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『脱・道路の時代』を読む [書評]

 上岡直見氏の『脱・道路の時代』を読む。これは、道路問題の肝をしっかりと押さえ、整理されており道路問題を理解するうえでは役に立つ良書である。著者は「自動車ユーザーは、道路という物体が必要なのではなく、よりよい道路交通サービスの享受が最終目的であるはずであり、そのためには道路の「造り方」よりも「使い方」に議論を転換」するべきであると言及する。道路はハードではなくて、使い方というソフトの面が重要という認識は鋭いものがある。


脱・道路の時代

脱・道路の時代

  • 作者: 上岡 直見
  • 出版社/メーカー: コモンズ
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 単行本



 こういう道路批判本にありがちなジャーナリスティック的なヒステリックさは皆無で、科学者のような客観的な分析が続く。読者にとっても、こういうアプローチでの本は有り難い。
 特に興味深かったのは、渋滞緩和の分析に関してである。道路整備の名目は渋滞緩和である。しかし、本書では道路整備による「誘発効果」がもたらされたりして、道路整備は往々にして渋滞を緩和しないことを指摘する。事例も挙げているので説得力がある。
 1994年から2005年の間に、日本全体で151兆6904億円が道路に投資されたにも関わらず、「ピーク時旅行速度」が高速道路では低下傾向にあり、国道以下の一般道路でも上昇はわずかである 。このような巨額の投資に対して旅行速度が向上しない理由を上岡は次のように分析している。
「道路整備による混雑緩和という観点を重視するなら、必要性が高いのは都市部である。しかし、都市部では、局部的な整備にも多くの費用と時間がかかる。逆に建設が比較的容易な農山村部では、もともと混雑がみられないか、あったとしても程度が軽く、そもそも道路整備の必要性は低い。自動車の通行量が多いところほど道路が造りにくく、逆に交通量が少ないところほど道路を造りやすいという矛盾した関係がある。
 道路を作りやすい地域でいくら道路予算を使っても、全国的な渋滞の緩和という面では効果が乏しい。逆に道路整備をまったくやめてしまっても、全国平均の旅行速度という指標からみれば、状況はほとんど変わらないとも考えられる」
 多くの道路が「渋滞緩和」を整備理由で掲げるが、実際は自動車交通を増やすだけで、渋滞はなくならない。これは、アメリカなどでは私が留学していた時からプランナーの間では常識であった。"You can not build your way out of congestion" はほとんど格言のように使われていた。もう15年以上前の話である。しかし、この格言は海外の政策をフォローするのが大好きな日本人も無視をしてきたような気がする。結局、道路整備を進める口実だけを海外に探しているのであろう。
 とはいえ、いい加減、この「格言」の持つ意味をしっかりと噛みしめてもいいのではないだろうか。格言は、それなりに知恵が含蓄されているので、人々が好んでフレーズとして使うのであるから。
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