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感涙の椎名林檎「生」林檎博08のライブを観る [ロック音楽]

椎名林檎「生」林檎博08をさいたまスーパーアリーナで観る。フルオーケストラとベース、ギター、ドラムを従えた大布陣である。「ハツコイ娼女」でムーディにスタートすると、「シドと白昼夢」、「ここでキスして」、「本能」という強烈な3連発を喰らわす。もうここでコンサートが終わっても9000円の価値はあったと思わせる迫力。デビルマンに出てくるシレーヌのような角のような帽子のようなものを頭に載せた格好は有無を言わさぬ存在感を発揮しまくっている。さいたまスーパーアリーナという巨大な空間を彼女は4曲で支配してしまった。凄いパーフォーマーである。この4曲が終わったあと、デビューからの流れをスライドで紹介する。バックグランドミュージックは、フルオーケストラによる宗教。
 そして、衣装替えもして「ギャンブル」。ソロ的には新しい曲だが、林檎節ともいえる彼女らしさが溢れ出ている曲である。湿度が高い曲調で、日本の風土が椎名林檎というアンプを通して、産み出した曲だともいえる(同様の曲は「歌舞伎町の女王」が挙げられよう)。続いて、エクスプローラーのようなギターを抱えて「ギブス」、「闇に降る雨」、「すべりだい」と続く。ここらへんの曲は椎名林檎が10代の時につくった曲であると思うが、10年経った今でも非常に新鮮に聞こえる。もはや、ショパンやドビュッシーのようなクラシック的なクオリティーを獲得しているのではないか、とさえ思う。それにしても、「すべりだい」は佳曲である。こんな名曲がアルバムに入らなかったという事実だけでも、1枚目、2枚目時における椎名林檎の楽曲のレベルがいかに高かったかが理解できる。そして、「浴室」。この曲を歌いながら、椎名林檎は台所の流しのようなセットで林檎をリズムに合わせてタンタンと包丁で切っていた。それを舞台の上から撮影していて、会場に映すのだが、これが個人的には凄く受けた。まあ、「林檎が林檎を切る」ということと、「すぐきちんと召し上がれ」という詞と引っかけたのであろうが、この林檎を切っている音が、まるで打楽器のようにこの曲にマッチするのである。こういうアイデアが出てくるというのは、真の天才であろう。この後は、「錯乱」と「罪と罰」。「罪と罰」という曲は「勝訴ストリップ」のアルバムの中ではそれほど好きな曲ではなかったが、ライブの演奏で感動的な曲であることを知った。この曲のメロディーも、日本人の天才でないと紡ぎ出せないものであろう。続いて「歌舞伎町の女王」。この曲は、個人的には椎名林檎の曲の中ではそれほど好きではないのだが、観客は盛り上がっていた。ライブだとこの曲も結構、私を感動させていた。このパワーは凄いものがある。アリーナではなくてスタンドに座っている客を、大して好きでもない曲で感動させる力は相当のものであろう。そして「ブラックアウト」。東京事変の「大人」に入っている曲で、初めて東京事変の曲を披露する。

ここで7歳の息子がナレーターとして出てきて、母親の生い立ちなどを紹介する。椎名林檎は生まれてすぐ母親が栄養を子供に与えられないといった身体上の問題があるとかで、命の危機に晒されたそうである。医者がしっかりしていたので、一命は取り留めるのだが、生まれた直後に生死を彷徨うなど、ファンとしては、これも椎名林檎の才能を伸ばすための試練だったのではないか、と思ったりもする。結婚式のスライドのような生い立ち紹介であったが、まあ、結構、激しい天才にふさわしい半生を歩んできたことを知る。

さて、ここで後半へとコンサートは向かう、という感じだが、その一曲目は「茎」。椎名林檎自体、非常に重要な曲であると言っている「カルキ ザーメン クリノハナ」からの唯一の選曲である(「宗教」はオーケストラのみの演奏)。ここでは椎名林檎似の4名のダンサーが出てくる。私は「カルキ ザーメン クリノハナ」のアルバムは結構、好きなのだが2時間強のコンサートにまとめようとすると、やはり初期の1枚目、2枚目からの選曲が中心となることは致し方ないのだろう。次は椎名林檎が考えたフリで有名な「積み木遊び」。前の女の子二人組はこのフリで踊っていた。しかし、このフリだけみても、振り付け師としての才能も相当なものであることが分かる。さて、その次は実兄の椎名純平との「この世の限り」。この曲はそんなに大したものでもないな、と思っていたが、このコンサートで一番、私の涙腺を攻撃した。思わず、涙が出そうになるくらい感動した。そして、次も兄とのデュエットで、このコンサート唯一、椎名林檎オリジナルではない「オニオンソング」。「唄ひ手冥利」でも取り上げていたマービン・ゲイとタミ・テレルとのデュエット・ソングである。彼女は「いつかは、こんな名曲がつくってみたい」と言っていたが、私的には「この世の限り」も同レベルかそれ以上である。それにしても、椎名純平はアメリカ・インディアンの酋長のような格好で出てきた。これはちょっと違和感を覚えたが、まあ非常に些細なことである。

