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クリチバの建築家フェルナンド・カナーリが手がけた最近の個人住宅を観る機会を得る [都市デザイン]

クリチバの建築家で、元市長のジャイメ・レルネル氏と仕事を一緒にすることが多いフェルナンド・カナーリ氏から、最近、斬新な個人住宅を設計したので観ないかと誘われたので、クリチバ市の元環境局長である中村ひとし氏と訪れる。この住宅地はバリグイ川沿いにつくられたチングイ公園のウクライナ広場のそばにある。この地区は、この地区を含めた広域の地域を有していたウクライナ系の地主に、「バリグイ川沿いの土地を市に譲渡してくれたら、残りの土地は住宅開発できるように用途地域を変更してもいい」という市が提案した条件を呑んだことで、ウクライナ系の地主が農業用地だったところを住宅地として開発できるようになったところである。

さて、私はクリチバを最初に訪れてから今年で16年経つ。流石に16年も通っていると、その変化が分かる。特に、日々暮らしている訳でなく、一年に一回程度行くというような状況なので、むしろ断片的に変化を捉えることができるので、より変化に対して敏感になっているかもしれない。そのような私からするとチングイ公園に隣接した元農業用地の大変貌ぶりには目を見張る。10年ほど前は、ぽつぽつと建っていた住宅群が、今ではもう高級住宅地のように広がっているのである。

今回の個人住宅は、そのようなゲーテッド・コミュニティの高級住宅地の中にあった。ゲートを過ぎるとすぐその家はある。しかし、家は道からは見えない。日本であったらまずコンクリートで固められるような崖の上にその家は建つ。30度以上の坂をのぼっていくと、イグアナが出迎えてくれた。尻尾を左右に振るイグアナの後をついていくと、その家は建っていた。ユーカリを柱および梁に使った家は、その無骨なフレームであるにも関わらず、ディテールには繊細さも有しており、なかなか素敵だ。何でも施行には学生などを使ったために、建築費は通常の3分の1、しかも3ヶ月で出来てしまったそうである。そのリビングの巨大な窓からは、チングイ公園とその先にある丘が展望できる。素晴らしい借景である。さらには、車庫の屋根の上には、なんと音楽スタジオが併設されてあった。そして、屋根の上でその演奏を鑑賞できるような工夫もされている。これは羨ましい。私は高級住宅地などを訪れて、そこにプールがあったりしても全くもって羨望の気持ちが起きないのだが、この音楽スタジオにはやられた。こういう家に住んでみたい!と痛切に感じてしまった。この家の持ち主はジャーナリストである。失礼な言い方だが、ジャーナリスト程度で、こんな立派な家に住めるブラジルって何て豊かな国なのだろう。って、豊かさを享受できるのは、上の一握りの人だけなのだが、ジャーナリストもその一握りに入るのか、ということの驚きである。感心する私にカナーリ氏が君にもつくってあげるよ、と言ってくる。ううむ、金もそうだが、土地が。って、結局、金か。

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(外観)

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(リビングからの展望)

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(音楽スタジオ)

さてカナーリ氏によれば、この家は、クリチバの都市開発のコンセプト、安くて早い、そして地域アイデンティティを重視する、というものを家レベルで実現させたのだと言う。すなわち、クリチバ・コンセプトの家、ということだ。クリチバは、もうどんどん劣化が進んでいくが、このカナーリ氏のようにレルネル的DNAを次代に引き継ぐ人がいる限り、まあ、そう簡単には凡庸にはなれないなとも思ったりもする。

タグ:クリチバ
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