『大型店とドイツのまちづくり』はいろいろな意味で驚きの本である [書評]
この本はいろいろな意味で驚きの本である。まず、筆者の情報収集能力の高さ、得られた情報の編集能力の高さに驚かされる。しかも、これがドイツ人の手による本であっても感心するような内容であるのに、日本人がまとめたということに驚きを禁じ得ない。このような本が日本人の手によって書かれたことを知れば、ドイツ人も腰を抜かして驚くであろう。日本語で書かれているために、それを知るドイツ人が多くないことは残念である。二点目に、この本が出版されたということに正直、驚く。というのは、あまりにも専門的というか、都市計画という専門分野の中でもあまりにも専門的すぎる内容であるからだ。こういったら大変失礼だが、おそらく相当売れないのではないかと思う。というか購入した人の半分を私は個人的ではなくても、お名前などを知っているような気がする。それほど内容的には専門に特化しているからだ。とはいえ、この本が出版される価値がないなどとは全く思わない。むしろ逆である。このような本が出版されること、出版しようとする出版社がいるということは日本という国の素晴らしさであるとさえ思っているぐらいである。まあ、この出版社は私の本も二冊（翻訳を含めれば三冊）出版したことがあるので、そういう点では奇特な出版社なのかもしれないが、学芸出版社は日本の都市計画や都市計画行政に対して大きな貢献をしているのではないかと思われる。
本の内容は、ドイツの自治体が郊外に立地しようとする大型小売店をどのように規制しようとしたか、もしくは出店側はどのように規制の網の目の間隙を縫って立地させようとしたのか、というプロセスをルポルタージュ風にまとめている。私は、その攻防が展開されたヴェストファーレン州に住んでいるので、この大型店はそういう背景があったのか、とかこの中心市街地はそのようなやりとりの結果、現在のようになったのか、などとあたかも歴史書をもって古戦場を視察するような気分でこの本を活用したので大変興味深かった。しかし、そういう土地勘がなかったら何のことやら分からない描写が続く。私も自分の生活圏の地域の話は興味深く読めたが、ウルム地方の事例分析は何がなにやら分からなく、消化不良に陥ってしまった。
とはいえ、そのような具体的なイメージが湧かなくても、ドイツの都市計画が理想であると信じていた読者には、それが幻想であると伝えることに本書は大きく寄与した。「計画なくして開発なし」という訳では必ずしもないということを、事例を通じて説得力をもって日本の読者に伝えることができたということは、この本の日本の都市計画への大きな貢献であると考えられる。
また、ちょっと事例研究の描写は細かすぎて分かりにくいという読者にも、ドイツの経験が我が国において参考になる幾つかの点を本書からは伺い知ることができる。
私的に興味深かったのは、ドイツにおいては郊外の大型店進出の是非として、そのテナント構成に着目していることである。すなわち、そのテナントの扱う商品が「都心性商品」か「非都心性商品」か、その割合で大型店進出を許可したりしなかったりする。大変、興味深いアプローチであると同時に、郊外大型店と都心商業地区とか真っ向から対立するという構図でしっかりと理解しているところが、プラクティカルな都市計画を志向するドイツらしくて興味深い。
また、ウルム商工会議所の委員が「何が何でも競争という態度は都市のアメリカ化を招き、中小企業を基礎とした町の長所がつぶされる」と発言したのを紹介したところも面白かった。郊外に大型店を立地させたら中心市街地はつぶれる。購買力に変化がないのに、供給を増やしたら、競争力がないところは潰れるのは当然だ。香川県の高松市や宮崎県の宮崎市など、郊外型大型店を立地させたあと、慌てて中心市街地の活性化に力を入れているが、まさに泥縄。やるのは気休めとしてはいいかもしれないが、正直、お金の無駄だと思う。酒を飲んだ後、一生懸命、酔いを覚まそうとして水を飲みながら自動車を運転しているようなものだ。飲んだら乗るな、生き残りたかったら立地させるな、である。その点は、ドイツはプラクティカルにその問題を捉えていて日本のような甘えはない。
事例研究が分かりにくいという難点はあるが（これは書いていることが難しいというのではなく、書かれている場所や背景が分かりにくいということ）、最も本書において価値があると思われるのは筆者の後書きである。特に、日本とドイツの大規模郊外小売店を規制する法律の比較をした表は秀逸であり、我が国の何が問題であったかが浮き彫りになる。この表だけでも、この書籍の価値はあると思われる。
本の内容は、ドイツの自治体が郊外に立地しようとする大型小売店をどのように規制しようとしたか、もしくは出店側はどのように規制の網の目の間隙を縫って立地させようとしたのか、というプロセスをルポルタージュ風にまとめている。私は、その攻防が展開されたヴェストファーレン州に住んでいるので、この大型店はそういう背景があったのか、とかこの中心市街地はそのようなやりとりの結果、現在のようになったのか、などとあたかも歴史書をもって古戦場を視察するような気分でこの本を活用したので大変興味深かった。しかし、そういう土地勘がなかったら何のことやら分からない描写が続く。私も自分の生活圏の地域の話は興味深く読めたが、ウルム地方の事例分析は何がなにやら分からなく、消化不良に陥ってしまった。
とはいえ、そのような具体的なイメージが湧かなくても、ドイツの都市計画が理想であると信じていた読者には、それが幻想であると伝えることに本書は大きく寄与した。「計画なくして開発なし」という訳では必ずしもないということを、事例を通じて説得力をもって日本の読者に伝えることができたということは、この本の日本の都市計画への大きな貢献であると考えられる。
また、ちょっと事例研究の描写は細かすぎて分かりにくいという読者にも、ドイツの経験が我が国において参考になる幾つかの点を本書からは伺い知ることができる。
私的に興味深かったのは、ドイツにおいては郊外の大型店進出の是非として、そのテナント構成に着目していることである。すなわち、そのテナントの扱う商品が「都心性商品」か「非都心性商品」か、その割合で大型店進出を許可したりしなかったりする。大変、興味深いアプローチであると同時に、郊外大型店と都心商業地区とか真っ向から対立するという構図でしっかりと理解しているところが、プラクティカルな都市計画を志向するドイツらしくて興味深い。
また、ウルム商工会議所の委員が「何が何でも競争という態度は都市のアメリカ化を招き、中小企業を基礎とした町の長所がつぶされる」と発言したのを紹介したところも面白かった。郊外に大型店を立地させたら中心市街地はつぶれる。購買力に変化がないのに、供給を増やしたら、競争力がないところは潰れるのは当然だ。香川県の高松市や宮崎県の宮崎市など、郊外型大型店を立地させたあと、慌てて中心市街地の活性化に力を入れているが、まさに泥縄。やるのは気休めとしてはいいかもしれないが、正直、お金の無駄だと思う。酒を飲んだ後、一生懸命、酔いを覚まそうとして水を飲みながら自動車を運転しているようなものだ。飲んだら乗るな、生き残りたかったら立地させるな、である。その点は、ドイツはプラクティカルにその問題を捉えていて日本のような甘えはない。
事例研究が分かりにくいという難点はあるが（これは書いていることが難しいというのではなく、書かれている場所や背景が分かりにくいということ）、最も本書において価値があると思われるのは筆者の後書きである。特に、日本とドイツの大規模郊外小売店を規制する法律の比較をした表は秀逸であり、我が国の何が問題であったかが浮き彫りになる。この表だけでも、この書籍の価値はあると思われる。
- 作者: 阿部 成治
- 出版社/メーカー: 学芸出版社
- 発売日: 2001/12
- メディア: 単行本
