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リオデジャネイロ [都市デザイン]

 リオデジャネイロという都市は、世界にも比類するものがない強烈な個性を有した都市である。大都市の背景であるランドスケープがここまで美しく、目を引くところはないであろう。シドニー、ヴァンクーバー、サンフランシスコ、香港・・・。思うがままに列記してみたら、すべて港湾都市であった。しかし、リオデジャネイロはこれらの港湾都市と比べても、その美しさは抜きんでている。比肩すべきものがない、特別な都市である。
 初めてリオデジャネイロを訪れた時の衝撃は忘れられない。都心部のすぐそばに立地するサントス・ドゥモン空港へ降りたった私を迎えたのは、片麻岩の
奇岩が美しい青色の湾に対して屹立する素晴らしい景勝を背景にしたレトロとモダンが共存する都市であった。その自然景観は、もしここに都市がつくられなかったら間違いなく国立公園に指定されただろうに、というほど特別なものであったが、後で、実際、コルコバードの周辺は国立公園に指定されていることを知って納得した覚えがある。
 さて、そのリオデジャネイロであるが、基本的には埋立地である。今でも多くの山々に囲まれているが、昔はさらに山が多く、それらの山を潰して、海を埋め立ててつくられた。ちょっと神戸市の話を彷彿させる。
 リオデジャネイロはブラジリアをも彷彿させる。リオデジャネイロのように輝いている都市と、ブラジリアのように荒涼とした地に人工的につくられた退屈な都市のどこが似ているのかと思われるかもしれないが、両方とも首都であったという点以上の共通点が見出される。まず、都心部の重要なところは極めてしっかりとつくられているが、そのコアの周辺部にあたる郊外はまったく非計画的につくられている点が類似している。ブラジリアもルシオ・コスタが設計したプラノ・ピロートを除けば、まったく無秩序に無計画に都市が広がっているが、リオデジャネイロもレブロン海岸からフラミンゴ地区に続く海岸部からセントロへと連担している三日月のような形状の集積地の周縁部には無秩序の大都市圏が展開している。中心部だけをみれば、まさに世界都市的な風貌を有しているが、その周囲部を見渡すと、驚くようなカオス的な第三世界が広がっている。これは、クリチバなどとは大きく違う点である。また、リオデジャネイロといえばファベラで有名であるが、これらのファベラの居住者はリオデジャネイロが都市開発を進めるうえで必要な労働力としてこの都市にやってきた人達が住むために発展した。ブラジリアもまさにそうである。
 さらに、その都市部がともに世界遺産に指定されている。ブラジリアは中心部であり、リオデジャネイロはコパカバーナ海岸周辺であり、必ずしも都心とは言えないかもしれないが、東京でいえば23区以内の距離感である。こんなところに博物館や建築物といった点ではなく、面の範囲で世界遺産に指定されているとは、なんか都市そのものが人類の遺産と認められているようなものである。これは凄いことである。
 さて、その凄いことであるアイデンティティは間違いなく有しているが、この都市はまた混乱の上に混乱を築いたような都市でもある。ファベラという問題から分かるように、都心部を除けば土地利用はまったくもって出鱈目であり、また公共交通のネットワークもあまり計画的とはいえない。高速道路もすぐ渋滞で動かなくなる。治安の問題は目を覆うばかりであるが、つくづく治安の良さというのは何とも価値があるものであることをリオデジャネイロにいると感じさせられる。安全は極めて高くつくのだが、ここリオデジャネイロではどんなにお金を払っても100%の安全が買えないような印象を受ける。
 このように左脳的には、全然、評価ができないこの都市であるが、右脳的には恐ろしく惹きつけられる都市でもある。この都市の持つ官能的な魅力に抗うのはほとんど不可能だ。アントニオ・カルロス・ジョビンやカルトーラを産みだした土壌、その風土。イパネマ海岸にいけば「イパネマの娘」が、コルコバードに登れば「コルコバード」のメロディが流れる。この都市の風土には音楽が地縛霊のように響いているのである。そして、海と山々という複雑な地形が、この都市の空間に、その面積以上の豊かさをつくりだしている。
 それは人で言えば、最高のプロショーンをもった絶世の美女である。そして、性格が破綻している。理性ではこんな女性に惹かれてはいけないと思いつつも、本能的に惹かれて離れなくなってしまう。ある意味、とんでもない都市であるが、この都市がこのように奔放で無責任に振る舞えているのも、近くにサンパウロというしっかりと(あくまでも相対的ですが)理性的に活動できている都市があるからだろう。つまり、サンパウロに、すべて都市を経済的に動かすためのつまらない部分を押しつけて、自分は享楽的なものを満喫する。ありときりぎりすでいえば、サンパウロが蟻で、リオデジャネイロはきりぎりすということか。そして、人々はきりぎりすのヴァイオリンに弾かれていくのである。そして、酷い目に遭う。私もまさに、それを今回の旅行で経験したが、それは後日、アップする。

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(コルコバードの丘から都心部を展望する)

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(イパネマ海岸は、ここが大都市圏で1200万人も擁する都市とはとても思えない美しさと享楽的な雰囲気を放っている)

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(都心部のレストラン街)
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