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上関町の中間貯蔵施設設置調査の受け入れは、同町の人口減少の歯止めにはならない [サステイナブルな問題]

ドキュメンタリー映画『祝の島』の舞台となった上関町の西哲夫町長は18日、中国電力から申し入れのあった使用済み核燃料の「中間貯蔵施設」設置に向けた調査について、受け入れを表明した。この件に関しては、報道するメディアによって、その記事の書き方が大きく異なるところが興味深い。
 例えば、これに賛成しているのは産経新聞。「国の原子力利用の基本である核燃料サイクルが未確立の現状において、中間貯蔵施設の持つ意味は非常に大きい。(中略)中間貯蔵施設は必要だ。」と書いている。それほど強い主張ではないが、特に地元では反対運動などがあったことを一切記していないのが読売新聞である。NHKや朝日新聞は反対派がいることを指摘。ただ、立場的には中立ではある。否定的な論調なのは東京新聞である。 
 さて、受け入れ表明を受けて、上関町では臨時議会が開催された。そこで西町長は次のように述べる。
「町の人口は年間で100人減少し、高齢化率も中国5県で一番高い状態だ。このままでは住民支援策も近い将来できなくなる。持続可能なふるさと上関町を次世代につなげることが私の使命で、中間貯蔵施設の調査を私としては受け入れる考えだが議員の意見をうかがい、総合的に判断したい」。続いて、無所属の柏田真一議員は「実現すれば工事の発注や物品購入、作業員の宿泊などの仕事が期待でき、町の経済効果が見込まれると期待している。町財政の現状を考えれば、調査・検討は早急に了承すべきだ」と賛成する考えを示した。古泉直紀議員は「本件について財源確保を目的とした地域振興策と認識して認識している。上関町のことを考えれば提案は大変魅力のあるものと考えている」と発言した。一方、無所属の清水康博議員は「核燃料サイクルが確立されていないにもかかわらず、よそから使用済み核燃料を持ってくることにかなりのリスクを感じる。なぜここまで住民の気持ちに寄り添わず、急ぎ足でことを進めようとしているのか全く理解できない」として反対の考えを強調した。意見を述べた議員10人のうち、明確に反対を表明したのは3人にしか過ぎなかった。
 朝日新聞が取材した記事からは、町内の女性(89歳)が「町に金がないんじゃけ、中間貯蔵施設はやったらええ」と話したことが紹介されている。「お金」がなければ、お金をくれる人に尻尾を振る。まるで乞食のような発想だ。記事から見る反対意見としては、上関町に隣接する山口県平生町の原真紀町議の「中国電力に上関町の振興策をオファーしたこと自体が間違いだ。このような施設ができれば、私たちが大切にしている海も変わってしまい、漁にも影響が出る」などがあった。
さて、これらの意見から上関町が置かれている状況が理解できる。上関町は人口が減少し、高齢化も進む。もし、中間貯蔵施設を持ってくることになれば、その工事のために経済効果が生じる。町としては、少しでも金が欲しい、それが多少、リスクがあっても貰えるのであればいいじゃないか、という姿勢である。
さて、しかし、人口減少が進んでいる町にお金を持ってくれば、それで人口減少は留まるのか。確かに工事をしている時は、工事関係者が町に来るかも知れないが、それは工事が終わったら去って行く。そもそも、この工事関係者は町に住むのか。近くの柳井市とかから通勤するのではないか。人口減少を止めるのであれば、他力依存的な経済政策ではなく、自立的な経済政策を模索するべきではないのか。例えば、北海道の猿払村、長野県の川上村、山形県の東根市のような競争力のある一次産業品を開発するとか、地元の資源を活かすようなアプローチを考えるべきではないのか。または、飛騨市や高山市のように地域通貨で地域の経済を回すという発想もあるだろう。安易に悪魔に魂を売るようなことで、果たして人口減少が留まるのかは、本当、真剣に考えるべきだと思う。
 上関町の祝島のある町民は、新聞の取材に次のように答えている。「私たちが知りたいのは、安全性と計画後の長期的な展望だ。目先の交付金で決めてはいけない。祝島は若い人たちが少しずつ増えているのに中間貯蔵施設ができたら人口は減ってしまう。町も財政難で行政サービスが立ちゆかなくなる、というのならば、何ができなくなるかをきちんと示したうえで、それから町の振興策を考えるべきだ」。
 上関町の周辺の自然は瀬戸内海を含めて豊穣で美しい。町はこの自然の恵みの中で持続可能な経済を考えるべきであり、それを未来永劫、使えなくなるような可能性を選択することは愚かであり、悲しいことである。しかも、そのような選択をしたとしても、町内の人口が増えるとは思えない。むしろ、町内にある祝島のように、その自然の豊かさから若者等がIターンで訪れている地域があるにも関わらず、今回の町長、そして町議会の判断は問題解決としてはずれているだけでなく、むしろ人口減少を促進させるであろう。なぜなら、このように地域に住むアホな政治、他力依存の姿勢こそが、若者を地域から流出させている一番の要因であるからだ。つまり、このような政治的判断をしてしまう地域政治こそが、地域の人口縮小の根源的には最も大きな原因である。これに気づかなければ、どんなにお金を持ってきても無駄である。というか、お金は重要ではあるが、より重要なのは、そのお金の獲得の仕方である。補助金をただもらうだけで、そこに住む人が豊かな生活、人生を送れるとは到底思えない。そこに人口縮小する地域はしっかりと目を向けるべきである。
 奇しくも、今日、放射性物質を含む水を太平洋に放出した。その結果、中国は日本の水産物の輸入を全面停止した。上関町も漁業こそが持続可能な経済をつくるうえでの基本であろう。どこでも立地できる中間貯蔵施設を金に目がくらんで誘致することは、それほど遠くない将来、致命的なダメージを地域に与える可能性がある。その時、そこは人口が減少どころか、誰も住めない町、地域になる。そういう可能性をイメージできず、それが地域の問題の解決には繋がらない今回のこのような判断をしたことは残念至極である。

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