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『ブリキの太鼓』 [映画批評]

ドイツのノーベル文学賞作家ギュンター・グラスの処女作を映画化した作品。第二次世界大戦でまさに翻弄された作家の故郷、自由都市ダンツィヒを舞台としており、ドイツ人、ポーランド人、そしてカシューブ人との三角関係、さらには主人公の母親と従兄弟の愛人、父親との三角関係、さらには初恋の住み込みの女性、主人公、そして主人公の父親との三角関係、さらには成長を3歳で止めた主人公の奇行、戦争に突入することで高まっていく社会の狂気など、複雑な時代背景、人間関係がこの映画に何とも言えない奥行きをもたらしている。滑稽でインモラルな性の描写も多く、社会の偽善性をも含めて、これらを体験した主人公が大人となることを否定したくなった気持ちも分かるが、一方で主人公の調和を忌む自己中心的な行動は、主人公の周辺の人々を不幸に追いやっていく。主人公を肯定もせず、また否定もしない視点で物語りを編集していることで、なかなか見応えのある映像とはなっている。映像やストーリーのインパクトは強く、とても無視できない存在感を持つ映画であることは確かだ。ただ、個人的にはあまり好きな映画ではない。この物語の登場人物に通底しているのは、生きていくことの虚しさであるが、それを観察する視点が、それらを拒絶した自己中心的な主人公のものであることに、どうしても共鳴できないからである。これは、小説では続く、その後の話が映画ではカットされていることとも、そのような印象を持ってしまう理由かもしれない。


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  • 出版社/メーカー: カルチュア・パブリッシャーズ
  • メディア: DVD



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