の演出に寄与していると思われる。同様のことはポツダムでも言えるであろう。

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(スタニスラス広場)

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(スタニスラス広場の電灯。なんと王冠が上についている!)

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(スタニスラス広場の門。この派手さは凄い)

さて、一方のアール・ヌーボー。むしろ、こちらに多大なる期待をしていた。これは、芸大教授の佐野敬彦氏の『ヨーロッパの都市はなぜ美しいのか』を読んだこともあったと思う。実際、「マジョレルの家」(アンリ・ソヴァージュ)や「ベルジュレの家」(リュシアン・ヴァイセンビュルガー)といった代表的な作品はなかなか見事なものがあったし、街中の建築物もどこかしらアール・ヌーボーしていて、アール・ヌーボーの都市という形容は決して大袈裟ではないということが理解できた。しかしである。どうにも都市全体の雰囲気がよくないのだ。都市デザイン的な配慮や工夫は、世界遺産のスタニスラス広場周辺ではされているのだが、他ではほとんどされていない。個々の建築は素晴らしいのだが、全体の都市の調和が為されていないことがどうにも気になるのである。サイン計画的なものはなく、建物のスタイルもごちゃ混ぜであり、特に突然建てられている印象を受けるモダニズム風の高層ビルが下品な印象を都市に与えている。加えて、ドイツではあり得ない色彩の氾濫が街並みを下品なものにしている。ある意味でアジア的ともいえるような下品さである。しかし、アジアの都市はこの下品さを活動のレベルの高さで隠せるが、このフランスの中都市ではそのような活力はない。建物の多くは100年ほど経ったものが多く、ちょっとしたリハビリで随分と景観的にはよくなるのだろうがもったいない。これは、リヨンの旧市街地やボーヌ、コルマールといった古い建物を都市デザインの観点から意識している都市を訪問した後だからかもしれない。

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「マジョレルの家」

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(久々にスケッチブックを持ってきたので、ちょっと「マジョレルの家」をスケッチしてみました)

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「ベルジュレの家」(リュシアン・ヴァイセンビュルガー)

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「ロンバルト・フランス・ラノードの家」

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(商工会議所)

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(普通の家の門でもアール・ヌーボーしている)


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(この下品な色遣いはどうにかならないのか)

ブリュッセルやパリなどは、都市としての高度な魅力、デザイン性が下地として十二分にあり、その個性の多様さを高めるためにボーナスのようにアール・ヌーボーが寄与しているので非常に魅力を高めるが、ナンシーのようにそのような下地が弱い場合は、アール・ヌーボーだけで都市の魅力を高めるほどの力はないことを知る。しっかりとした都市デザインの政策があれば別であろうし、またバルセロナのような都市の個性をも更新するだけの個の力が強い場合は別であろうが、ちょっとナンシーでは施策的にも十分でないし、個の力もちょっと弱くて中途半端になっている印象を受けた。ちょっともったいない気がする。

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