椎名純平が去って「夢のあと」を披露する。そして、「お祭り騒ぎ」。両方とも東京事変の「教育」に入っている曲である。「お祭り騒ぎ」では富山県八尾の風の盆のような格好の踊り子が100名くらい大量に舞台に溢れ出てきて、みんなで踊りまくる。壮観な光景だ。こういう演出も非常にいい。まったく外していない。紅白歌合戦の演出家より、このコンサートの演出家の方がずっと優れている。このセンスの良さはなんなんだ。もう圧倒されっぱなしである。踊り子達と一緒に、椎名林檎も舞台を去ったので、これで終わりか、と思ったら、また出てきて「カリソメ乙女」を披露する。この曲では、「さよなら」という最後の歌詞と一緒に舞台から消える(下に落ちるだけなのだが)という演出をして、コンサートは終わる。

当然のアンコールで、「正しい街」と「幸福論」というデビュー・アルバムの1曲目とデビュー曲を演奏する。「あの日飛び出した此の街と君が正しかった」ということはなかった、とこの10年間を総まとめとした今日、この場にいる観客は思ったことだろう。そして、椎名林檎の考えとは違って「すべりだい」ではなくデビュー曲として選ばれた「幸福論」。個人的には、まったく期待してないで買った「幸福論」のシングルCDを初めて聞いた時の衝撃は忘れられない。日本人でこんな曲を作れる人間がいたのか!という衝撃である。高校時代、ぴあで無料のチケットを抽選で当たっていったサザンオールスターズのコンサートで感じた、やはり洋楽の方が100倍格好いいことを思い知らされた落胆。その後も、レベッカのピークの時のコンサートにも行ったりしたし、TV(元幼稚マンズ)などは相当、はまったりした。ボガンボスとか、フライング・キッズ、ユニコーン、パフィ、大貫妙子、矢野顕子なども好きでアルバムとかを持っていた。しかし、身贔屓なしで楽曲のクオリティで私に衝撃を与えたミュージシャンは日本人では椎名林檎が初めてであった。その彼女と随分と時間は経ってしまったが、ライブで出会うことができて今日は非常に素晴らしい一日であった。それまでもライブに行くためにCDを購入して優先権を得たりしたが、いつも抽選で外れていた。今日のコンサートも抽選で一度は外れたのだが、再募集で当選してようやく来れたのである。

さて「幸福論」でまた一度、舞台の袖に引き下がり、もう後は「丸の内」をやって完璧だな、と思ったらなんと7歳の時に作曲した「みかんの皮」というのと、余興という感じで新曲のようなものを披露した。そこでまた引き下がり、もうこれで「丸の内」かと思ったら、「丸の内」の録音テープが流れた。このテープが終わって、椎名林檎が出てきて「丸の内」であれば、もうアドレナリンがどばっと出るくらいの完璧さだと期待を募らせていたら、それで終わりであった。ちょっと、この点だけは残念であったが、それでも、私の過大なる期待をまったく裏切ることのないコンサートであった。私は彼女のライブDVDを結構の数、収集しているので、ある程度、素晴らしいコンサートになるだろうと思っていたのだが、この期待を上回るようなものであった。

今日の椎名林檎に匹敵する女性アーティストのコンサートは、ほとんど経験したことがない。アラニス・モリゼットのライブも迫力があったがアラニスは踊りや立ち振る舞いに林檎のような洗練さ、計算された舞台芸術的美がない。ジョニ・ミッチェルやリッキー・リー・ジョーンズなど素晴らしいソングライターのコンサートもいいのだが、椎名林檎のような空間支配力はない。バーシアやグロリア・エステファン、クリスティナ・アギレラ、ノラ・ジョーンズといった歌姫系のライブもそれなりによかったが、訴求力が違う。何か、彼女の発するコミュニケーションで伝える情報量が全然、違うような気がする。スティービー・ニックスとかは迫力はあるが、歌があまり上手くない。私は残念ながら観たことがないが、もし彼女と比べられるアーティストがいるとしたら若きケイト・ブッシュくらいではないか。なんかアーティストとしてのクオリティを探求する求道者のようなところで椎名林檎と対抗できるのではないか、と思うのである。というのも椎名林檎の完璧主義というか厳しいプロフェッショナリズムが、今日のコンサートのすばらしさに繋がっていると思うからである。

先週、大学生に椎名林檎の素晴らしさを話しており、ビョークなど足下にも及ばない、と言ったら、「またまた冗談を」のようなリアクションをされた。冗談なのは君だよ。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を取り上げただけで、ビョークと椎名林檎とはまったく違うレベルの住民であることが理解できる。まあ、前からそういうことは分かっていたが、今日のコンサートでそれを確信した次第である。日本人に生まれて、椎名林檎のコンサートを観られて幸福だな、と思えた一日であった。



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