小田光雄の『「郊外」の誕生と死』 [書評]
ジェイン・ジェイコブスの名著『アメリカ大都市の死と生』を彷彿させる本書のタイトル。筆者の略歴も、高卒の建築雑誌の編集者であったジェイコブスと似ていて、ロードサイドショップ、出版社経営とアカデミックではなく、実業に身を置いてきている。しかし、著者の郊外を分析する視点と切り口の鋭さ、さらには凄まじいほどの郊外をめぐる博学は、そこらへんの若手社会学者(例えば東浩紀)ではとても太刀打ちできない高みにある。郊外を、ロードサイドビジネス、アメリカ、そして文学といった切り口から、その実像を浮き彫りにしていく過程はスリリングでさえあり、ぐいぐいと引きこまれるような迫力を本書は有している。そして、郊外こそ、戦後の我が国の矛盾を大きく抱えこんだものであり、その醜悪な姿こそ、我が国の戦後の鏡像であるということが本書を読むと理解できる。読み応えのある郊外研究者必読本であると思われる。