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映画『下北沢で生きる』を観ての感想(1) [都市デザイン]

 『下北沢で生きる』という下北沢の道路問題をテーマとしたドキュメンタリー映画が今年の春頃に出された。下北沢の道路問題は、単に下北沢という地区に限定された問題ではなく、原子力発電所の再稼働問題、沖縄の基地問題などと通底する日本という国が抱える不合理が生み出した問題である。すなわち、「日本という病」に起因する問題であるのだ。
 そういうことを、この『下北沢で生きる』という映画は、クールに客観的に状況を我々に見せることで、問題の深刻さを伝えている。道路推進者にもしっかりと取材をしているところが、この道路問題の奥の深さを視聴者に知らしめる。
 この道路は一期工事から三期工事にまで分かれているのだが、一期工事は既に工事認可されている。そういうこともあって、今さら、一期工事に対して反対してもしょうがないという諦念を持っている商店の人達も多い。そういう商店の人達は、今さら反対しても無駄な抵抗だろう、と反対運動に対してもクールな対応をする人達も多い。この映画で、取材に応じてくれた人もそうである。
 ある闇市のブロックで乾物を扱っている店主は、取材に対して次のように回答している。
「街は時代の流れに沿わないと死んじゃうよ」
 これは、暗に54号線の道路整備を推進しないと駄目だろう、ということを言わんとしているように捉えられる。ただ、この店主は道路を整備することが「時代の流れ」と考えているようだが、世界的な都市計画の「時代の流れ」は、道路を自動車から人へと取り戻すことで、道路をむしろ自動車が通れないように閉鎖することであったりする。コペンハーゲンがそのフロントランナーであるが、それがもたらした大きな成果によって、世界中の都市がコペンハーゲンを真似て自動車を都心部から排除するようになっている。ミュンヘン、デュッセルドルフ、フランクフルトといったドイツのほとんどの主要都市、オランダの諸都市、スウェーデンのイエテボリやマルモといった第一陣のフォロワーに次いで、2000年を越えた後からロンドン、スペイン、フランスなどが、そして2010年に入った後は、自動車天国のアメリカでもニューヨークやシアトルなどが、自動車を排除して歩行者に都心を呼び込み、大成功をしているのだ。
 したがって、「街は時代の流れに沿わないと死んじゃうよ」というのであれば、今すぐ道路計画を中止し、道路工事をやらせないことが肝要である。下北沢という街を殺すものこそが、この54号線であることをもっと自覚すべきであろう。
 しかし、この店主は、その後取材者に向かって次のようにも言う。
「ここがなくなったら下北沢はどうなるんだろう。経堂とどこが違うんだ」と述べている。その発言に矛盾したことに気づいたのか、取材者に「矛盾しているかもしれないけど」と述べている。
 補助54号線は、下北沢の個性とアイデンティティを壊し、代わりに風土性ゼロの道路に置き換えることで、経堂と同じものへとしてしまうのである。
 道路整備側の人達は、おそらく下北沢が嫌いなのであろう。下北沢が好きな人が道路整備に賛成する筈がないからだ。そして、下北沢が嫌いな人の中には、下北沢に住み、下北沢で店を経営している人達の中にもいる。これが、問題をさらに深刻化させている訳だが、下北沢はもはや東京の数少ない都市観光資源であるということも理解した方がいいと思う。
 話が随分と横に逸れてしまったので、今日はここまでにする。

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