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オーストラリアの地域通貨、マレーニのレッツを調べてみた [サステイナブルな問題]

1987年10月、オーストラリアのサンシャイン・コーストの丘陵地にある町マレーニは、地域通貨のレッツを導入した。それは、マレーニ独自の自助的経済システムであった。このレッツを導入したのが、マレーニに信用組合や生協を設立したジル・ジョーダンであった。ジル・ジョーダンは、信用組合ではカバーできない人々の経済活動を促進するために、カナダのヴィクトリアにて普及していた地域通貨システムを現地に研究しに行き、そのノウハウを持って帰国、そのマレーニ版を導入することを提案する。マレーニの人々は早速、これに飛びつき、マレーニ地方に多く育つバニヤ松の名前を取り、バニヤという単位の地域通貨システムレッツを始動させる。

マレーニ信用組合から事務所を借りて、事務職員は1時間当たりメンバーから10バニヤをもらって作業をしている。このレッツ・システムはLocal Energey Transfer Systemの略である。日本語に訳すと、地元のエネルギー交換システム、とでもなろうか。ここで、エネルギーとはその地元のコミュニティの人々が有する能力のことである。昔からコミュニティに存在していた相互補助の関係のようなものであるが、それをより促進させ、活性化させるために、この地域通貨というシステムは寄与する。すなわち、お裾分けなどの交換が個人レベルで行われるのに対して、地域通貨はコミュニティ・レベルで交換が行われることになる。そして、その交換によって、潜在的にあったコミュニティの力や資源が顕在化し、活性化されるのである。なかなか素晴らしいアイデアである。例えば、私はそこそこ都市デザインができる。大学院まで勉強していたし、それをベースとして研究なども重ねてきた。しかし、私が以前、働いていた会社のノルマを達成させるほどのお金を私の専門的サービスに払ってくれるクライアントはゼロとは言わないまでもほとんどないに等しかった。したがって、私の能力はまったく社会で活用されていないのであるが、お金がなくても、そのような能力を活用した場合には地域通貨というのは使い勝手がいい。私も死ぬまで、この能力(アメリカの大学院まで通っているので、投資額は相当大きい)が活用されないのも悔しいので、そろそろ地域通貨的なお手伝いでもした方がいいかも、と思う一方で、そういうことをやると、本当に都市デザインという職能が成立しなくなるのでやらない方がいいかも、という気持ちもある。

まあ、私のケースはともかくとして話をマレーニの地域通貨システムであるレッツに話を戻すと、レッツには利子がない。また、負債はむしろ多くすることが奨励される。貯金をすることはむしろマイナスなのだ。このレッツを機能させるのに重要な役割を果たしているのが「記帳システム」と「伝言板」である。

「伝言板」は、メンバーがどのような商品やサービスを提供しているかを記したものと、どのような商品やサービスを必要としているのかを記したものとから構成される。メンバーはこの伝言板をみて連絡を取り合うのである。そして、月ごとにメンバーは、彼らのその月の取引記録、収支記録、それに新たな商品、サービスの提供リストを受け取る。この取引記録は、地元コミュニティが有する人々のエネルギーの交換記録であるのだ。
 通常の市場経済からははじき出されてしまうサービスや商品も、この地域通貨がつくりだす「経済圏」では価値を有する。それなりの技術を有する失業者や高齢者のポテンシャル(エネルギー)を活用するためには極めて有効な手段なのではないかと思われる。
 私も学生などに仕事の手伝いをしてもらったりした時に、酒を奢ったりするが、そういうのとも相通じる考え方かもしれない。また、私はゼミ生と雑誌をつくって発行しているが、これがまあほとんど売れない。市場経済下においては相手にされないが、それでも義理やつきあいで購入してくれる人達が少数だがいる。これらの人が払ってくれるお金は、「円」ではあるが、そこには情がこもっており、まさに我々にとっては地域通貨である。地域通貨で印刷を請け負ってくれるところがあれば、この雑誌も地域通貨で販売できるのにと思う。
 ちょっと話が逸れたが、レッツ・システムは非常に面白い試みである。コミュニティが市場経済に蹂躙されそうになった時の対抗手段としては、それなりに有効であろう。また、常に「金がない、金がない」を理由に何もしない学生達を活性化させるためにも、それなりに有効なのではないかと思ったりする次第である。


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