藤森照信『タンポポ・ハウスのできるまで』 [書評]
著者の藤森照信氏は、「建築探偵」として知られるお茶目の建築史家であると同時に東大の建築学科の教授でもある(最近、定年退職された)。ということで、本職は建築史の研究になるのだが、彼の凄いところは、エッセイストとしての文章力が極めて高いレベルにあることだ。そして、この本では、彼がはじめて本格的に手がけた二つの建築に関して、その構想、計画、設計、施工までを時系列に整理しているのだが、その建築のアプローチが独創的で読んでいて想像力が刺激されて、わくわくさせられる。彼はその後、建築学会の作品賞をも受賞するので、設計者としても才能豊かであることを世の中も認めることになるのだが、この本は、そのような本人も気づいていない設計者としての才能が萌芽していくプロセスも読み取ることもでき、興味深い。建築が好きになるような本である。