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『公共空間としての都市』は都市計画関係者必読の名著である [書評]

 岩波書店が刊行した「都市の再生を考える」シリーズはなかなか読み応えがあるが、その中でもこの『公共空間としての都市』は内容が特に濃い。他の巻だと、幾つかの章は今ひとつのものが含まれたりもするのだが、この巻はそのような外れもなく、非常に充実している。
 その中でも最初の2編は迫力がある。
 西村幸夫氏の「コモンズとしての都市」は日本型の都市計画は公共性の捉え方が欧米と違うことを指摘。日本の公共性とは国家的観点に立った公共性であり、それは決してコモンズとしての都市を意識してはなかったと言及し、行政主体の都市計画と住民が中心となるまちづくりとを対比させ、将来のコモンズづくりの可能性をまちづくりにみる。また、都市は民主主義の学校であり、その空間は教室であるとの指摘は、都市の公共性とは何かを的確に表現している。蓑原敬氏の「都市再生の理念と公共性の概念の再構築にむけて」も素晴らしい指摘がなされている。なぜ、日本の都市計画がうまくいかないのか。そもそも都市再生のビジョンが描けるのか、という問いは理想論だけが語られ、その実践主体もなければ方法論もない現状の日本の都市計画の根源的な問題点を指摘する。
 それ以外の6編も大いに勉強になる。以下、私が特に感銘を覚えた文を前述した2編からのものも含め、何点か紹介したい。
「日本型都市計画の公共性とは、したがって、国家的観点に立った公共性である。居住原理との緊張関係を有しない純粋培養的な統治原理がまかり通っていたのである。それはけっしてコモンズとしての都市を意識したものではなかった」(p.18, 西村幸夫)
「大変革期にありながら、口当たりのよい総論的な言説を繰り返し、各論への介入を不可避にする実体の変革を避けた表面的な表現だけを重ね、各論の段階では常に既往の制度の部分的な手直しでお茶を濁してしまい、総論で掲げた目標はいつの間にか消え失せているのが日本の行政構造の現実である」(p.33, 蓑原敬)
「せっかく環状道路やバイパスを作っても、都市の再生に結びついていない例が大変多いのである。逆に、バイパスを作ったがために、バイパス沿道に大規模店舗が立地し、その結果として中心市街地の賑わいが消えてしまった例すらある」(p.65, 久保田尚)
「都市内の河川に隣接する空間は、物流、防災、レクリエーションなどの空間として重要な公共空間であり、東京においては、江戸期より、河岸地として位置づけられ、土地利用のルールを定め、公的土地所有のシステムが約300年にわたり継承されてきた。この制度は、昭和四十年後半から美濃部都政による赤字解消の財源として、河岸地が売却の対象となり、大半が売り払われることにより、消滅を遂げた」(p.89, 石川幹子)
「単に物理的な「行政施設」が出来たことをもってよしとし、コモンズを欠く整備は公共投資の浪費である。この認識を全く欠くのが、日本の都市計画・まちづくり行政の致命的欠陥である」(p.183, 林泰義)
「昭和の初期、震災復興の時期、モダンな都市空間が登場し、人々は街をよく歩いた。街に賑やかなライブ感覚が溢れる時代が再び訪れた。都市の写真集も多く出版された。
 ところが、その歴史をもった都市の中心が今、寂れている。郊外への発展、とりわけロードサイドの大型店舗の発達で、都心の商業機能が衰退し、商店街も盛り場も力を失っている。人がともかく歩かない。いかに、都心に魅力を回復させるかが、日本のとりわけ地方都市の最大の課題になっている」(p.217, 陣内秀信)
 本書の密度が濃いということが、上記の文章などからも伺い知れるのではないかと推察する。都市計画関係者はもちろんのこと、都市計画に関心を持つ市民や学生にも是非とも手にとってもらいたい一冊である。

岩波講座 都市の再生を考える〈第7巻〉公共空間としての都市

岩波講座 都市の再生を考える〈第7巻〉公共空間としての都市

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/01
  • メディア: 単行本



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